ニュース国連の研究所、グローバルな核不拡散体制強化を訴える

国連の研究所、グローバルな核不拡散体制強化を訴える

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連の枠内で独立して軍縮に関する研究を行っている国連軍縮研究所(UNIDIR:ジュネーブ)は、「広島長崎への原爆投下以来、核兵器が使用されていないからといって、そのこと自体が、今後も核兵器がほぼ使用されないと考える根拠にはなりえない。」と警告している。

1945年8月6日と9日に米国が原爆を投下した広島と長崎は、核兵器の使用が人間に及ぼす恐るべき影響を今日に伝える日本の被爆都市であり、こうした大量破壊兵器が再び使われるようなことがあれば残虐な帰結が待っていると警鐘を鳴らし続けている。

広島・長崎の惨劇がその後繰り返されていないという事実をもってしても、人類を悩ませ続けている核兵器のリスクに関する将来への不安が取り除けるわけではない。『核兵器のリスクを理解する』と題された報告書は、核兵器のリスクに対する理解を困難にしている要素について、「核兵器が抑止ドクトリンにおいて果たす決定的な役割や、複雑なシステムの相互作用、『想定外』の事態が起きる可能性、備蓄核弾頭の老朽化に伴う影響等に関連した未知数が、考えられる。」と指摘している。

ジョン・ボリー氏、ティム・コーリー氏、ウィルフレッド・ワン氏が編集したこの報告書は、「核抑止は、それが機能しないと証明されるときまでは機能する。」と論じたうえで、「核兵器には(核爆発の)リスクは本来備わっているものであり、運が尽きれば、壊滅的な結果を招くものになる。抑止理論を現実に適用することで加速する軍備競争は、それ自体が尽きることがないダイナミズムを生み出す。とりわけ不安定な社会状況にある国で兵器が生産されればされるほど、核兵器がテロリストによって奪取されたり使用されたりする可能性が高くなる。」と指摘している。

Kim Jong Un, with what North Korea claims is a miniaturized silver spherical nuclear bomb, at a missile factory in early 2016. /Wikimedia Commons.

報告書はまた、「核抑止は『コミットメント・トラップ』というパラドックスも生じさせている。」と指摘している。報告書の著者らは、米国とその同盟国が北東アジアで直面している脅威、とりわけ北朝鮮からの脅威を米国の核の傘で抑止しようとしても、北朝鮮の態度を変えることはできない(=核使用の威嚇は機能しない)とみている。かといって、北朝鮮に対して核を使用することは核抑止の精神そのものに反することから実行されない。つまり、「核使用というオプションは信憑性に欠け、不必要なもの」と論じている。

報告書はまた、「しかし、米国の核の傘を弱めれば、敵国によるさらなる冒険主義や同盟国への核の拡散を引き起こしかねない。この難問を解くには、安定的で、協調的で、ビジョンを持ったリーダーシップを必要とする。しかし、主要国がますます内向きになる中、今日、この種のリーダーシップは悲しいほどに欠如している。」と論じている。

UNIDIRの研究は「核兵器と核兵器システムへの相当規模の投資とその近代化は、意図的あるいは不注意による核爆発の可能性を減じるのではなく、むしろ高めている。」と結論付けている。

報告書のその他の知見は以下のようなものだ。

・核兵器プログラムに伴う秘密主義は、核爆発のリスクに関する評価を行ったり説明責任を果たしたりするうえで障害となっている。

・過去に核攻撃を警告するシステムの誤作動を確定し解決した事例では、いずれも人間による判断が重要なカギを握った。自動化されたシステムにより依存すれば、過剰な自信につながり、(核戦争につながる)新たな脆弱性を生み出すことになりかねない(「隠れた相互作用」の問題)。

・技術の進歩は、核爆発を実際に引き起こすためにテロリストやその他の集団が実際の兵器を直接入手する必要性を低めていることを示唆している。

・核爆発のリスクは核兵器に本来的に備わっている特徴である。このリスクを完全に除去する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ。

この研究は、すべての国家に対して、既存のグローバルな核不拡散・軍縮レジームを履行する努力を強化すること、学者や民間部門のような市民社会と連携することも含め、国内の安全・安全保障・保安の文化を強化すること、より透明性を確保し、コミュニケーション及びその他の信頼醸成措置の強化を通じて、国際安全保障環境における緊張状態に対処すること、を求めた。

ICAN
ICAN

著者らは、核保有国が「報復攻撃を引き起こしかねない誤認を避けるために、とりわけ外国に配備されているものに関して、既存の核備蓄と運搬システムに関する情報を交換する努力にあらためて焦点を当てる」ことを促している。

同研究はさらに、「核弾頭を搭載したミサイルの警戒レベルを低めたり、『警告即発射』態勢を解除することも含めて、危機状況における政策決定者の決定時間を引き延ばす行動」を取ることを求めた。

UNIDIRの報告書は、核保有国に対して、事態を一層曖昧にしかねない空中発射巡航ミサイルのような新たな核運搬システムの開発を控えること、核オプションの敷居を下げたり限定的核戦争の実行可能性を示唆したりするようなレトリックの使用を避けること、核兵器システムのあらゆる層における脆弱性を査定するサイバー安全保障を強化するために段階的なアプローチを取ることを求めている。

核保有国はまた「安全上の考慮を優先し運用上の不確実性を徹底的に調査するために、国内の核兵器施設に対する一定の独立した監視・統制レベルを確保」し、「非民生事業における核分裂性物質の83%を含めた核セキュリティー政策を拡充すべき。」と報告書は訴えている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

関連記事:

|国連|核兵器禁止条約に向け大きな第一歩

|視点|核軍縮は人類共通の大義

|長崎国際会議|ユース非核特使、核兵器のない世界を求める

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken