【ニューヨークIPS=アリッサ・ジアチノ】
米移民局は6つの州で不正な身分証明で働く移民の一斉摘発を行い、精肉工場で1000人以上を逮捕してから1週間。残された家族は、いまだに愛する人の消息を求めて躍起になっている。
「逮捕された家族が、どこに行ったか分からない人が多い」とミネソタ州ワージントンで小さな食料品店を営むオリヴィア・フィゲオラはIPSの取材に応えて語った。移民税関執行局(ICE)は拘留された者の家族のためにホットラインを設けているが、提供される情報は不正確なことが多いとフィゲオラは言う。
フィゲオラの夫はワージントン所在のスイフト社の精肉工場で働いている。従業員が逮捕されたために生産ラインが滞っているという。また捜査が入ることを恐れて、出勤してこない従業員もいる。
ICEは12月12日、コロラド、ネブラスカ、テキサス、ユタ、アイオワ、ミネソタの6州でスイフト社の精肉工場を一斉捜査。何千人もの従業員に居住権あるいは市民権の法的書類の提示を求めたために、生産ラインが停止した。ICEによれば、この摘発は「何百人ものアメリカ市民を被害者とする大掛かりな身分証明の窃盗事件」捜査の一環である。
ICEは数時間のうちに、行政上の移民法違反で1282人を逮捕。これまでに144人を身分証明の偽造、違法再入国などの罪で刑事告発した。
今回の強制捜査は、2006年初期に政治問題となりながら、議会で結実しなかった移民法改正の論議を再燃させることとなった。
何百万人もの不法滞在労働者の合法化を擁護する人々と、移民法の厳格な適用を求める人々の間の断絶はこの強制捜査で際立つこととなった。
「連邦政府が暴徒鎮圧用のフル装備でラテン・コミュニティを脅かすというおろかな行為」と言うのはコロラド州グリーリーの支持団体ティノス・ユニドス(Latinos Unidos)のシルヴィア・マルチネス代表。
対極にあるのが不法移民の取り締まり強化を求めるコロラド移民改革同盟(Colorado Alliance for Immigration Reform)のマミク・マクガリー代表代理。強制捜査は連邦政府がやっと重い腰を上げたしるしと評価。
「精肉産業は不法移民に甘い」と批判すると共に、政府機関が強制捜査を行ったことで影響が拡大する可能性も指摘。
「大規模でなくてもよいから、目立つような摘発を常時行うことは、象徴として重要。甘い考えを捨てさせる、帰国を促すといった効果が出ている」と述べた。
全国のスイフト社精肉工場の従業員が加盟する北米合同食品商業労働者組合(United Food and Commercial Workers Union:UFCW)は、ICE に逮捕された組合員のために食料と法的支援を組織。
230人が逮捕されたミネソタ州ワージントンのUFCW代表ダリン・レネルト氏は、組合会館が家族支援のグラウンドゼロになっていると語った。17日にはミネアポリスから7トンの食糧支援が届いたという。
地域社会においても、摘発への賛意も表明する人々がいる。一方、支援行動を起こす人も多いとレネルト氏は言う。
「皆が善人というわけではない。多くの教会から、すばらしい支援を受けている」と語った。
各人の事情が異なるので、連邦判事が全ケースを審査するには何週間もかかるだろう。その一方で、UFCWはICEを公民権と憲法上の権利の侵害で訴えている。
UFCWの広報官ジル・ケイシン氏は「ICEは公民権を尊重せず、組合代表や弁護士との面会を認めていない」と指摘した。
ミネアポリスのジョン・ケラー弁護士はIPSの取材に応じ、「人的被害のトリアージを行っている状態だ」として、逮捕者への接見がかなわず、残された子どもたちが両親といつ再会できるか分からないと語った。
当初、およそ600人がアイオワ州のキャンプ・ドッジに収容され、弁護士が接見する前に別の場所に移送されたとケラー弁護士は語った。
「移送は驚くほど早く、政治的圧力と訴訟でようやく門が開いたときには、60人から90人しか残っていなかった」
ミネソタ州が本部のICEティム・カウンツ報道官は、勾留者の一部は移民担当判事の審判を受ける権利を留保する書類に自主的に署名し、即座に送還されたと語った。
擁護派によると、勾留者は署名前に弁護士に相談することが許されなかった。アイオワ州マーシャルタウンのスイフト社工場では90人が逮捕された。セントメリー教会のヒスパニック教区シスター・クリスティーナによれば、逮捕者は逮捕直後にメキシコに送還された。
「逮捕された人は、誰にも連絡することができなかった。私たちも接見が許されなかった。逮捕が火曜日で、私たちが面接に行って断られたのが水曜日。木曜日には逮捕者本人がメキシコから電話してくるようになった」とインタビューで語った。
コミュニティ活動家のシルヴィア・マルチネス氏は「もっと上手なやり方があったはず。移民の問題を超えて、市民権の問題になっている」と語る。
世界第2の牛豚肉加工業者であるスイフト社は、先週の強制捜査は驚きだとして、政府の行動は会社との合意に反するとするプレスリリースを発表した。スイフト社は減産に追い込まれ、供給元にも消費者にも被害が及んでいる。同社は、長期的に見れば回復可能と語っている。
1997年より、スイフト社は労働者の連邦政府による認可プログラム「ベーシック・パイロット」に参加している。これは雇用しようとする者の氏名と社会保障番号を連邦政府のデータベースで照合する就労許可プログラムである。
ICEのティム・カウンツ報道官は、スイフト社は何の罪も問われていないとする一方、「ベーシック・パイロットは不法移民を1人残らず取り締まる特効薬ではない」と言明した。
「ベーシック・パイロット」は、氏名と社会保障番号が合致するかどうか連邦政府のデータベースで照合するものだが、そのデータベースも絶対確実ではなく、齟齬があったとしても必ずしも違法行為を示すものではない。
拘留者の何人が身分証明偽造の罪に問われるか明らかではない。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan