SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)軍事費の急増が世界の貧困層向け開発援助を蝕む

軍事費の急増が世界の貧困層向け開発援助を蝕む

【国連IPS=タリフ・ディーン】

数字は衝撃的である。軍事支出が急増を続ける一方、富裕国から途上国への政府開発援助(ODA)は大幅に減少している。

国連が先週公表したファクトシートによれば、2024年の世界の軍事支出は2兆7000億ドルに達し、地球上の1人当たりでは334ドルに相当する。この額はアフリカ全諸国のGDP総額に匹敵し、ラテンアメリカ全体のGDPの半分を上回る。国連の通常予算(2024年)の750倍であり、OECDが2024年に拠出したODAのほぼ13倍でもある。

French aircraft carrier Charles De Gaulle(right)/ Wikimedia Commons
French aircraft carrier Charles De Gaulle(right)/ Wikimedia Commons

100を超える国が軍事予算を増額し、上位10カ国だけで総額の73%を占めた。国連加盟国のおよそ4分の1、世界人口の約2割を占めるアフリカ諸国の軍事支出は、合計しても世界全体の2%未満にとどまる。

この傾向が続けば、グテーレス国連事務総長は、世界の軍事支出が2030年までに3兆5000億ドルへ増え、2035年には4兆7000億ドルを超え、最大で6兆6000億ドルに達する恐れがあると警告した。6兆6000億ドルは、冷戦終結時の水準のほぼ5倍、世界の軍事支出が最も低かった1998年の6倍、そして2024年(2兆7000億ドル)の2・5倍に相当する。

国際NGO「コンシエンス・インターナショナル」のジェームズ・E・ジェニングス会長(博士)は、世界が1月1日に新年を祝うさなか、「2026年の世界の軍事予算を読めば、涙を流すほかない。」とIPSの取材に対して語った。

先ごろ公表された国連のファクトシートは、兵器や軍事費への支出が今後数十年にわたり人類にとって深刻な帰結をもたらし得ることを示している。ジェニングス氏は「それは、力と支配への渇望と、極度の貧困の中で暮らす人々が増え続けている現実への無関心との間に、巨大な隔たりがあるからだ。」と述べた。

Photo: A woman holds her new born baby in a makeshift ward at a perinatal centre in Kyiv, Ukraine. © UNICEF/Oleksandr Ratushniak
Photo: A woman holds her new born baby in a makeshift ward at a perinatal centre in Kyiv, Ukraine. © UNICEF/Oleksandr Ratushniak

ジェニングス氏は、こうした状況が続けば、清潔な水や衛生設備を欠く子どもたちが、本来は治療可能な病気に苦しみ、教育へのアクセスも乏しいままになると指摘した。「戦闘機や戦車や爆弾を買うことは、赤ん坊の口から食べ物を奪うことに直結している。毎年兵器に費やされる資金のほんの一部でも振り向ければ、世界の飢餓は数年で緩和できる」と語った。

さらにジェニングス氏は、富の世界的な偏在がグローバル・サウスを不利にしている点も問題だと述べた。とりわけ健康、特に子どもの健康は最優先事項である。軍事装備や軍事技術に比べれば、ワクチンや医薬品は比較的安価で入手可能であり、接種や治療を通じて状況を大きく改善し得るという。

教育は、人々の人生と社会を変える最も重要な鍵である。しかし、最も困窮する国々では、いまなお多くの人々に教育が行き届いていない。ジェニングス氏は、とりわけ憂慮すべきなのは軍事支出が増え続けている事実だとして、この流れが続けば将来は深刻だと警告した。

Drone credit: Public Domain.
Drone credit: Public Domain.

一方、国連のファクトシートは次の点を示している。
・2兆7000億ドルのうち、年間930億ドル(4%未満)で、2030年までに世界の飢餓を終わらせるための必要額を賄える。
・同じく2兆7000億ドルの1割強(2850億ドル)で、すべての子どもに必要な予防接種を実施できる。
・5兆ドルがあれば、低所得国および下位中所得国のすべての子どもに対し、質の高い12年間の教育を提供できる。
・軍事に10億ドルを投じると1万1200の雇用が生まれる一方、同額で教育は2万6700、医療は1万7200、クリーンエネルギーは1万6800の雇用を生む。
・軍事費2兆7000億ドルの15%(3870億ドル)を振り向ければ、途上国における気候変動適応の年間コストを賄うのに十分以上である。
・軍事に1ドルを使うと、民生部門に1ドルを投資する場合に比べ、2倍超の温室効果ガスを排出する。

Photo: A tactical nuclear weapon. Credit: Modern War Institute.
Photo: A tactical nuclear weapon. Credit: Modern War Institute.

加盟38カ国からなるOECDは、政府開発援助(ODA)が現在「著しい減少局面」にあると指摘している。米国、フランス、ドイツ、英国といった主要ドナー国が援助予算を削減しており、2024年に9%落ち込んだ後、2025年にはさらに9〜17%の減少が見込まれる。最貧国や、保健をはじめとする重要な公共サービスへの影響が懸念されている。

これは、数年にわたって続いてきた増加傾向からの急激な反転である。これまでのODA増加は、難民受け入れ費などの国内支出に支えられてきたが、政策の優先順位が転換しつつある。

Alice Slater/Green Shadow Cabinet
Alice Slater/Green Shadow Cabinet

「ワールド・ビヨンド・ウォー」および「宇宙における兵器と核戦力に反対するグローバル・ネットワーク」の理事を務め、「核時代平和財団」の国連NGO代表でもあるアリス・スレーターは、国連ファクトシートが示した昨年の軍事支出2兆7000億ドルという過去最高額について、人々の福祉や環境、気候崩壊を回避する取り組みに深刻な打撃を与えているとIPSに語った。さらに、雇用の創出や、飢餓・貧困の解消、医療や教育に必要な資金が不足するなど、連鎖的な悪影響を招いていると指摘した。

同ファクトシートは、国家による巨額の軍事支出の配分がいかに偏っているかを明らかにするとともに、その資金があれば、飢餓や栄養失調の終結、清潔な水と衛生の確保、教育、環境修復など、多くの分野で何が可能になるかを具体的に示している。

United Nations Secretary-General António Guterres addresses the high-level pledging event on the Central Emergency Response Fund (CERF) 2026. Credit: UN Photo/Mark Garten
United Nations Secretary-General António Guterres addresses the high-level pledging event on the Central Emergency Response Fund (CERF) 2026. Credit: UN Photo/Mark Garten

グテーレス国連事務総長は先週、世界の指導者に向けたメッセージの中で、次のように訴えた。

「新年を迎え、世界は岐路に立っている。混乱と不確実性が私たちを取り巻く中、人々は問いかけている。指導者は本当に耳を傾けているのか。行動する用意があるのか、と。」

「いま、人間の苦しみの規模は甚大である。人類の4分の1以上が紛争の影響下にある地域で暮らしている。世界で2億人以上が人道支援を必要とし、約1億2000万人が、戦争や危機、災害、迫害から逃れ、強制的に移動を余儀なくされている。」

「激動の年を越えてページをめくる中で、ひとつの事実が言葉以上に響く。世界の軍事支出は2兆7000億ドルへと膨れ上がり、ほぼ10%増加した。」

一方で、世界の人道危機が深刻化する中、現在の傾向が続けば、軍事支出は2024年の2兆7000億ドルから、2035年には驚異的な6兆6000億ドルへと2倍以上に増えると見込まれている。データによれば、2兆7000億ドルは世界の開発援助総額の13倍に当たり、アフリカ大陸のGDP総額に等しい。

グテーレス事務総長は「この新年、優先順位を正す決意をしよう。より安全な世界は、戦争に投資するのではなく、貧困との闘いに投資することから始まる。平和が勝たねばならない。」と呼びかけた。

The United Nations Headquarters as seen from First Avenue in New York City. Credit: UN News/Vibhu Mishra
The United Nations Headquarters as seen from First Avenue in New York City. Credit: UN News/Vibhu Mishra

事務総長は2025年9月、2024年の「未来のための協定(Pact for the Future)」を受け、加盟国の要請に基づいて、世界の支出構造の深刻な不均衡を明らかにする報告書を公表した。題名は「必要とされる安全保障:持続可能で平和な未来のための軍事支出の再均衡(The Security We Need: Rebalancing Military Spending for a Sustainable and Peaceful Future)」である。同報告書は、世界的な軍事支出の拡大がもたらす難しいトレードオフを検討し、平和と人々の未来への投資を強く訴えている。

グテーレス事務総長は「世界には、人々の暮らしを引き上げ、地球を癒し、平和と正義の未来を確かなものにする資源があることは明らかである」と述べた。そのうえで、「私は2026年、あらゆる指導者に呼びかける。本気で取り組め。苦痛を拡大させる道ではなく、人と地球を選べ。」と訴えた。

「この新年、共に立ち上がろう。正義のために。人間性のために。平和のために。」(原文へ

Image: A NASA image of the Earth. Public Domain.
Image: A NASA image of the Earth. Public Domain.

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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