SDGsGoal3(全ての人に健康と福祉を)世界が直面している緊急の保健課題

世界が直面している緊急の保健課題

【ジュネーブIDN=ショーン・ブキャナン】

2020年初頭に世界保健機関(WHO)が発表した世界で緊急を要する課題リストは、保健関連の中核的な優先事項やシステムに対して指導者らが十分な投資をしてこなかったことへの深い懸念を示したものだ。ジュネーブに本拠を置くWHOは、このことで、人々の生命や生活、経済が危機に晒されていると指摘している。

国内総生産(GDP)の1%をプライマリー・ヘルスケアに投じ、より多くの人々が良質な基本サービスを利用できるようにすべきだと勧告するWHOは、世界各地の人々に影響を及ぼす幅広い問題を網羅した向こう10年間の優先課題を指摘している。

たとえば、気候変動を巡る議論にこれまで以上に保健衛生の視点を入れること、紛争地域や危機的状況にある地域に医療を提供すること、医療環境を清潔に保つこと、医療サービスを公正にすること、医薬品へのアクセスを拡大すること、感染症の拡大を食い止め、世界的な流行(パンデミック)に備えること、危険な製品から人々を保護すること、などである。

WHOは、「気候変動危機は健康危機である」として、大気汚染によって毎年推定700万人が死亡する一方で、気候変動によって異常気象が多発し、栄養不良を悪化させ、マラリアなどの感染症の拡大に寄与していると指摘している。地球温暖化を引き起こすのと同じガスが、心臓発作や肺がん、慢性的な呼吸器系障害による死亡の4分の1以上の原因となっているという。

WHOは、官民両部門のリーダーに対して、互いに協力して大気を浄化し気候変動が健康に及ぼす影響を軽減するよう求めた。2019年には、50カ国以上・80超の都市がWHOの「空気質ガイドライン」を順守し、大気汚染や気候変動関連の政策をそれに合わせることを公約した。WHOは2020年には、大気汚染が健康に及ぼすリスクを各国政府が予防・軽減するための政策オプション策定に向けて取り組むことになっている。

紛争地域や危機的状況にある地域に医療を提供することに関しては、2019年は、紛争が長引く国々において最高レベルの感染症対策が必要とされた年であった。また、医療関係者や医療機関が狙われる憂慮すべき傾向も続いた。WHOは、11カ国で医療関係者に対する攻撃が978件あり、193人が死亡したとしている。同時に、紛争によって記録的な数の人々が居住地を追われ、数多くの人々が、時には何年も医療を利用できずにいる。

WHOは、保健医療の問題は考慮すべき事柄の一部にすぎないと認識しており、究極的に必要なのは、①長引く紛争を解決する政治的解決策を見出すこと、②最も脆弱な保健システムを無視することをやめること、そして、③医療関係者や施設を攻撃から守ること、としている。

他方、世界の医療施設の推定4分の1が、保健システムが機能するために必要な基本的な上水道や衛生施設を欠いている。これにより医療サービスの質が低下し、患者や医療関係者への感染リスクが高まっている。このことは、世界で数十億人が、いずれも疾病の主要原因となる清潔な飲み水や適切な衛生設備を欠くコミュニティーで暮らす状況下で起こっている。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

保健医療の公正を期すことに関して言えば、WHOは、根強い経済、社会格差の拡大が、人々の健康の質に大きな差をもたらしていると警告している。富裕国と貧困国との間には平均余命で18年の差があるだけではなく、同じ国や、同じ都市の中でも著しい格差がみられる。

同時に、ガンや慢性的な呼吸器障害、糖尿といった非感染症の世界的拡大が、低・中所得国に過大な負担をかけており、貧困層の資産を急速に奪う結果になっている。

WHOは、個人の健康上のニーズの大部分に対処するプライマリー・ヘルスケアを実践することが、不平等を解消する最善の方法の一つであるとして、すべての国々に対して、さらにGDPの1%をプライマリー・ヘルスケアに充て、人々が自宅近くでニーズに応じた基本的なサービスを利用可能にするよう提唱している。

これは、医薬品へのアクセスを拡大するニーズとも結びついている。世界の人口の約3分の1が医薬品やワクチン、診断ツール、その他の基本的な医療品を利用できないでいる。良質な医療品を利用しづらい環境では、患者が危機に陥ったり、薬物耐性が促進されたりするなど、健康や生命が脅かされる。医薬品やその他の医療製品は、ほとんどの保健システムにおいて、医療従事者の人件費に次ぐ第2の支出項目となっている。低・中所得国では、個人の医療費が支出の中で最も大きな部分を占めている。

WHOは、2020年には、世界規模での医療アクセス拡大に向けた重点課題を設けるという。たとえば、基準以下や偽造された医療品の取り締まり、低所得国がサプライチェーンを通じて質の高い医療品の確保を図るキャパシティビルディンクの強化、糖尿病など非感染症の診断・治療へのアクセス拡大などである。

WHO
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感染症に関しては、HIVや結核、ウィルス性B型肝炎、マラリア、それに、顧みられない熱帯病や性感染症によって、2020年には400万人が死亡すると推定されている。そのほとんどが貧困層である。他方、ワクチンによって予防可能な麻疹のような疾病で2019年には14万人が亡くなった。そのほとんどが子どもである。ポリオはほぼ絶滅状態にあるが、それでも昨年には156件が報告されており、2014年以来最大となっている。

その根本原因は、国からの支援不足と相まって、感染が広がる国々における予算不足と保健システムの脆弱さにある。

感染症の拡大や自然災害、その他の健康上の緊急事態などへの事後的な対応に毎年かけている額は、その予防にかける額よりもはるかに多い。

WHOによると、インフルエンザのような、新型で、感染力が高く空気感染するタイプで、ほとんどの人々に免疫がないようなパンデミックが発生することは不可避であるという。それは、新たな感染症が発生するかどうかの問題ではなく、それがいつ起きるか、起きた場合はどのぐらい急速に広まるか、という問題なのだ。それによって数百万の人々の命が危険に晒されるかもしれない。虫を通じて媒介されるデング熱やマラリア、ジカ熱、チクングニア熱、黄熱のような病気は、気候変動によって増えた蚊が新しい地域に移動することで拡大する。

しかし、人々の健康に世界的影響を及ぼすのは、そうした病気だけではない。食料不足、危険な食料、不健康な食事もまた、今日の世界における疾病原因の3分の1を占めている。

飢餓と不安定な食料供給が数多くの人々を苦しめている。食料不足は戦争の手段としても利用されてきた。同時に、砂糖や飽和脂肪酸トランス脂肪酸、塩を含む飲食物を消費することで、体重が増えすぎ、食料に関連した病気も世界中で増えている。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「健康問題が開発に及ぼす影響は広範囲にわたるため、保健衛生を守るのは所管大臣だけの問題ではありません。」「より健康な世界を実現するための近道などなく……私たちは、世界の指導者たちに約束を果たさせねばなりません。」と述べ、保健衛生システムの不備に対処し、最も脆弱な国々を支援するための資金拠出を増やすよう呼びかけた。

テドロス事務局長は、各国の保健衛生に対する関心を平和・安全保障に対するものと比較して、「多くの国々はテロ対策には積極的に多額の予算をかけるが、感染症の方がより致命的で経済への打撃が大きいにもかかわらず、ウィルスの拡大阻止にはあまり予算を割り当てようとしません。」と指摘した。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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