ニュース視点・論点化学兵器は決して使用されてはならない(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表)

化学兵器は決して使用されてはならない(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

国際法と普遍的に受け入れられた文明的な振舞いに関する現段階の規範に照らせば、大量破壊兵器の使用は、いかなる主体によるものであっても人類の良心に反するものであり、容認できるものではない。

最近シリアで使用されたという化学兵器が誰の手によるものかはまだはっきりしていない。しかし、この劇的な出来事の犯人探しに奔走していると、時として、こうした残虐で無差別的な効果をもつ大量破壊兵器が一部の国家の兵器庫あるいは秘密の倉庫に依然として存在するという驚くべき事実があいまいにされてしまう。

Map of Syria
Map of Syria

2013年と14年、化学兵器がダマスカスやアレッポなどシリア国内の数か所で使用された。国際的な圧力の下で、シリアは化学兵器禁止条約の締約国になり、化学兵器備蓄の廃棄に向けた道が切り拓かれた。化学兵器禁止機関(OPCW)やその他の国際機関が査察官や専門家を現地派遣して、シリア政府から申告された備蓄を検証しその廃棄を監視した。

米国政府は、化学兵器は100%廃棄されたと断言した。しかし、備蓄の一部が査察官の目から隠されている可能性や、シリア国内で対立する武装集団がそれを奪取した可能性が取りざたされていた。致死的な少量の化学物質が、査察官や監視衛星の目を逃れて秘密の研究所で製造されていた可能性さえある。

数週間前、シリアのイドリブ州ハーン・シャイフーンで致死性の化学物質が放出されて80人以上が殺害された。中には多くの子どもがいた。少なくとも他に100人がその被害を受けた。2つの超大国(=米国とロシア)とシリア政府、反政府諸集団が、化学兵器攻撃の責任をめぐって批難の応酬をした。その出所がどこで、誰が保有していたものであれ、6年間もの内戦が行われていたこの国の現状で兵器を追跡することは困難だ。誰が化学兵器を保有し、なぜ、どのようにしてそれが使用されたのかを確認する徹底した中立的な調査が必須だ。

しかし、政治的な対立と不和、主な主体間の信頼感が欠如しているために、信頼性が高く異論のない結論に到達することは極めて困難だ。意図的であれ偶然であれ、化学兵器の使用は絶対に容認されるべきではなく、首謀者は処罰されるべきだ。国連と関連機関の下で確立された多国間構造は、そうした兵器の使用に関する申し立てと事例に対処するうえで適切なチャンネルとなる。

化学兵器の使用規制に向けた国際的な取り組みの背景には、人道的な理由がある。このきわめて成功した取り組みの歴史的な起源は、フランスとドイツが毒ガス弾を禁止することに合意した17世紀に遡る。1874年、「戦争法規に関するブリュッセル宣言」では、毒あるいは毒を使用した兵器が禁止され、1899年のハーグ会議では毒ガスを詰めた投射物が違法化された。それでもなお、第一次世界大戦時には、化学兵器によって10万人が殺害された。

戦後、国際社会と市民社会からの強い反応を受けて取り組みが再開され、1925年のジュネーブ議定書では、窒息性ガス、毒性ガス、またはそれに類するガスを、戦争の手段として使用することが禁止された。しかし、化学兵器の開発・生産・保有は禁止されなかった。そのため多くの国々が、非締約国に対して使用するか、化学兵器攻撃に対する報復に使用しうる大量の備蓄を保有していた。研究も継続され、その結果、強力な神経ガスが開発されて、備蓄リストに加わることになった。

国際社会において化学兵器の使用・製造・備蓄が違法化され、その備蓄の廃棄を締約国に義務づけた強力な条約が実現したのは、ようやく1997年になってからのことであった。

ハーグに本部を持つOPCWは、そうした化学兵器の破壊を検証し、新たな化学兵器の開発を予防する一方で、正当な国家安全保障上の排他的な利益を擁護する、透明性を確保した信頼できる制度を担保している。しかし、化学兵器禁止条約の採択によって最終的に実現した包括的な禁止は依然として普遍的なものではなく、備蓄の廃棄ペースは想定よりも遅い。化学兵器禁止条約の締約国は192カ国あり、2016年末までに世界の備蓄の9割が廃棄されたと報告されている。

世界には、化学兵器生物兵器核兵器という3つのカテゴリーの大量破壊兵器が存在する。そのすべてが、過剰に残虐で、戦闘員も無辜の民間人も区別せず破壊する無差別な効果を持った恐怖の兵器である。化学兵器と生物兵器はすでに国際条約によって禁止されている。

国際社会は、核兵器を違法化する条約を交渉するための長く待ち望まれた多国間の取り組みを始めたばかりだ。9つの核保有国すべてとその同盟国は、このイニシアチブには参加せず、自らが望ましいと考える状況において、時として核兵器を保有していない相手にすら核兵器の使用を考慮に入れる時代遅れの軍事ドクトリンに固執している。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

核の対立は、それがどこで発生するかに関わらず、気候や人口全体にも壊滅的な影響を及ぼす。今こそ、私たちは、大量破壊兵器のこの最後のカテゴリー(=核兵器)を廃絶することによって、この歴史的任務を完遂すべき時だ。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、国連軍縮問題担当上級代表(2007~12)。核不拡散条約第7回締約国運用検討会議(2005年)議長。職業外交官としてブラジル外務省に48年間勤務。オーストリア、クロアチア、スロバキア及びスロベニア、中国、カナダ、ニカラグアでブラジル大使を務める。また、スイス、米国、アルゼンチン、ローマにも駐在した。

翻訳=INPS Japan

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