ニュース安全保障理事会に亀裂、地域は緊張状態:イスラエルとイランの衝突で外交力が試される

安全保障理事会に亀裂、地域は緊張状態:イスラエルとイランの衝突で外交力が試される

「イスラエルがイランを攻撃、国連安全保障理事会は危機的な事態の激化に直面―各国首脳は自制と外交を呼びかけ」

【ニューヨーク国連本部ATN=アハメド・ファティ】

イスラエルによるイランの軍事および核関連施設への空爆が行われた数時間後、国連安全保障理事会は緊急会合を招集し、中東地域での戦争拡大の危機に直面する中、冷静さと自制を求める切迫した訴えが相次いだ。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

空爆は現地時間午前3時15分頃に開始されたとされ、標的となったのはイランのナタンズ濃縮施設、イスラム革命防衛隊の本部、レーダー施設など、核関連インフラの要所だった。イスラエル政府はこれを「差し迫った実存的脅威」への「精密かつ先制的な措置」と位置づけた。

イランは直ちに報復を開始し、100機以上の無人機をイスラエルに向けて発射、会合開催時点でもミサイルを発射しているとの報告がなされた。周辺諸国は空域を閉鎖し、軍の警戒態勢を強化。イエメンのフーシ派もこの衝突に加わり、イスラエルへのミサイル攻撃を行ったとされ、地域全体に戦争の火種が広がる恐れが高まっている。

世界的懸念と核の恐怖

Rosemary DiCarlo, Under-Secretary-General for Political and Peacebuilding-(UN Photo/Loey Felipe)

国連の政治問題担当トップであるローズマリー・ディカルロ氏は冒頭の報告で、今回の危機が地域にとどまらず世界的な安全保障をも脅かすと警告。「この火種が拡大する事態は、なんとしても避けなければなりません」と強調した。

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシー事務局長は、ナタンズの地上施設が破壊され、ウラン濃縮が停止したことを明らかにした。地下の遠心分離機施設は無傷とみられるが、停電による内部機器への損傷が懸念されている。外部への放射線漏れは確認されていないが、施設内部の汚染は「管理可能だが憂慮すべき」と述べた。

「はっきり申し上げます。核施設が攻撃されてはなりません」とグロッシー氏は強調。IAEAは24時間体制の緊急監視チームを稼働させ、追加の査察官を派遣する用意があると述べた。

理事会の反応:一致と分裂の両面

理事会では全体として事態の沈静化を求める声が上がったが、責任の所在をめぐって意見が割れた。

ロシアのワシリー・ネベンジャ大使は、イスラエルの行動を「軍事的冒険主義」と非難し、2015年のイラン核合意を崩壊させたとして米国を、また英国がキプロスの基地を通じて関与したと指摘。これに対し、英国代表は「ナンセンスで無責任な偽情報」と強く否定した。

パナマは今回の攻撃を「予見されていた死」と表現し、連鎖的な不安定化の一環と警告。中国、アルジェリア、シエラレオネ、パキスタンも、国連憲章違反となる一方的な武力行使を非難。「倫理的にも戦略的にも許されない」とし、オマーンでの米・イラン間の核協議再開が予定されていた中での攻撃を問題視した。

アルジェリアとイランの代表は、未申告の核保有国であるイスラエルが、核拡散防止条約(NPT)に加盟する非核保有国イランを攻撃するという「皮肉」を指摘。「先制攻撃が防いだものがあるとすれば、それは平和だ」とアルジェリア代表は皮肉を込めた。

イスラエルは正当防衛を主張、イランは「戦争」だと非難

Amir Saeid Iravani, Permanent Representative of the Islamic Republic of Iran- (UN Photo/Loey Felipe)

イスラエルの代表は、「イランが核兵器級のウラン濃縮を進め、我が国の滅亡を公言している以上、脅威は現実であり、昨夜は行動を起こす時だった」と述べ、自衛権の行使であると主張。IAEA査察の妨害や外交の停滞を挙げて正当性を訴えた。

一方、イランの代表は激しく反発し、「戦争犯罪」だと非難。「核施設への無謀な攻撃で数百万の命を危険にさらした」と述べ、イスラエルを「世界で最も危険でテロ的な体制」と呼んだ。

米国の微妙な立場

米国はイランの核開発に強い懸念を表明しつつも、「イランが核兵器を持つことは決して許されない」としながら、今回の空爆には関与していないと説明。ただし事前に情報は得ていたと述べた。

さらに、イランに対し米国人や米国関連施設への報復攻撃を行わないよう警告し、外交交渉への復帰を求めた。

Danny Danon, Permanent Representative of Israel to the United Nations-(UN Photo/Loey Felipe)

地域全面戦争のリスク

イラクとクウェートは主権侵害を非難。イラクはイスラエルによる自国空域の侵害を主張。クウェートは湾岸協力会議(GCC)を代表して発言し、「これ以上のエスカレーションは過激勢力の台頭を招く」と警告した。

韓国とフランスも外交の重要性を強調。ギリシャは「自衛権」を認めつつも、「持続可能な安全保障は外交と交渉によってのみ達成される」とバランスを取った発言を行った。

議長国ガイアナの訴え

安保理の議長国であるガイアナは、閉会にあたり強い調子で訴えた。「今は瀬戸際外交や責任の押し付けをしている場合ではありません。今こそ責任を果たす時です」

分析:決定的な分岐点に立つ中東

今回の空爆は、長年にわたるイスラエルとイランの対立が新たな段階に入ったことを意味する。外交の水面下の再開が報じられる中での攻撃は、かすかな信頼を打ち砕いた。

安保理が異例の一致で「緊張緩和」を訴えた背景には、単なる核不拡散だけでなく、地域戦争への拡大、ひいては大国や代理勢力を巻き込む国際紛争への発展を警戒する思惑がある。

IAEAが放射能漏れの監視を続けるなか、外交の糸は今にも切れそうな状態にある。事態が破局へと向かうか、踏みとどまれるかを左右するのは、“数日”ではなく“数時間”なのだ。(原文へ

INPS Japan/ ATN

Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/security-council-divided-region-on-edge-diplomacy-tested-amid-israel-iran-clash

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