【国連IPS=タリフ・ディーン】
米国トランプ政権が職場での公平な待遇を促進するための取り組みであった「DEI(多様性、公平性、包括性)」を放棄したことが、国連にも波紋を広げている。
米国は現在、国連機関に対し、歴史的に差別を受けてきた少数派、特に女性を保護するDEIの撤廃を求めて圧力をかけている。すでに少なくとも1つの国連機関が米国からの介入を受けて、DEIに関するセクションを全面的に削除した。また、いくつかの国連機関が、DEIに言及しているウェブサイトの記述を削除しているとの報告もある。

米国の脱退や資金削減の脅威に直面し、一部の国連機関はトランプ政権に迎合する姿勢を見せている。米国はすでに国連人権理事会や世界保健機関(WHO)からの脱退を決定しており、ユネスコ(UNESCO)やパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)も「再調査」の対象になっている。
先週、米国は国連人口基金(UNFPA)への3億7700万ドルの資金を削減したことが確認され、女性や少女に「壊滅的な影響」が及ぶと懸念されている。
さらに、複数の共和党議員が「アメリカ・ファースト」政策に反するとして、米国の国連脱退を求める法案を提出し、国連に対する脅威が強まっている。
3月13日、国連女性の地位委員会(CSW)年次会合のサイドイベントで、米国の経済社会理事会(ECOSOC)臨時代表であるジョナサン・シュライアー氏は次のように発言した。
「米国は国連において女性のエンパワーメントを擁護し続けていますが、女性の成果を損なうような“ジェンダー概念”の再定義には断固反対します。我々は、男女の生物学的・社会的な違いを認識し、称える政策を推進しており、必要であれば投票を求めてでも“アメリカ・ファースト”外交政策を推進します。」
『UN Dispatch』によれば、CSW開催前から米国は会議文書中のジェンダー平等への言及に反対し、「トランプ政権のDEIに関する大統領令に矛盾する」との理由で、会議全体を妨害しようとしたと報じられている。つまり、ジェンダー平等をテーマとする会議で、その言及すら妨げようとしたのだ。
今年1月に発令されたホワイトハウスの大統領令によると、行政管理予算局(OMB)の長官は「DEIや包括性(DEIA)に基づくすべての差別的なプログラム、政策、優遇措置、活動の終了を調整する」とされている。
国連人口部元部長であるジョセフ・チャミー氏は、「米国が国内でDEIを放棄する決定をしたことは、国連にとって深刻な影響を及ぼす」とIPSの取材に応じて語った。特にこの動きは、米国と国連の関係を再構築するだけでなく、国連機関全体の政策や実践にも影響を及ぼすと指摘している。
チャミー氏は、「多様性と能力主義のバランスをどう取るかは、多くの国や国連にとって重大な課題である。これは、民族、人種、言語、宗教、出自などに関するカテゴリーが偏見に基づいて使用される中で、より困難になっている。」と語った。
教育、雇用、移民、司法、軍、政治、スポーツなどさまざまな分野で、各国は多様性を優先するか能力主義を強調するかについて難しい判断を迫られており、米国と同様にDEIに懸念を抱く国々は、トランプ政権の姿勢に共感し、国連でのDEI推進を後退させる動きに賛同する可能性があるとの見方も示された。
『PassBlue』によれば、米国代表団はUN Women、UNICEF、WFP(いずれも米国人がトップ)などの理事会に対して、DEIに関する文言の削除を求めているといいます。
国連人口基金(UNFPA)の元副事務局長であり、現在はPathfinder Internationalの社長兼CEOを務めるプルニマ・マネ博士は、「米国のDEIからの撤退が、同国の支援に依存する他の団体にも波及し、慎重な姿勢を取るようになっている。」と語った。
ちょうど第69回CSWの開催時期にこうした動きが起きていることは、非常に皮肉だとしつつ、「DEIという言葉が変わったとしても、その根底にある理念と価値は国連の基本であり、守られなければならない」とマネ博士は強調した。
「国連加盟国は、DEIへの抵抗が国連の理念そのものを脅かす可能性があるという点について、率直に議論を行う必要がある。“自国第一”を掲げることが、共通の合意に基づく尊重の精神を忘れることにつながってはならない」と彼女は訴えた。
一方、ジュネーブにある国連貿易開発会議(UNCTAD)のエコノミストで、国連職員労働組合の元代表であるイアン・リチャーズ氏は、「国連がDEIを放棄しているというのは正しくない。」と語った。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、性別、人種、障害、出身地域、年齢、性自認に関する画期的な取り組みを推進し続けており、採用における目標設定、義務的研修、報告制度の導入など、具体的な措置が取られている。
2025年夏には、ポルトガル政府主催によるDEIに関する国際会議がリスボンで開催され、さらなる強化策が議論される予定だ。また、グテーレス事務総長は、職員がメール署名で自身の代名詞を選択する権利を認めるなど、多様性の尊重を継続している。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN BUREAU
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