【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】
ドナルド・トランプ大統領が発表した2018年会計年度(2017年10月-18年9月)予算案については、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、国連分担金の削減計画を強く批判する一方、米国国内でもユダヤロビー団体のリーダーが、「外交に対する危険な偏見」を示すものであり、「米国とイスラエル、いずれの国民の利益にもならない」と警告している。
こうした痛烈な批判を展開しているのは「Jストリート」のジェレミー・ベンアミ会長である。Jストリートは、「プロ(=親)イスラエル、プロ・ピース」を掲げ、「イスラエルが安全で、民主的で、すべてのユダヤ人の故郷であることを望むユダヤ系米国人のロビー団体である。
トランプ大統領の2018会計年度の予算案は、外交や対外支援関連の予算を削減する一方で、イスラエルへの軍事支援に31億ドルを充てている。
ベンアミ会長は声明の中で、「この予算案は、もし実行されれば、米国の影響力と安全を損ない、世界中の弱い立場の人々に無数の苦しみを与えることになるだろう。」と指摘したうえで、「世界のリーダーとしての米国の役割とイスラエルに関心をもつすべての人々が、この予算案に厳しく反対すべきだ。」と警告した。
一方、グテーレス事務総長は、テロ対策関連支出を拡大し国防費を540億ドル引き上げるとしているこの予算案に関して、3月16日にステファン・ドゥジャリク報道官を通じ、「テロに効果的に対処する必要性は認めるものの、それには軍事支出以上のものが必要です。」と懸念を示した。
グテーレス事務総長はさらに、「紛争予防や紛争解決、暴力的過激主義への対抗措置、平和維持活動、平和構築、持続可能で包摂的な開発、人権の向上と尊重、人道的危機への適時の対応を通じて、テロの根本原因に対処する必要もあります。」「国際社会は、強力で効果的な多国間システムによってはじめて対処できるような、大きな世界的難問に直面しています。国連はこれに関して根幹となる柱であり続けている。」と述べている。
グテーレス事務総長はさらに、「米国およびその他の加盟国と、共通の目標と価値を追求するために、より費用対効果が高い組織へと国連を改革する最善の方策について議論する用意がある。」と強調している。
国連が目的にかない、最も効率的で費用対効果がある結果を出すようにするために、グテーレス事務総長は2月14日、自身が昨年に国連事務総長に指名された際に提示していた、国連事務局の平和安全保障分野の戦略、機能、構造の改革を進めるため、内部審査チームを発足させると発表した。
2月14日に国連事務総長室が発表した声明によると、国連で数多くの要職を歴任したタムラート・サミュエル氏がチームを率いる。内部審査チームは、6月までに事務総長に勧告を提出することになっており、国連加盟国や関連機関との協議プロセスが始まることになる。
グテーレス事務総長は、こうした内部審査の成果が出るまでの間、平和・安全保障分野で活動する高官らの任務は来年4月1日まで維持されると述べた。
米国の国連拠出金の規模は、国連の一般予算の22%および、再検討の過程にある16件の平和維持活動関連予算の28%以上にあたる。グテーレス事務総長は、同声明のなかで、「最大の財政支援国として、米国が長年にわたり国連に行ってきた支援に感謝しています。私は、国連が目的にかない、最も効率的で費用対効果がある結果を出せるよう国連改革に取り組んでいきます。」と約束するとともに、「しかし、急激な財政削減が行われた場合、臨時の措置を採らねばならず、それは長期的な改革努力の効果を損なうことになるだろう。」と付け加えた。
ベンアミ会長は、トランプ大統領の2018会計年度の予算案は、外交や対外支援関係を削減する一方で、イスラエルへの軍事支援に31億ドルを充てていると指摘し、この削減は「無責任で危険なもの」と警告した。
「この予算案の青写真は、(トランプ政権の)孤立主義的な世界観と、多国間外交を犠牲にして問題解決のために軍事力に依存する傾向を体現しています。私たちは、すべての政党の議員に対して、死活的な支援分野における強権的な予算削減を拒否すべきだと強く訴えています。」とベンアミ会長は語った。
長年にわたって、Jストリートを含む多くの親イスラエル団体が、米国の対外援助予算が全体として削減される中でも、対イスラエル支援だけは例外として扱うよう論じてきた。しかしベンアミ会長は3月16日に発表した声明の中で、「私たちはあらゆる政治組織における親イスラエル派に対して、米国の対イスラエル支援という従来の枠を超えて、対外支援全般を再び活発にするために共闘していくよう呼びかけています。」と述べている。
ベンアミ会長はその理由として、「すでに他の先進国よりも対GDP比で下回っている米国の対外支援をさらに弱めることは、イスラエルの安全保障も同様に損なうことになる」と論じている。
予算案は、国務省や国際開発事業関連の予算を28%という壊滅的な幅で削減し、国連や人道支援、文化交換プログラムについても大胆に削減している。
「これによって、すべての米国民・イスラエル国民に影響を与える戦略的重要性を持つ問題に関しても、同盟国や国際社会と協調して活動する米国の能力に深刻な影響が出てくるだろう。もっとも基本的な『人間対人間』というレベルにおいて、世界と米国との絆は失われることになる。」とベンアミ会長は警告している。
ベンアミ会長はさらに、「近年の諸事例から明らかなように、外交には、軍事行動にかかる費用のほんの一部だけで、付随する人的被害を伴わずに、米国に対して国家安全保障上の大きな見返りをもたらす能力があります。」「わが国は依然として、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)が2003年に行った不必要かつ壊滅的なイラク侵攻のつけを支払わされています。一方、イランとの多国間合意でその核開発の牙を抜いたバラク・オバマ大統領の決断からは、この先長年にわたり利益が得られることだろう。」と述べている。
ベンアミ会長は、元統合参謀本部議長のマイク・マレン提督の次の言葉を引用している。「外交は、全体的に調整された戦略の一部として、米軍の関係する現実の軍事紛争の可能性を減ずることによって、コスト削減に寄与するというのが私の固い信念です。[外交にかかる予算の]削減幅が大きくなれば、軍事作戦により時間がかかり、もっと多くの人命がリスクにさらされることになる。」(原文へ)
INPS Japan
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