地域アジア・太平洋「核兵器なき世界」推進のカギを握る2016年

「核兵器なき世界」推進のカギを握る2016年

【ベルリン/ニューヨークIDN/INPS=ジャムシェッド・バルーア】

セミパラチンスク核実験場の閉鎖25周年、すべての核実験を禁止する条約の署名開放、国際司法裁判所による全員一致の勧告的意見からそれぞれ20周年を迎える今年2016年は、重要な節目の年となる。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は3月2日、「これらの歴史的な出来事は、核兵器の世界実現に向けてすべての国の努力を結集する重要な機会となります。」と同国に駐在する大使とアスタナで開いた会合の席上で述べた。

Kazakh President Nursultan Nazarbayev addressing the UN General Assembly in September 2015 | Credit: Gov of Kazakhstan
Address by His Excellency Nursultan Kazakh President Nursultan Nazarbayev addressing the UN General Assembly in September 2015 | Credit: Gov of Kazakhstan

「ポリゴン」としても知られるセミパラチンスク核実験場(STS、あるいは「セミパラチンスク21」と呼ばれる)は、旧ソ連の主要な核実験場であった。ソ連は、1949年から89年にかけてセミパラチンスクで456回もの核実験を行ったが、地元住民や環境に及ぼす影響は顧慮されなかった。放射線被ばくの全貌は長年にわたってソ連当局によって隠蔽され、実験場が1991年に閉鎖されてようやく表に出るようになった。

1996年から2012年にかけて、カザフスタン、ロシア、米国の核科学者・技術者が密かに行った調査に基づいて、廃棄物となったプルトニウムを山岳地帯の地下トンネルに封鎖した。

包括的核実験禁止条約(CTBT)が1990年代にジュネーブで交渉され、1996年に署名開放された。183カ国が署名しており、うち164カ国は批准も済んでいる。その中には、フランス、ロシア、英国の3核兵器国も含まれている。

しかし、CTBTが発効するには、核技術を持つ44の特定の国が署名・批准を完了しなくてはならない。このうち、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国の8カ国がまだ締約国でない。インド・北朝鮮・パキスタンは署名すらしていない。

包括的核実験禁止条約機構(CTBTO、本部ウィーン)のラッシーナ・ゼルボ事務局長は、2006・09・12・16年と4回の核実験を強行した唯一の国である北朝鮮や、国際社会に挑戦するその他の国を含め、すべての国に対して、CTBTが発効して法的拘束力を持つものになるようにするために、あらゆる手段を尽くしている。

実際、カザフスタンと日本は、「誰によっても、地球の表面、大気圏、水中、地下のどこでも」核爆発を禁止するこの条約の発効を促進ために協力してきている。

国際司法裁判所(ICJ)が1996年に勧告的意見を出してから20年が経ったが、目指された目標の達成に向けてほとんど進展はない。

「厳格かつ効果的な国際管理の下でのあらゆる側面における核軍縮につながるような交渉を誠実に追求し妥結をもたらす義務が存在する」と、国連の主要な司法機関であるICJは1996年の勧告的意見の中で宣言している。

これが実行に移されなかったことが、マーシャル諸島共和国(RMI)がオランダ・ハーグにあるICJに訴えて、9つの核兵器国(米・露・英・仏・中・イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)に軍縮義務を果たさせようとしている理由だ。

マーシャル諸島共和国は2014年4月に9つの核兵器国すべてに対する訴訟を提起したが、これは、世界の最高裁判所たるICJに対して持ち込まれた、核軍縮に関する初めての案件である。しかし、米・露・中・仏・イスラエル・北朝鮮はICJの強制的管轄権を受諾していないため、訴えを無視している。その結果、「強制管轄権」を受諾していたインド、パキスタン、英国のみが提訴を受け入れることとなった。

Photo: Proceedings instituted by the Republic of The Gambia against the Republic of the Union of Myanmar on 11 November 2019. Source: ICJ.
Photo: Proceedings instituted by the Republic of The Gambia against the Republic of the Union of Myanmar on 11 November 2019. Source: ICJ.

ICJは、3月7日に始まった公聴会を3月16日に終わらせた。今後は、ICJがこの件に関する管轄権を有するかどうかを決定することになっている。その決定が下されるまでに数か月はかかる見通しだ。

ICJの公聴会に先んじて、ジュネーブにおいて2月22~26日の日程でオープン参加国作業部会が開催されたが、核兵器軍縮における停滞を打破するには至らなかった。核武装国は審議に加わらなかったが、核兵器に依存する一部の国々(多くのNATO諸国や、日本、韓国、オーストラリア)は参加した。

こうしたことを背景に、カザフスタンのナザルバエフ大統領は、主要な核兵器国は核兵器削減の最初の模範を示すべきだと訴えた。

ロシアのタス通信はこう報じている。「核兵器の保有ではなく核実験の削減について議論することは、世界がテロへの恐怖心に捕われている時代にあっては時宜を得ており、核兵器国、とりわけ『核五大国』は、まずはじめに、この問題で模範を示すべきです。そうでなければ、これらの国々のみが核兵器を保有しその近代化を推し進める一方で、他の国々には核保有を認めないという結論を導くことになりかねません。もしそういうことになれば(現在のNPT体制は)『間違っている』ということになります。」

ICAN
ICAN

ナザルバエフ大統領は、さもなくば、「20の(核兵器保有まであと一歩の)「核敷居国」が自国の防衛のために核兵器保有を望むことになるでしょう。」が、それは「きわめて危険な流れです。」と指摘したうえで、「世界の全ての国が連帯して、この(=核軍縮の)方向に進むべきです。」と語った。

タス通信によれば、カザフスタンは「核不拡散体制の強化に一貫して貢献してきた」とナザルバエフ氏は述べたという。同国は、イラン核計画に関する国際協議で、合同行動計画の履行などの点で実質的な貢献をなし、それを支援してきた。

「カザフスタンは12月、イランが低濃縮ウランを除去したことへの代償として、同国に60トンの天然ウランを輸送した」とカザフスタン大統領は述べ、こう付け加えた。「これが、核不拡散体制の強化、原子力平和利用開発への諸国の正統な権利の履行、核燃料への非差別的なアクセスを確実にすることになると、確信しています。」

カザフスタンが核軍縮・核不拡散の頑強な推進役と広く見なされてきたのは、こうした取り組みのためだ。同国の最近の成果としては、国連総会での決議に加え、「核兵器のない世界の達成に関する普遍的宣言」がある。

ナザルバエフ大統領は、2010年4月にワシントンで開催された第1回核保安サミットにおいてこうした宣言の採択を提案した。2015年12月7日に採択された宣言は、カザフスタンが同年10月に提案した草案を基礎としている。35カ国が共同提出国になり、133カ国からの支持を得た。

今年の核保安サミットは、ワシントンDCで3月31日~4月1日の日程で開かれる。ホワイトハウス報道官は、今回のサミットの狙いについて、「同サミットは、進化する脅威に関する議論を継続し、高濃縮ウラン使用を最小化するために一致して取りうる措置に焦点を当て、脆弱な物質を確保し、核の密輸に対抗し、核テロの試みを抑止・探知・妨害するであろう。」と語った。

声明はこうも述べている。「米国は、包括的で、国際基準に則り、各国の核安全政策履行への信頼を築き、核兵器に使用可能な物質の世界的な備蓄の減少につながるような、グローバルな核安全の仕組みの強化を追求している。核安全のための基準を集団的に強化するための協力を進める前に核テロリズムが起こってしまうのを座して待つような余裕は、私たちにはない。」(原文へ

翻訳=IPS Japan

関連記事:

UNIDOとCTBTO、2030年までのジェンダー平等目標への支持を表明

日本・カザフスタン、核実験禁止条約発効へ外交努力

国連、放射線被ばくの健康への影響を過小評価

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
IDN Logo
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
Kazinform

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken