【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
170人を超える死亡者を出したムンバイ・テロ事件から1週間、米担当官は核武装国インドとパキスタンの全面対決を避けようと動き出した。
ライス国務長官は12月3日、ニューデリーを訪れ、インド指導者に対して如何なる報復も思わぬ結果、困難をもたらすと警告。時を同じくして、マイケル・マレン米統合参謀部議長はイスラマバードでパキスタン政府および軍に対し如何なる調査にも協力するよう、また同事件に関係したグループに対する厳重な取り締まりを行うよう圧力をかけた。
ライス長官は翌日パキスタンのザルダリ大統領およびカヤニ軍最高司令官と会談するためインドを後にしたが、直前の記者会見で、パキスタン政府の対応は協力的、行動的でなければならないと厳しい口調で語った。
米政府およびワシントンの専門家は、同テロはカシミールの反乱グループ「ラシュカ・エ・タイバ」(LeT)の仕業と見ている。専門家は、パキスタン軍統合情報局(ISI)が、インドのカシミール領有を阻止する道具として過去20年に亘り、同グループおよび他のイスラム過激派グループの支援を行ってきたとしている。ブルッキングス研究所の南アジア専門家ブルース・リーデル氏は、「ISIとLeTの関係の程度が問題だ。両者の関係が無くなったとは信じ難い」と語る。
ザルダリ大統領は最近、印パ信頼回復および両国がそれぞれに領有するカシミール地域の通商再開、ISIの監視強化など、米国を勇気づける発言を行ってきた。しかし、この発言が国内、特に軍部内に強い反感をもたらした可能性は高い。
ブルッキングス研究所の南アジア研究者で昨年米国の印パ仲介努力に関する本を出版したステファン・コーエン氏は、「ISIが、ザルダリ大統領および文民政権の権威失墜と緊張緩和プロセスを阻止するためムンバイ攻撃の背後にいた可能性もある」と語る。また、ランド・コーポレーションのパキスタン専門家クリスティーン・フェア氏は、攻撃はオバマ政権のアフガニスタン戦略に対する警告でもあると指摘する。
リーデル氏は、今回の攻撃には戦略的意味があると指摘する。2001年米軍および同盟軍が過激タリバンおよび過激アルカイダ幹部のトラボラ掃討作戦を行っていたとき、ISIが支援していた「ジャイシュ・エ・ムハンマド」によるインド議会爆破事件が起き両国の緊張が一気に高まったため、パキスタンはアフガン国境に配備されていた部隊をインド国境へ移動。これによりタリバンのムラー・オマール、ビン・ラディンの逃亡が容易になったというのだ。
パキスタンは現在米国の強い圧力によりアフガン国境で国内タリバン勢力と激しい戦いを展開しており、パキスタン軍が東方へ移動するようなことになれば、米国としては地域戦略の大きな痛手となるだろう。
ムンバイ事件と米国の地域戦略との関係について報告する。 (原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩