【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】
英国の高等法院は、3月23日、米国のグアンタナモ基地に収監されていた男が、放免と引き換えに、所内での拷問等に関して沈黙を貫くよう取り引きを持ちかけられていた、と事実認定する判決を下した。
エチオピア人のビンヤン・モハメドは、10代の時に英国に移住してきた。2002年にパキスタンで逮捕され、同国とモロッコにおいて拷問を受けた。2004年にはグアンタナモに移送されたが、ついに、今年2月、無罪放免によって英国に帰国とあいなった。
モハメドの訴えは、米国当局による「特別移送(RENDITION)」と収監中の拷問に関して、英諜報当局が米中央情報局(CIA)と共謀したというものである。
判決では、グアンタナモの恐るべき人権侵害が外部に漏れないようにするために、米当局がモハメドにさまざまな提案をもちかけたことが明らかにされている。英国に帰国させる代わりに、所内で虐待はなかったとの供述書にサインすること、帰国後メディアの取材は受けないこと、有罪だと認めること、米国への補償要求を放棄することなどを米当局は要求していた。
他方で、米当局は、モハメドの無罪を証明するための情報に弁護士がアクセスすることを最後まで容認しなかった。
モハメドを支援している法律団体「リプリーブ」のクレア・アルガー代表はこう語る。「米国は、メンツを保つために、とにかく何でもいいからモハメドを有罪にしようとしていた。最後に出てきた『提案』は、元々はもっとも危険なテロリストだと言われていたモハメドを、懲役わずか10日で有罪にしようというものですよ。これじゃ、道交法違反の罪にも及ばない。モハメドはこの提案を蹴って、最後まで無罪を主張し続けたんです」。こうして、モハメドは今年2月にようやく英国に帰国することができたのである。
ところで、今回の判決からは、米当局がモハメドに拷問を加えていたとの主張の証拠となる7パラグラフが削除されている。高等法院は、情報を開示すれば今後は英諜報当局と協力しないとの米当局からの脅迫によって、情報を開示しない決断を下した、と述べた。
高等法院によれば、この脅迫の文書が英外務省に送られたのは昨年9月。ミリバンド外相はこの事実を否定している。裁判所は、オバマ政権にこの方針を再考するよう促している。
米グアンタナモ基地に収監されていた「テロ容疑者」に米当局がかけた圧力について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=山口響/IPS JAPAN浅霧勝浩