【ロンドンIDN=レベッカ・ジョンソン】
ここ数カ月、北東アジアでは核兵器に対する恐怖が高まっています。北朝鮮は、11月初旬から戦術核運用部隊の訓練、さらなる核実験に向けた準備、さらに韓国と日本に向けて約25種類のミサイルを発射するなど、より直接的な軍事的脅迫をエスカレートさせています。
北朝鮮のミサイルのいくつかは、通常よりはるかに韓国に近い場所(約25〜60km)に着弾したと報告され、恐怖と怒りを引き起こしました。 その背景には何があり、どのような手段を講じれば緊張を緩和し、核兵器の使用を阻止できるでしょうか。
北朝鮮は、米国と韓国が10月31日から計画・実施した空中合同訓練「ビジラント・ストーム」に反応してミサイルを発射したことを明らかにしました。北朝鮮国境に近い韓国上空で実施されたこの大規模な軍事演習は6日間にわたり、核兵器を搭載できるB-1BやF-35ステルス爆撃機など240機の戦闘機が1600回以上出撃しました。
予想通り、北朝鮮は「軍事的な軽挙妄動と挑発はもはや容認できない」と反発しました。 韓国の合同参謀本部も同様の表現で、北朝鮮のミサイル発射に異議を唱え、「わが軍は北朝鮮の挑発行為を決して容認せず、米国と緊密に協力して厳正に対処する。」と述べました。
日本の浜田靖一防衛大臣は、北朝鮮が「執拗な挑発行為を一方的にエスカレートさせている」と非難し、「北朝鮮の行動は、わが国、地域および国際社会の平和と安全を脅かすもので断じて容認できない。」と語りました。
こうしたレトリックは、その背景をあいまいにしてはなりません。1910年から45年にかけての日本の過酷な朝鮮統治、広島と長崎を壊滅させた原子爆弾の恐ろしい影響、そして1950年代の朝鮮戦争の遺産が認識される必要があります。朝鮮戦争当時、米国の上院議員らは、金日成政権下の北朝鮮軍に対して核兵器を使用するようホワイトハウスに働きかけていました。
金日成の孫にあたる現指導者の金正恩朝鮮労働党委員長は、金王朝の不安定な3代目であり、恐怖と愛国心を鼓舞するプロパガンダ、そして核の神話と偽りの約束によって北朝鮮の国民を支配しようとしています。ジョージ・W・ブッシュ米大統領が2002年の「一般教書演説」で北朝鮮をイランやイラクと並んで「悪の枢軸」と呼び、核兵器を持たないイラクに侵攻して、今日まで続く壊滅的な人道的被害を引き起こした時、正恩はまだ20歳でした。
弱い指導者にとって、核兵器は力の誇示、行動の自由、体制の存続のために魅力的に映ります。しかし、核兵器は人々を養うことも、離散家族を結びつけることも、安全をもたらすこともできません。
朝鮮戦争は、南北朝鮮の強制的な分離と、米国と北朝鮮間の不安定な休戦によって終結しました。 朝鮮半島は38度線に沿った「軍事境界線」(DMZ)によって分断され、「永続的な戦争状態」に陥ったのです。この戦争では、核兵器が米国と金王朝との間の政治的行き詰まりに大きな影響を及ぼすようになりました。
2017年に核兵器禁止条約(TPNW)が国連で交渉され採択された後の18年5月、私は韓国の女性や活動家、ノーベル賞受賞者たちとともに、韓国のソウルで「非武装地帯を超える女性たち」主催の平和行動に参加できたことを光栄に思っています。
私たちが韓国に滞在していた5月24日、ドナルド・トランプ大統領はシンガポールで予定されていた金正恩委員長との会談を突然キャンセルすると通告する書簡を北朝鮮に突き付けました(のちに撤回して米朝首脳会談は6月12日に開催された:INPSJ)。私たち6,000人以上の参加者は同日、「統一大橋」を歩いて渡り、北朝鮮の女性たちと一緒に食事をしました。
私たちが主に訴えたのは、安全保障と平和の構築という共通の利益を認識した朝鮮半島の真の平和条約であり、北朝鮮への開発援助、南北に分断された家族の再会を可能にする政治的・軍事的障壁の撤廃でした。再び「統一大橋」を渡って韓国に再入国した私たちは、韓国の文在寅大統領が私たちから僅か数キロ先の非武装地帯(板門店北側施設「統一閣」)で金正恩委員長と首脳会談したことをニュースで知りました。
しかし、この和平交渉によってもたらされた楽観論は、残念ながら長続きしませんでした。金正恩委員長は、北朝鮮にルーツを持つ韓国大統領との真剣な話し合いよりも、米国大統領のお世辞の方を望んだのです。しかし、ここから教訓を得ることはできます。
トランプ大統領には多くの欠点がありますが、彼の取引的なアプローチは金正恩委員長を取り込むための革新的な方法でした。しかし数カ月もしないうちに、トランプ大統領は現実の、あるいは想像上の軽蔑に腹を立て、米朝の不相応な2人の指導者は「私の核の方が大きい」などと主張する核の威嚇の応酬を再開しました。
各方面からの賢明な提案に対する大きな障害は、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(外交専門用語でCVID)という長年にわたる米国の強硬な、そして正直に言えば失敗したマントラ(持説)です。米国がCVIDというドグマに固執するあまり、南北朝鮮、米国、中国、日本、ロシアが参加する「6者会合」は何年も膠着状態に陥っています。
もちろん、核兵器を廃絶することは、世界全体の持続可能な安全保障のために不可欠です。だからこそ、現在、ほとんどの国連加盟国が、2021年に国際法として法的効力を持つようになった核禁条約を支持しているのです。ただし韓国で前進させるには、まず別のことが必要です。
北朝鮮の非核化は、単に指をくわえて見ているだけではだめで、朝鮮半島全体とその周辺の島や海を非武装化し、非核化するための交渉の中で行われなければなりません。
ロシア、中国、米国の関係が不安定なため、金正恩委員長が使えるカードはほとんどありません。ロシアがウクライナへの軍事侵攻でますます泥沼化しているため、北朝鮮は枯渇したロシア軍の在庫を補充するために大砲や砲弾を売却していると伝えられています。
しかし、金正恩委員長はロシアのウラジーミル・プーチン大統領のように、核による威嚇を攻撃にエスカレートさせる能力を有しています。ここで明確にしておきたいのは、戦術的な核攻撃などあり得ないということです。いかなる核兵器の使用も、戦略的に意図されたものであり、恐ろしい結末をもたらすでしょう。
まず第一歩として、南北朝鮮の女性の要求と経験に注意を払ってください。前提条件なしの平和と非核化に関する地域交渉に、すべての関係者がより建設的に関与する必要があります。
核軍縮と検証を実施するための核禁条約のツールを活用することは、政府と国民が国家安全保障を再考し、脅威となるすべての体制と兵器の非核化を開始する道を開くことにもなるでしょう。(原文へ)
INPS Japan
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