【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
「核兵器を巡る言説が変わりつつある。大量破壊兵器を製造する暗黙の許可が、政府、国会議員、都市、金融セクターによって取り消されつつある」と、冷戦後の歴史の転換点となったロシアのウクライナ侵攻を前に発表された新しい報告書は述べている。重要なのは、ロシアの侵攻が、核兵器を含む第三次世界大戦の恐怖を引き起こしたということだ。
2017年のノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と、オランダのユトレヒトにある平和団体PAXが、「リスクを拒否する:核兵器に対する101の政策」レポートを発表した。
核兵器の製造、開発、配備、備蓄、実験、使用に関わる企業への投融資を制限するポリシー(政策)を持つ金融機関101社のプロフイールを紹介している。これは、以前発表した調査と比較して24件増加している。
このうち、核兵器に投融資しないという包括的な政策を持つ59の金融機関を「栄誉の殿堂(Hall of Fame)」に入るものとし、核兵器に対する方針がそこまで厳格また明確でない42の金融機関を「次点(Runners-Up)」として分類している。
報告書によると、ますます多くの金融機関が核兵器製造企業に投融資しない政策を正当化する理由の一部に、核兵器禁止(核禁)条約を挙げている。「民間企業の核兵器プログラムへの関与に対する理解が高まってきていることと、関与している企業を排除する政策を明らかにする金融機関が増えていることには相関関係がある。」と指摘している。
核禁条約が採択される前の2016年の「核兵器にお金を貸すな(Don’t Bank on the Bomb )」レポートに含まれていた政策は54件だった。それが核禁条約採択後は77件に増え、同条約発効後は判明している政策数が100件以上に増えている。
核禁条約は、2017年7月7日、国連において、122カ国の賛成票(反対票1、棄権1)によって採択、同年9月20日に国連事務総長によって署名開放された。2020年10月24日に批准国が50カ国に達したことで条約第15条に基づき、翌21年1月22日に発効した。
報告書は、リストアップされた金融機関の数が増えているのは、金融セクター内で人類を絶滅させる可能性があるリスクに寄与する企業を回避する新たな規範が生まれつつあることを示していると強調している。「特定された政策が増加していることに加えて、そうした政策がより包括的に適用されるようになってきており、非人道的な兵器の生産を容認しないという認識が金融機関の間で広がっていることを示している。」
核禁条約は強力なインパクトを与えているようで、この報告書はその方法の一つを示すものである。3兆9000億ドル(約3964億1630万円)に上る金融機関が、核兵器産業を投融資から排除する理由として、この条約を具体的に挙げているのである。これは殿堂入りした金融機関が保有する全資産の約4分の1に相当し、14兆ドルという途方もない額が核兵器に関わる企業から遠ざけられていることになる。
報告書の著者であるスージー・スナイダー氏は、「核兵器は国際法上違法であり、投資家は核兵器の背後にある企業の実態を、危険なビジネスであると見なしている。この法的状況の変化は、すでに金融業界を変えつつある。」と語った。
企業がサステナビリティ、ガバナンス、人権関連、その他の問題への関与が疑われる場合、金融機関は問題のある企業への融資を継続するかどうか選択ができる。
このような問題企業は、活動を継続するために資金を得る必要があり、投資家の声によって問題行動を変えられる場合もある。しかし、常にそうとは限らない。そのような時に、金融機関との関係が断ち切られ、問題企業はブラックリストに掲載されることになる。「リスクを拒否する」レポートでは、約半数の金融機関がブラックリストを公表している。
このレポートに掲載する政策の特定は、同業者の推薦に基づくものである。「新しい富のかなりの割合が、環境、社会、ガバナンスの強い基準を持つファンドへの投資を求めており、核禁条約の発効とともに、核兵器製造業者を排除する政策の数は今後も増加すると推定される。」と、報告書は述べている。
また、「金融セクターは常にリスクと隣り合わせだ。少しのリスクもなければ、ほとんど報酬は得られないからだ。しかし、100以上の金融機関が、核兵器ビジネスはあまりにもリスクが高すぎ、報酬に見合わないと公言している。」(原文へ)
INPS Japan
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