【ジュネーブ/ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】
国連総会が、「核兵器を禁止しその完全廃絶につなげるような法的拘束力のある文書」を交渉するすべての加盟国に開かれた会議を2017年3月から開始することを決定した。ニューヨークの国連本部で開催される予定のこの会議は、3月27日から31日と6月15日から7月7日の2つの会期に分かれている。
「この歴史的な決定は、多国間の核軍縮努力が20年にわたって麻痺している状態に終わりを告げるものであり、(米ロ)二大核武装国が核兵器を巡ってさや当てを続ける状況の中でなされたものだ」と「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)はコメントした。
ICANがここで言及している「さや当て」とは、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ次期大統領がそれぞれ自国の核能力を「強化する」意思を示したことを指す。
「ロシア大統領と米次期大統領によるこうした無謀で攻撃的な行動によって、世界は選択を迫られています。すなわち、核戦争の危険性が高まるのを座視するか、行動を起こしてこの非人道的で容認しがたい大量破壊兵器を禁止するかという選択です。」と、ICANのベアトリス・フィン事務局長は語った。
オーストラリアの反核団体「核軍縮を求める人々」のジョン・ハラム氏は、「現在米ロは各々約7000発の核兵器を保有していますが、これは冷戦期と比較すれば大幅に縮小されています。しかしその内、わずか数分で発射可能な地上配備型のICBM(大陸間弾道ミサイル)を各々が1000発弱維持しています。」と指摘した。
「これらの核戦力のうち一部分でも(おそらくは米ロがお互いに対して)使用することになれば、今日の文明は終焉することになるだろう。(諸大陸に対して大型の核兵器をわずか5発使用するだけでも、これが現実になる可能性がある)」とハラム氏は語った。
こうしたなかで国連は、12月23日に歴史的な決議を採択した。(軍縮と国際安全保障問題を扱う)国連総会第一委員会が、一部の核武装国の強固な反対を押し切って、核兵器禁止条約など核兵器の.法的禁止措置について交渉する会議を開催する決定を10月27日に行ったことを受けたものだ。
10月27日の採決では、113の国連加盟国が賛成、35カ国が反対、13カ国が棄権した。ICANが指摘しているように、アフリカやラテンアメリカ・カリブ海地域、東南アジア、太平洋諸国から強い支持があった。
オーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカ共和国といった地域横断的なグループがこの決議を推進した。このグループが2017年の交渉をリードしていくことになるだろう。
ICANによれば、12月23日に国連総会が同決議を採択する直前に、国連の予算委員会において、核兵器禁止条約交渉のために4週間の会議を開く予算を確保することに米国が反対したという。
「しかし、核軍縮支持派からの強い圧力によって、米国は最終的に反対を取り下げ、委員会が予算を認めることになった」と、100カ国で活動している市民ネットワークであるICANは説明した。
ICANは、第一委員会の決定を前にした10月に米国が北大西洋条約機構(NATO)全加盟国に送った文書を公表していた。約7000発の核兵器を保有する米国は同盟国に対して、決議に反対し交渉をボイコットするよう呼びかけていた。
この文書は、核兵器を廃絶する条約は、ある国々にとっては核兵器が正当なものであるとの認識を阻害し、NATOが核戦争計画を立てるのをより困難にすると警告していた。
ICANによれば、10月に決議に反対あるいは棄権した米国の緊密な同盟国の多くが、条約交渉会議に参加する意向を示しているという。
領内に米国の核兵器を置くことを認め、採決を棄権したオランダも交渉会議に参加することを確認している。また、日本の岸田文雄外相も、決議には反対したものの、交渉会議には参加する意向を示している。
ICANは、すべての国に対して、来年の条約交渉会議に参加するよう呼びかけている。「核兵器が二度と使われないようにすることについては、すべての国が関心を持っています。しかしそれは、核兵器の完全廃絶によってしか達成されない。私たちはすべての政府に対して、来年の条約交渉に参加し、強力かつ効果的な条約の策定に取り組むよう求めています。」とフィン事務局長は語った。
ICANは、核兵器国が参加するか否かにかかわりなく、交渉を始めるべきだと訴えている。「原則として、本性的に無差別的で人間に対して壊滅的な被害をもたらすことを意図した兵器は、国際法の下で禁止されるべきです。この新条約は、核兵器を他の大量破壊兵器と同じ法的立場に置くことになるでしょう。」とフィン事務局長は付け加えた。
フィン事務局長はまた、「核兵器禁止条約は、規範の力によって、たとえ参加を拒むにせよ核保有国の行動に影響を与えることを期待しています。また、領内に核兵器を配備することを認めている欧州諸国のように、核兵器によって保護が得られていると考える同盟国の多くの行動にも影響を与えることでしょう。条約は、核兵器なき世界の達成に向けて相当の貢献をするにちがいありません。」と語った。
核兵器禁止条約には、生物兵器や化学兵器、対人地雷、クラスター弾を禁止している既存の諸条約と同じような条項が盛り込まれることになるとみられる。たとえば、(核兵器の)使用、開発、生産、取得、貯蔵、保持、移転の禁止に加え、こうした禁止行為に関わるいかなる者に対しても、援助、勧奨、誘導を行うことを禁ずる、という内容である。
生物兵器や化学兵器、対人地雷、クラスター弾はすべて、国際法の下で明確に禁止されている。
核兵器は、人間や環境に及ぼす壊滅的な影響が広く知られているにも関わらず、包括的かつ普遍的な形での違法化が依然としてなされていない唯一の大量破壊兵器である。最近の研究は、核兵器の偶発的あるいは意図的な爆発の危険性は不当なまでに過小評価され、あるいは誤解されていることを示している。
核実験を含めた核爆発の被害者や生存者は積極的に貢献してきた。広島原爆の被爆者、サーロー節子氏は、核兵器禁止を先頭に立って訴えている人物だ。
「これは全世界にとって本当に歴史的な瞬間です。」とサーロー氏は12月23日の投票を受けて語った。「広島・長崎の原爆投下を生き延びた私たちは、核兵器が非人道的で、非差別的で、受け容れがたいものであることをよく知っています。すべての国が、核兵器違法化のための2017年の交渉に参加すべきです。」(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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