ニュース|政治|ガザ攻撃の惨状に、困難な課題を表明した国連事務総長

|政治|ガザ攻撃の惨状に、困難な課題を表明した国連事務総長

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1月国連施設も爆撃を受けたガザ地区を訪問した潘基文国連事務総長は、いつもの物静かな事務総長とは異なり、「国連に対する常軌を逸した極めて受入れ難い攻撃だ」として、イスラエルの「過度の暴力」を激しく非難した。

この手厳しい論評は意外であった。イスラエルが相変わらず人道法に反し、22日に及ぶ今回の戦闘で1,300人以上のパレスチナ人を殺害、それも大半が民間人であったにもかかわらず、事務総長はエルサレムで前日記者団を前に「イスラエルは責任ある国連の加盟国である」と発言していたからである。

しかし、戦闘を逃れてきた難民にとって安全な避難所であるはずの国連施設の惨状は、事務総長におそらく消し難いマイナスの印象を残したのだろう。

 先週のジュネーブでの記者会見でも、事務総長は「(ガザで)目にした光景にいらだち、うろたえ、そして怒りを覚えた」と語り、イスラエル批判を繰り返した。

イスラエルのオルメルト首相が約束した調査結果を待つ一方で、事務総長は国連施設の攻撃について捜査する独自の独立国際チームを設置するものとみられる。近々発表されるだろう。

ワシントンに本拠を置く「ミドル・イースト・レポート」の寄稿編集者モイン・ラバニ氏は「ガザ訪問の際に極めて強い口調で訴えた潘基文国連事務総長は高く評価されるべき」とIPSの取材に応えて述べた。

ラバニ氏は、事務総長は目の当りにしたことをありのままに説明し、調査とアカウンタビリティ(説明責任)の必要を説き、さらには「パレスチナ人民の自己決定権」という魔法の言葉まで持ち出したと話す。

「この数十年の歴代国連事務総長の声明の中でも最も強力なものだった」と、著名な中東政治のアナリストであるラバニ氏は評している。

ラバニ氏は、「潘事務総長は困難な課題を設定した。国連と加盟諸国にその課題を乗り越える政治的意思があるのかどうかを見据えることが必要」と述べた上で、「私にはそうは思われない」と、国連がイスラエルを罰する実効性について悲観的な見方を明らかにした。

人権諸団体の要求にもかかわらず、イスラエルは、主として政治的な理由から、そのガザ攻撃について厳格な国際調査をおそらく免れるだろう。

ワシントンにある米国平和研究所(USIP)のジェニングス・ランドルフ・プログラムの上級研究員であるデヴィッド・トルバート氏はIPSの取材に応えて、イスラエルは国際刑事裁判所(ICC)に加盟しておらず、ハーグにあるこの法廷はイスラエルに対し管轄権はないと説明した。

ICCが管轄権を行使できるのは、ICCの加盟諸国の国民もしくは加盟諸国の領土で犯罪を行った者に限られる。

「どちらも今回のケースには該当しない」と元国連事務次官で、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所の次席検察官も務めたトルバート氏は言う。

トルバート氏は、スーダンのケースのように国連安全保障理事会にはイスラエルの戦争犯罪をICCに付託する権限はあるが、その見込みがないことは明らかと指摘する。

「申し立ての犯罪が行われた領土に対し管轄権を持つ国際裁判所はほかにもない」とも説明した。

しかし「人道に対する罪については法律で普遍的管轄権を定めている国もあることに留意すべきだ。ただ、これはまったく別の問題であり、分析である」と語った。

「いくら期待して待ったとしても、自分が生きている間にイスラエルの指導者が国際法廷で裁かれることはないだろう」と言うラバニ氏は、「法律上明白であり、1940年代以降のイスラエルのほぼすべての政治・軍事指導者は終身刑に処されるあるいは銃殺刑に処されるべきという以外結論はない。しかし法律は物事の片面でしかない」と話す。

もうひとつの側面は政治だと指摘する。そして、とりわけ加害者側がイスラエルや米国である場合は、無力な人々、無防備な人々に対しシステムは不正に操作されると言い添えた。

「ICCを見ると、失墜したアフリカの軍司令官や独裁者のための国際裁判所と改名した方が良いかもしれない」とラバニ氏は冷ややかに述べた。

これまでのところ、さまざまな戦争犯罪法廷に起訴されあるいは裁判で裁かれた者はほぼ全員アフリカ人、とりわけリベリア、スーダン、コンゴ民主共和国、ウガンダ、中央アフリカ共和国の人々である。たとえば、リベリアのチャールズ・テイラー元大統領、スーダンのオマル・アル・バシール大統領、コンゴの反政府勢力元指導者ボスコ・ヌタガンダ、スーダンの閣僚アフマド・ムハンマド・ハルン、コンゴの反政府勢力指導者トマス・ルバンガなどである。

ラバニ氏は、イラクを破壊した責任者がハーグで裁かれる可能性はゼロだと話す。

「ガザ? 同じことだ。国連総会でイスラエルの戦争犯罪について調査し、起訴するための特別法廷が設置される可能性がわずかながらあると論じる人もいるだろうが、そうした動きは見られない」と言い添えた。

トルバート氏は、ガザ紛争に対する国連の措置について「この件は平和と安全保障の問題であるから、安全保障理事会にのみ意義ある行動をとる権限がある(国連憲章第7条に基づく)」と言う。

したがって、安全保障理事会は、憲章の規定に従い、平和と安定の再構築のためさまざまな行動を採り得た。

しかしいかなる行動案も、安保理常任理事国5カ国のいずれの国も拒否権を行使することなく可決されなければならなかったが、そのようなことにはならなかった、とトルバート氏は話す。

ラバニ氏は、国連内のパワーバランス、すなわち組織内の力が安全保障理事会に移行すること、そして国連内で米国とその同盟国が享受している主導権を考えると、国連は国際平和と安全保障を確保するその権限と責任を遂行するために意義ある行動をとる立場にあるとは言えないと論じる。

ラバニ氏は、さらに面倒なことは、国連が(米国、ロシア、欧州連合とともに)中東カルテットのメンバーである点だと指摘する。「その趣意は、国連の代理を務め、有意義な和平プロセスにつながり得る賢明な政策を妨害し、(英国の前首相である)トニー・ブレア氏を世界舞台にとどめておくことにすぎないようだ」

「国連がカルテットのメンバーに加わるよう強いられたことは、おそらく国連にとってこの上ない侮辱だろう。なぜならカルテットがこれまで行なってきたこと、主張してきたことは、国連憲章と直接相反するからである」と述べた。(原文へ)

翻訳=IPS Japan 

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