【トロント/ワシントンDC・IDN=J・C・スレシュ】
効果的な軍備管理政策への一般の理解と支持促進に取り組んでいるワシントンのシンクタンク「軍備管理協会」(ACA)によると、「トランプ政権は、北朝鮮に対する『最大限の圧力と関与』という自らが示した政策を十分に実行できていない。」という。
ACAのダリル・キンボール会長は、9月3日に北朝鮮が行ったマグニチュード5.9~6.3の核爆発実験に関する声明の中で、「トランプ大統領は無責任な挑発と軍事力行使の威嚇を通じてリスクを大幅に悪化させました。これによって、核兵器は米軍の攻撃を抑止するために必要だという北朝鮮のプロパガンダに信憑性を与え、金正恩最高指導者が核計画を加速することになってしまった。」と語った。
キンボール会長はまた、「核爆発実験は東アジアにおける、より危険な時代の幕開けを意味します。」と指摘し、その理由として「TNT爆弾100キロトン相当を超える爆発力を持つとみられる今回の核実験は、北朝鮮が、中距離、或いは大陸間弾道ミサイルに搭載可能な、小型だが高出力の核爆発装置の実験に成功したことを強く示唆しているからです。」と語った。
さらにキンボール会長は、「システムの信頼性を確認するには、さらなる実験が必要かつ見込まれますが、北朝鮮は20年以上に及ぶ核開発を通じて、地域外の標的を危険にさらすことが可能な核打撃能力を手に入れました。この能力は、トランプ大統領が、北朝鮮がもし核・ミサイル能力の追求を続けるならば、『炎と怒り』に直面すると8月8日に脅したことを受けて、獲得されたものにほかなりません。」と語った。
キンボール会長は、「国際社会が、北朝鮮による核・ミサイル能力を追求する動きを押しとどめ反転させることができずにいるのは、2つの前米(ブッシュ、オバマ)政権や、これまでの中国・日本・韓国の各政府など、多くの主体が政策判断を誤ってきた結果です。」と指摘したうえで、「(北朝鮮)危機は現在、きわめて危険な局面に到達しています。米国と北朝鮮いずれかの誤算により、紛争に発展するリスクは、受け容れがたいほどに高くなっています。トランプ大統領とその顧問らは、軍事力行使の威嚇をかけようとする衝動を抑える必要があります。そんなことをしてもリスクを増幅するだけなのです。」と語った。
キンボー会長はさらに、「より健全で効率的なアプローチは、中国やロシア、その他の国連安保理理事国と協力して、経済制裁の圧力を強化すると同時に、緊張を緩和し、一層危うさを増す北朝鮮の核・ミサイル計画を止め最終的に反転させることを目的とした新たな外交チャンネルを開くことです。」と語った。
キンボール会長は、あらゆる主体が「状況をこれ以上悪化させないために、直ちに次のような行動をとるべきです。」と訴えた。
1.米政府は、アジアの同盟国、とりわけ日本と韓国と協議して、もし北朝鮮が両国に対して戦端を開くようなことがあれば、米国は(場合によっては中国やロシアも)両国を防衛するとの確証を与える必要がある。
2.米国は、韓国軍や日本の自衛隊と共同軍事演習を行っているが、米軍は、北朝鮮に対する先制攻撃を計画ないし開始すると示唆するような作戦を避けるべきだ。これは、北朝鮮側に誤算を引きおこす可能性がある。
3.韓国に米国製の戦術核兵器を再導入するとの提案は逆効果である。なぜなら、緊張を高め、核紛争のリスクを増すだけだ。
4.米国は国際社会と協力して、北朝鮮が自制の姿勢を見せないかぎり、違法な核・ミサイル活動を支援するような北朝鮮の活動や貿易に対する既存の国連制裁を通じて、国際的な圧力は継続されるとのシグナルを送らねばならない。北朝鮮の兵器調達、資金調達、及び主要な外国貿易・歳入源を妨害することを目的とした国連による経済制裁を、より着実に執行していくことが極めて重要だ。
5.北朝鮮の石油輸入を制限するための制裁を今こそ検討すべきだ。こうした措置は、北朝鮮側に交渉において核兵器プログラムの費用対効果を再考させる可能性がある。しかし、経済制裁のみや、或いは、米国による核攻撃を示唆する好戦的な脅しのみによって、北朝鮮の姿勢を変えさせることができるほど単純ではない。
6.さらなる核実験や、中距離・長距離弾道ミサイル実験を止めさせ、最終的に朝鮮半島を検証可能な形で非核化することを目的とした北朝鮮との交渉においては、たとえそうした目標が現在の金正恩体制の下では現実的に達成可能ではないかもしれないにせよ、米国は、首尾一貫した形で、かつ、積極的に、自身の利益が何なのかを伝えなくてはならない。
7.米政府は、「交渉には前向き」と単に言葉にする以上の姿勢を示さねばならないが、実際に成果をあげうるような措置をとる姿勢を見せねばならない。例えば、抑止力や軍事的な即応態勢を減じない形で米軍の演習や作戦を部分的に修正する。例を挙げれば、指揮所演習をやめて同じ訓練目的に資する会合に替える、演習の戦略的なメッセージを弱める、現地演習を小規模にする、国境沿いの非武装地帯から離れた場所で訓練を行う、といった措置である。
キンボール会長は、「北朝鮮の最近の核実験は、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)を普遍化することの重要性を改めて示した。」と強調した。
キンボール会長は、「軍事攻撃に対する北朝鮮の恐怖を緩和する措置と引き換えに、緊張を緩和して更なる核実験や長距離弾道ミサイル実験を北朝鮮に止めさせるような、より真剣で、協調的で、持続的な外交戦略がないかぎり、北朝鮮の核攻撃能力は、弾道ミサイルの攻撃に対する耐久性と射程距離とともに今後も増大し続け、朝鮮半島で壊滅的な戦争が勃発するリスクは高まるだろう。」と警告した。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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