ニュース│米国│対イラン軍事攻撃への反対論強まる

│米国│対イラン軍事攻撃への反対論強まる

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

18世紀の英国の評論家サミュエル・ジョンソン氏の有名な警句「絞首刑になるかもしれないということほど…」を言い換えて言えば、「突然戦争になるかもしれないということほど、人を真剣に考えさせるものはない。」ということだろう。

もしその警句が10年前の米国によるイラク進攻の準備段階には当てはまらないとしても、1月上旬以降、急速に高まりを見せているイランと米国及びイスラエル間の緊張関係を巡る米国の外交エリート、とりわけかつてイラク戦争を支持したリベラル・ホークと呼ばれる人々の動きには当てはまるようだ。

 日増しに強まる、イラン核施設を攻撃するとのイスラエルからの脅し。この数年で5人目となる、おそらくはイスラエルの諜報機関モサドによるとみられるイラン人核科学者の殺害。このところ急速に進められているイラン経済の弱体化を意図した西側諸国による経済制裁の強化。ホルムズ海峡を閉鎖するとのイランの脅迫。こうした事態の展開とともに、それまで仮定の領域で語られてきたイランとの戦争の可能性が、意図的なものか、挑発によるものか、偶発的なものになるかは別として、徐々に現実味を帯びて我々の視野に入ってくるようになった。

また米国内では、共和党の大統領候補者たちが、なんとかキリスト教原理主義勢力やユダヤ人有権者・後援者の支持を獲得しようと、イスラエル支持のタカ派的な発言を繰り返しているが、こうした動きは、かつてイラク戦争へと扇動したネオコン系シンクタンクのアメリカンエンタープライズ研究所(AEI)や民主国家防衛基金(FDD)が最近再びイランの「政権交代(regime change)」を訴えるキャンペーンを強化してきている動きと同様に、イランとの戦争の可能性を高めかねないリスク要因となっている。

こうして突然戦争が起こりうるのではないかという懸念が急速に高まる中、米国の著名な外交・国際政治専門誌「フォーリン・アフェアーズ」が、「イランを攻撃するとき―なぜ爆撃が最小悪のオプションなのか(Why a Strike is the Least Bad Option)」と題するマシュー・クローニグ氏による論文を掲載した。彼は、つい最近まで、国防総省(ペンタゴン)で1年間に亘る戦略分析の任務についていた。この論文には、イランの防空施設・核施設に対する限定的な空爆が主張されている。

しかし、これに対して、対イラク開戦をかつて主張したリベラル・ホークを含む外交政策に影響力を持つ多くのタカ派論客の間から、これ以上の米国或いはイスラエルによる事態の先鋭化に反対する「対イラン戦争回避論」が強く出されるようになってきた。

「フォーリン・アフェアーズ」誌の発行元である「外交問題評議会」のレスリー・ゲルブ名誉会長は、デイリー・ビースト誌に寄稿した論文の中で、かつて立場を同じくしていたネオコンやその他のタカ派論客たちがイランとの対決姿勢を強めている動きについて「以前と同じく、無知で杜撰な考え方をする政治家や政治化した外交専門家達が新たな基準の『最後通牒』を突き付けようとしている。そして以前と同じように、彼らが私たちを急速に戦争へと駆り立てている事態を許してしまっている。」と指摘した上で、「我々はひどいことをまたやろうとしている」と警告した。

かつて元CIA分析官で2002年に出版した著作『迫りくる嵐』(The Threatening Storm: the Case for Invading Iraq)がリベラル・ホークに頻繁に言及されたケネス・ポラック氏は、これ以上事態が先鋭化することに反対の立場を表明するとともに、バラク・オバマ政権や欧州連合(EU)が採用している経済制裁強化路線は逆効果であると主張した

ポラック氏は、「こうした(イラン中央銀行を標的とした)経済制裁は、あまりにも影響が大きく、潜在的に裏目に出る可能性がある」と述べ、その理由として苦闘している西側諸国自身の経済に悪影響が及ぶ可能性があることや、もしこの経済制裁がかつてイラクにもたらしたような「人道的危機」(1992年からイラク進攻時まで課された経済制裁)を引き起こした場合、外交的に制裁を維持することが困難な点を挙げた。

さらにポラック氏は、「我々がイランへの圧力を加えれば加えるほど、イラン側の反発を招き、彼らの反撃の仕方によっては、事態は容易に予期できない方向にエスカレートしていくでしょう。もし戦争となれば、イランの方が圧倒的に深刻な被害を被るのは明らかだが、西側諸国も手痛い代償を強いられるだろう。しかもそうした痛みはだれもが想像できないほど将来に禍根を残すかもしれない。」と述べている。

一方、著名なリベラル・ホークで2009年に国務省政策企画本部長に就任するまでプリンストン大学教授をつとめていたアン・マリー・スローター氏は、project-syndicate.orgに寄稿した論文の中で、「西側諸国とイランは危険なチキンレースを行っている。しかも西側諸国が現在推し進めている政策は、イラン政府に二者択一、すなわち公に圧力に屈して引き下がるという彼らにとってあり得ない選択肢か、挑発を一層エスカレートさせるという選択肢のいずれかの選択を迫るものである。」「西側諸国がイランを公に脅迫すればするほど、イラン指導部にとって、近年米国を友好的に見る傾向にあった国内の一部の市民に対して、改めて米国を『大悪魔』として描いて見せることが容易となる。」と述べている。

またスローター氏は、「今こそ、イランが引き下がれる戦略を用意できる冷静な指導者が主導権をとるべき時です。」と述べ、具体的な方策として、2010年にトルコとブラジル政府がP5+1(国連安保理常任理事国+ドイツ)とイランの仲介を試みようとしてその後頓挫したイニシアチブを復活させることを提案した。

『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニスト、ビル・ケラー氏は、クローニグ論文に関して、論文の読者とクローニグ氏のペンタゴンのかつての同僚らは、「この文章に驚愕していることだろう。イランの核の脅威を極端に評価し、他方で事態改善に関する米国の能力を極端にバラ色のものとして描いているからだ」と記した

またケラー氏は、クローニング氏の予想とは反対に、「イラン攻撃を行えば、イラン国民はほぼ間違いなく指導者の下に結束し、イランによる核能力追求は、国際査察の目を遠ざけて地下化し、ますます強化されることになるだろう。ペンタゴンでは、『いま避けようとしていることを引き起こすには、イランに軍事攻撃を仕掛けるのが一番』という警句が交わされているのをしばしば耳にするだろう。」と述べている。

また、昨年12月までの2年間、ペンタゴンで中東政策の責任者を務めていたコリン・カール氏は、「フォーリン・アフェアーズ」誌に「イランを攻撃する時ではない」と題したクローニグ論文への反論を投稿し、その中で「クローニグ氏が論文で述べているクリーンで限定的な戦いなど幻に過ぎない。それどころか、イランとの戦争は汚く、多くの犠牲者と禍根を残す極めて暴力的なものとなるだろう。」と記している。

現在タカ派シンクタンクの「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)のシニアフェローをつとめるカール氏は、クローニグ氏への数々の反論の中で、「イランに対する先制攻撃を行えば、それはクローニグ氏の言うような限定攻撃では終わらず地域を巻き込む戦争に発展する可能性が高い。さらに先制攻撃は、イランの人々を現政権の下に団結せしめるのみならず、『アラブの春』で広がった反体制運動が、一気に反米運動に転化する危険性がある。」と警告している。

その後、カール氏による分析内容の多くは、元米空軍大将でジョージ・W・ブッシュ政権の2期目に中央情報局(CIA)長官を務めたマイケル・ヘイデン氏に支持されている。因みにヘイデン将軍はリベラルとはとうてい呼べない人物である。

フォーリン・ポリシー誌のブログによると、1999年から2005年まで国防総省の国家安全保障局(NSA)局長をつとめたヘイデン氏は、先週ワシントンDCに本拠を置くシンクタンクCenter for the National Interest(旧称ニクソンセンター)で開催された会合で、少数の参加者を前に「ブッシュ政権当時、大統領の安全保障アドバイザーたちは、イランへの核施設に対する軍事攻撃は、それがイスラエルによるものであろうと米国によるものであろうと、望ましい結果が期待できるものではないとの結論に達していた。」ことを明かした。

同ブログによるとその際、ヘイデン氏は、「イスラエルは(イランへの攻撃を)行わないだろう。…それは彼らの能力を超えるもので、実行は不可能である。彼らの軍事能力では(イランの核開発プログラムという)問題を悪化させるだけだ。一方、米国には(イランに対する)軍事行動を開始する能力はあるが、期待できる効果は短期的な問題の是正に過ぎない。結局は誰も、何かを占領するといった話をしているわけではないのだ。…」と語ったという。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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