【ニューヨークIDN=キャロライン・ムワング】
国連開発計画(UNDP)は7月23日に発表した報告書のなかで、世界の最貧層を対象に臨時ベーシック・インカムを直ちに導入すれば、約30億人が自宅に留まれようになり、現状の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)患者の急増を抑えられる可能性があると訴えている。
報告者『臨時ベーシック・インカム:開発途上国の貧困・弱者層を守るために』は、1カ月当たり1990億ドルあれば、132の開発途上国で貧困ライン以下か、そのわずか上で生活する27億人に一時的にベーシック・インカムを保証できると試算している。
その結論によると、新型コロナの新規感染者が1週間に150万人を超えるペースで増加する中で、この措置は実行可能であると同時に、緊急に必要とされている。とりわけ開発途上国では、労働者の10人に7人がインフォーマルセクターで生計を立てているため、自宅に留まっていては収入が得られない状態にある。
社会保険制度の対象とされていない夥しい数の人々の中には、インフォーマル労働者や低賃金所得者、女性と若者、難民や移住者、さらには障害者が多く含まれており、今回のコロナ危機で最も深刻な打撃を受けている。
UNDPはここ数か月の間に60カ国以上で、新型コロナによる社会経済的影響の評価を行ってきたが、その結果を見ても、社会保障の対象となっていない労働者が所得なしに家に留まれないことは明らかである。
臨時ベーシック・インカムを導入すれば、こうした人々に食料を買い、医療費や教育費を賄うための収入を提供できるだろう。しかもこれは財政的に可能な選択肢である。例えば、6か月間、臨時ベーシック・インカムを配布するのに必要となるのは、2020年中に予測される新型コロナ対策費の12%にあたり、これは、開発途上国が2020年に支払うことになっている対外債務の3分の1にすぎない。
アヒム・シュタイナーUNDP総裁は、「前例のない時代には、前例のない社会的・経済的措置が必要です。その一つの選択肢として浮上してきたのが、世界の最貧層を対象とする臨時ベーシック・インカムの導入です。ほんの数か月前には、不可能と見られていた措置かもしれません。」と語った。
シュタイナー総裁はさらに、「救済措置や復興計画の対象を大きな市場や企業のみに絞ることはできません。臨時ベーシック・インカムにより、政府はロックダウン(都市封鎖)下にある人々に命綱となる資金を提供し、資金を地域経済に還流させて中小企業の存続を支援するとともに、新型コロナの破壊的な蔓延のペースを落とせるかもしれません。」と語った。
しかし、臨時ベーシック・インカムは、今回のパンデミックがもたらした経済的苦境の特効薬的解決策にはならない。各国が導入できる措置としては、雇用を守ること、零細・中小企業への支援を拡大すること、デジタル・ソリューションを用いて社会的に排除された人々を特定し、手を差し伸べることが挙げられる。
今年の債務返済に充てられる予定だった資金の使途を変更し、臨時ベーシック・インカムに充てることも、各国が必要な資金を賄う方法の一つである。正式なデータによると、開発途上国と新興経済国は今年、債務返済に3.1兆ドルを費やすことになっている。
「国連事務総長の呼びかけに応じ、すべての開発途上国を対象に包括的な債務返済凍結を認めれば、各国はその分の資金を一時的に、新型コロナ危機の影響に対処する緊急措置に振り向けることができるだろう。」と報告書は指摘している。
すでに、臨時ベーシック・インカムの導入に向けて舵を切った国もいくつかある。例えば、西アフリカのトーゴ政府は、インフォーマルセクターで働く女性をはじめとする人口の12%を越える人々を対象に、現金給付プログラムを通じ毎月1,950万ドルを超える資金援助を提供しています。
スペイン政府も最近になって、弱者層の家族85万世帯230万人の個人を対象に、月額2億5,000万ユーロの予算で、最低基準額まで所得補填を行うことを承認した。
新型コロナは既存の世界的、国内的不平等をさらに悪化させただけでなく、最弱者層に最も大きな影響を及ぼし新たな格差も作り出している。2020年には、最大でさらに1億人が極度の貧困に陥り、14億人の子どもが学校閉鎖の影響を受け、失業や生計手段の損失も記録的水準に上ると見られる中で、UNDPは全世界の人間開発が今年、その理念の導入以降初めて後退を強いられると予測している。(原文へ)
INPS Japan
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