【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス】
人身売買との闘いは、政府と非政府主体の緊密な協力を要するグローバルな現象だ。一国・地域・国際の各レベルで分野を横断した協力や意識喚起、予防的な行動がこの点で必要だ。効果的な予防措置は、人身売買撲滅活動の実践者たちの間で経験をいかに専門的に持ち寄ることができるかにかかっている。
オーストリアにとって人身売買との闘いは、2004年に人身売買撲滅タスクフォースを立ち上げてから常に外交政策上の高い優先順位を与えられていた。タスクフォースは2007年以来、国際移住機関(IOM)や欧州安全保障協力機構(OSCE)、そしてこの数年はリヒテンシュタイン政府と協力して年次会議を開催している。
今年のウィーンでの会議は「人身売買の境界とフロンティア」をテーマとした。さまざまな差異や限界、可能性を検討しようというものだ。人身売買の分類論自体が、移民の密航やその他の非合法な行為などの関連する現象と区別されるものでもあり、それと重なるものでもある。これらの行為は人身売買と併存し、被害者の確定を困難にしている。
人身売買と、最近現れつつあるその他の形態の搾取との違いが重要な議論のテーマになった。国境という概念はあらゆるところに現れ、ウクライナに対する戦争だけではなく、人身売買や非正規移住、難民の流れの関係にも見られるものだ。(人身売買の加害者にとってもそうなのだが)可能なことの限界が、最近の通信技術やシステムの発展によって引き上げられている。同様に、他人の身分の窃取や詐欺のようなあらたな形態の犯罪が、複雑なITシステムが普遍化するにつれて広がっている。
つながりを断つ
欧州連合(欧州連合)のダイアン・シュミット人身売買撲滅担当は、連鎖を断つことは意識を喚起することだと強調した。
毎年、7000人以上の人身売買被害者がEUで見つかっている。しかしこれは「氷山の一角」だ。暗数が多く被害者の本当の数はわからない。これがすでに第一の壁となっている。すなわち、認知と身元の確認だ。被害者とコンタクトを取ろうとする者はそのサインを見逃し、被害者は時として助けを求めることを恐れるかもしれない。これが人身売買の加害者と被害者をつなぐ見えない鎖だ。
シュミット氏は、「この連鎖を断ち切る第一歩は意識を喚起することだ。被害者になりかねない人々を含む市民らの人身売買に対する意識を喚起することで、まずもって犯罪の発生を予防することができるし、次に被害者の存在を認知して支援したり、加害者の行為を止め訴追することができる。」とウィーン外交アカデミーで行われた今回の会議で強調した。
意識喚起は、人身売買被害者の支援者訓練や人身売買の需要抑制策とあいまって効果を生み出す、とシュミットは語った。その明確な例は、ウクライナへの軍事侵攻から逃げてきた人々を保護するために各国やEUのレベルでさまざまな主体が実施している予防策だ。これらの措置のおかげで人身売買はきわめて低いレベルにとどまっている。
人身売買の加害者と被害者をつなぐ連鎖は、デジタル空間ではさらに見えにくいものになる。オンライン上での出来事とオフラインでの出来事との間の境界線が消えつつある。今日では、ほぼすべての人身売買が何らかの形でオンライン上でなされる。ここで重要なのは、オフラインで違法なことはオンラインでも違法だということだ。
オンラインの側面に触れると、性的搾取のことを考えがちだ。しかし、その他の形態の搾取も無視することができない。搾取的な労働や犯罪行為への参加を強制するためにオンライン上でリクルートされてくる被害者がいるからだ。
オンラインという要素は、人身売買の各段階の一要素に過ぎない。
国連麻薬犯罪事務所(UNODC)のイリアス・チャツィス人身売買・密航移民局長は、人身売買の加害者はその活動のあらゆる局面にきわめて迅速に新技術を取り入れてきているとという。2003年にはサイバー空間を利用した人身売買はわずか1件だったが、今日の人身売買では、被害者の勧誘からサービスの「販売」、違法利益のロンダリングに到るまで、少なくともひとつの形態においてはインターネットが必ず利用される。インターネットは、すぐに利用できるツールの一つとなったのだ。
「UNODCでは、加害者がいかにして偽サイトを作り、正当な求人サイトに広告を投稿し、あるいはSNSやマッチングアプリなどをいかに活用しているかについて追ってきた。『ハンティング』や『フィッシング』といった手法を通じて、彼らは〔搾取できる人間を〕必要としている集団や個人を積極的にターゲットとするのだ」とチャツィス氏は強調した。
5、6件の事例において、被害者は身分を騙った者から接触を受け、別の国に連れてこられると搾取が始まる。たとえば、加害者はIT部門の仕事を探している若者をターゲットとし、アジアの国での仕事を好条件で持ちかける。しかし、被害者がその国に到着すると、使用者はパスポートを取り上げ、契約は変更になったと告げる。そして彼らを、オンライン上での偽仕事に従事させるのである。今日、被害者の6割以上がオンライン上でリクルートされた者だ。
「今日、オンライン技術を利用しない人身売買のケースを見つけるのは難しくなっている。人身売買を将来的に根絶するには、加害者の技術レベルに各国がどれだけ追いつけるかにかかっている」とチャツィスは説明する。
違法売春とコロナ危機
見逃せない事実は、加害者は、ナイトクラブのダンサー、ウェイトレス、モデルなどのいずれであろうとも、うその約束をして出身国から被害者を連れてきているということだ。人間がある国から別の国へ移動させられるため、交通費のために借金をさせられることがあり、そこから抜け出せなくなる。
しばしば、同じ組織犯罪集団がさまざまな犯罪の背後にいて、カネを生み出す。有能な当局であれば、違法密航や麻薬密輸の背後にある犯罪者に焦点を当てるが、捜査を進める中で、保護を必要としている人身売買の被害者に出会うことも忘れてはならない。
違法売春は特にコロナ禍の間に激しさを増し、現在でもはびこり続けている。売春女性が公的空間や売春宿から消え、民間のアパートで働き始めた時期でもあった。このやり方は今日でも続いている。自らオンライン上で売り出し、自宅を仕事場とすることもできる。ベトナム人身売買売春局のクラウディア・D氏は、売春に従事させられている児童は自動的に被害者と見なすべき時が来ていると指摘する。
EUでは、人身売買の大半のケースが性的搾取だ。同時に、労働搾取も他の形態の搾取とともに増えている。人身売買と、不法移住、麻薬密輸、臓器切除、詐欺、汚職、マネーロンダリングなどその他の形態の犯罪との結びつきも強まっている。
オーストリア犯罪情報局で人身売買売春対策中央サービスのトップを務めるジェラルド・タツェルン氏は、被害者の存在そのものを証拠とせざるを得ない人身売買捜査は困難を極めると指摘した。証拠品や足跡が残りにくいということでもある。タツェルンは、人身売買の被害者は保護されねばならないが、インターネットを通じて攻撃がなされるとき、それはきわめて難しいと語る。技術の進展にしたがって、犯罪環境はサイバー空間に広がっている。
これまでに紹介してきた専門家に加え、国連ウィーン本部のガーダ・ワリー事務局長、フォルカー・トゥルク国連人権高等弁務官、欧州評議会人身売買撲滅条約のペトヤ・ネストロバ事務局長もタスクフォースに加わっている。(原文へ)
INPS Japan
関連記事: