SDGsGoal1(貧困をなくそう)国連が米国の貧困に関する衝撃的な事実を暴露

国連が米国の貧困に関する衝撃的な事実を暴露

【トロントIDN=J・C・スレシュ】

米国国民の8人に1人(約4000万人、全人口の12.7%に相当)が貧困下にあり、そのうち約半数にあたる1850万人が極度の貧困状況にあるとの報告書が出された。

米国は世界で最も豊かで、影響力があり、技術革新の進んでいる国の一つだが、「その富も権力も技術も、この状況に対処するために利用されていない。」とフィリップ・アルストン教授は語った。アルストン教授は「極度の貧困と人権に関する国連特別報告官」であり、この発言は全米における2週間の実情調査の任務を遂行した後の調査結果発表においてなされた。

Philip Alston/David Shankbone, CC BY-SA 3.0

国際法学者であり人権活動家もでもあるアルストン氏は、ニューヨーク大学法科大学院ジョン・ノートン・ポメロイ記念教授であり、同大学校の人権・グローバル正義センターの共同センター長を務めている。

国連人権高等弁務官事務所が12月15日に発表したアルストン教授の報告書は、米国における若者の貧困率は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも最も高く、米国も現加盟国であるOECDの平均14%以下に対して、米国の若者の25%(4人に1人)は貧困下にあるという。

米国における貧困の程度については多くの議論があるが、アルストン教授は、今回の実情調査に際して、主に米国勢調査局が作成した政府の公式統計を利用している。米国勢調査局は、国内における貧困を定義し数値化するために、貧困閾値 (しきいち)あるいは公的貧困率(OPM)を利用している。この報告書で言及されている数値は2017年9月現在のものだ。

OECD加盟国の中では、貧困と不平等の点で米国は37カ国中35位にランクしている。「スタンフォード貧困と不平等研究センター」は米国の現状について、「児童貧困を比較するカテゴリーにおいても、明確かつ継続的に異常値を示している」と指摘している。米国の児童貧困率は、カナダ・英国・アイルランド・スウェーデン・ノルウェー・米国のうち、もっとも高い。

報告書は、米国において衝撃的なほど多くの子どもたちが貧困下に生きている現状を明らかにした。2016年、児童の18%(約1330万人)が貧困下にあり、貧困下にあるすべての人々のうち児童は32.6%を占める。児童貧困率は南部諸州で高く、ミシシッピー州・ニューメキシコ州で30%、ルイジアナ州で29%であった。

UN Human Rights
UN Human Rights

ステレオタイプな見方には反して、貧しい子どもの31%が白人であり、24%が黒人、36%がヒスパニック、1%が先住民となっている。乳幼児の場合では、黒人の42%が貧しく、ヒスパニックは32%、先住民は37%となっている。白人の場合の数値は14%であった。

アルストン教授はまた、米国の貧しい子どもたちが、住宅ローン危機後の賃貸の急騰によっても大いに影響を受けている事実を指摘した。ホームレスを経験した人々の約21%が児童だ。「報告によると、こうした子供たちのほとんどが保護施設で雨露をしのげているとされるが、経済面の不安定さ、高い強制退去率、頻繁な移動等により、教育や心身の健康面で悪影響を被っている。」

アルストン教授は、貧困の「人種的」側面について、「アフリカ系米国人であれ、ヒスパニック系の『移民』であれ、従来、貧困は圧倒的に有色人種の問題だとみなされてきました。しかし、現実には黒人よりも白人の貧困者の方が800万人も多いのが現状です。」と語った。

Map of USA
Map of USA

アルストン教授は、今回の実情調査の期間中に聞き取りをした一部の政治家や行政官が「(公的支援の対象になっているのは)フカフカのソファに座って、カラーテレビを見、スマートフォンをいじりながら、そのすべてが福祉によって賄われている詐欺師のような連中、という見方に完全に囚われていた。」と回想している。

しかし、アルストン教授が米国各地で出会った、「貧困下に暮らす4000万人」に属する人々は、同教授いわく「圧倒的に」貧しい環境で生まれたか、或いは、身体・精神障害や、離婚、家庭崩壊、病気、老齢、低賃金、労働市場における差別などの、自らではどうしようもない状況によって貧困に追い込まれた人々であった。

アルストン教授は、「現在の米国における貧困の顔は、黒人やヒスパニックだけではなく、白人やアジア人、その他多くの有色人種も含まれる。」と語った。また貧困層は「特定の年齢集団に限られたものではない。」と指摘したうえで、「自動化とロボット化により、多くの中年層の労働者が、かつては安全だと思っていた雇用から投げ出されている。」と語った。

21世紀型経済においては、自らどうしようもない不運の結果として貧困に陥る可能性から逃れられるのはごく一部の人々に限られている。「米国がどの豊かな国よりも社会的流動性が低くなっている中で、アメリカンドリームはアメリカン・イリュージョン(幻想)と化しています。」とアルストン教授は語った

アルストン教授はまた、「多くの統計が、貧困層の中でもとりわけ女性が、大きな負担を強いられている現状を浮き彫りにしている。例えば、彼女たちはより頻繁に暴力や性的嫌がらせに晒されており、労働市場においても差別されている。」と語った。

アルストン教授は、ミシガン大学ソーシャルワーク大学校のルーク・シェーファー氏とハーバード大学ケネディスクールのキャスリン・エディン氏による調査を引用して、「シングルマザー世帯で年間を通じて極度の貧困状況にある児童の数は、1995年には10万人弱であったものが、2011年には89万5000人、2012年には70万4000人へと急拡大している。」と語った。

「しかし、恐らく最も認識されていない問題は、国が提供するサービスを縮小する緊縮政策の当然の結果として、家族の面倒を見る世帯主の双肩にその負担のしわ寄せがかかるということであり、それは圧倒的に女性であるということだ。男性優位の立法府は、自らが決めた福祉削減の結果にほとんど注意を払うことをしない。」とアルストン教授は語った。

この国連専門家は、もっぱら貧困層にのみ影響を及ぼす問題についても指摘している。それは、裁判を待つ間に身柄の拘束を解かれることを望む被疑者に対して巨額の保釈金が設定されている問題である。

「米国では年間で約1100万人が地方の拘置所に収監されており、1日あたりでは73万人以上が身柄を拘束されている。そのうち約3分の2が公判待ち、つまり推定無罪(被告は、法廷で有罪と証明されるまで推定無罪と見なされる)の人びとだ」。

「しかし、裁判官は次第に巨額の保釈金を課すようになってきている。つまり、裕福な被疑者は(保釈金を払って)自由を得る一方で、貧しい被疑者は拘置所に留まり続けるということだ。その結果、彼らは仕事を失い、子どもの面倒を見続けることができず、家賃が支払えず、さらなる貧困に落ち込むことになる。」とアルストン教授は記している。

しかし、唯一の救いは、保釈金の廃止を訴える大きな運動が盛り上がっていることだ。司法制度が貧困層に対してきわめて不相応な影響を及ぼしていることを懸念するすべての人々がこの運動に加わる必要がある。

この国連専門家はまた、たとえば罰金支払いの遅延など、幅広い非交通犯罪に関して自動車運転免許の停止処分が広く行われている事実を指摘した。「これは、深刻な状況にある公共交通への投資を頑なに拒否している自治体に住む貧しい人々に、債務を返済するための生計の手段を失わせる完ぺきなやり方です。(免許証を停止された人に)残された道は2つしかありません。つまり、極度な貧困に甘んじるか、或いは、より厳しい刑罰を受けるリスクを冒して無免許運転をするかです。」とアルストン教授は語った。

SDGs Goal No. 1
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アルストン教授はまた、「貧しい人々を悪者と見なすやり方は様々です。」「多くの貧しい人々が、そうした観点を踏まえたうえで、本来の権利があるはずの国の支援を申請することを潔しとせず、見通しの暗い生存への闘いに果敢に挑んでいるのです。」と語った。

すでに大きい人種間の格差が、多くの文脈において固定化され、さらに悪化している、とアルストン教授は指摘する。彼がアラバマ州の地方で実地調査を行った際、下水処理システムが崩壊したか、或いはそもそも存在しないために未処理の汚水が流れ出た水溜りに囲まれて生活している様々な世帯を見たという。州保健局は、深刻な健康上の問題があるにも関わらず、どれくらいの世帯がそうした状況で生活しているか把握していなかった。しかも、その状況に対処するための計画を検討したり策定したりする予定もなかった。

「しかし、白人の圧倒的多数は、政府が設置・管理している下水システムを利用できる都市部に住んでいる。ローンデス郡のような地域の住民は黒人であるために、問題が政治や政府のレーダースクリーンに現れる(=関心を引く)ことはない」と国連報告書は述べている。(原文へ

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