ニュース視点・論点中国で高まる大豆需要を背景に変貌を遂げる西半球の農業(レスター・ブラウン、アースポリシー研究所創立者)

中国で高まる大豆需要を背景に変貌を遂げる西半球の農業(レスター・ブラウン、アースポリシー研究所創立者)

【ワシントンINPS=レスター・ブラウン】

この数十年の間に、世界における大豆の需要は、中国を筆頭に急増してきた。今日、国際貿易で取扱われる大豆の80%が中国向けのもので、中国は群を抜いて世界最大の大豆輸入国になっている。

大豆栽培は、今から約3000年前に中国東部で始まったとされている。しかし大豆が小麦、米、トウモロコシと並んで世界4大穀物の一つに数えられるようになったのは、第二次世界大戦後、しばらく経ってからであった。

大豆の需要が高まった背景には動物栄養学者による画期的な発見があった。つまり、家畜や家禽に与える飼料穀物(通常トウモロコシ)4に対して、大豆ミール(大豆油を絞り取ったあとの大豆の粕を粉砕して作られた粉末)を1の割合で混ぜ合わせることで、穀物の動物性タンパク質への変換効率が飛躍的に高まることが明らかになったのである。

 中国における肉、ミルク、卵に対する需要が急激に高まるにつれて、大豆ミールの消費量も急増してきている。世界の豚の約半数が中国で飼育されているため、大豆ミールの大部分が豚の飼料に使われているほか、成長著しい家禽産業も大豆ミールに支えられている。また中国は、養殖魚の飼料として大量の大豆を使い始めている。

中国における大豆消費需要が、いかに爆発的に増加したかを示す興味深い数字がある。1995年当時、中国の年間大豆生産量と消費量はいずれも1400万トンで、拮抗していた。ところが2011年になると、生産量が引き続き1400万トンに留まっているのに対して、消費量が7000万トンに膨れ上がったため、不足分の5600万トンの大豆を輸入せざるを得なくなっている。

大豆生産が中国において軽視されてきた背景には、穀物の自給自足を目指すとした1995年の政府による政治判断があった。1959年から61年にかけて中国が見舞われた「三年自然災害」(大躍進政策の失敗と重なって2000万から5000万人の餓死者をだしたとされる大飢饉)を生き延びた多くの人々にとって、穀物の自給自足は至上命題であり、中国政府は主食を海外に依存するのを嫌ったのである。

中国政府は、潤沢な補助金で穀物増産を強力に推し進める一方で、大豆生産に関しては事実上無視した。その結果、穀物の収穫高が大きく伸びる一方で、大豆の収穫高が停滞するという事態を招いたのである。

もし仮に、中国が2011年に消費した7000万トン相当の大豆すべてを自国で生産するという選択をしていたとしたら、国内の穀物用農地の三分の一を大豆生産に振り向けたうえで、国内穀物消費量の実に三分の一以上にあたる1億6000万トンの穀物を輸入せざるを得なかっただろう。中国の13億5千万の人々の食生活が食物連鎖を上る動きを示している中で、大豆の輸入需要は今後もほぼ確実に上がり続けるだろう。

このように大豆消費が世界的に急拡大した結果、西半球の農業は構造的に大きな影響を受けることとなった。米国では、今では大豆の耕作地が、小麦の作付地を上回っている。またブラジルでは、大豆の耕作地が他の全ての穀物作付地の合計を上回っている。さらにアルゼンチンでは、全ての穀物作付地の2倍近くを大豆耕作地が占めるなど、危険なほど大豆の単作栽培に近い状況が顕在化している。

これらの国々が世界の大豆の実に5分の4を生産している。中でも米国は、60年に亘った世界最大の大豆生産・輸出国であり続けた。しかし2011年にはブラジルが米国を大豆輸出量で僅かに上回った。

世界の穀物生産量が20世紀半ば以来増加したのは、作付面積当たりの収穫量を3倍に向上させることに成功したことに起因している。一方、同じ期間に16倍も拡大した大豆の生産量は、主に作付農地を拡大させることで実現した。しかし穀物の場合と異なり、大豆の収穫効率は作付面積7倍に対して収穫量は2倍足らずに過ぎない。つまり、国際社会はより多くの大豆を収穫するために、より多くの大豆を植えなければならないという、深刻な問題に直面している。

そうすると「大豆をどこに作付するのか?」という問題が必然的に浮上している。米国では既に全ての耕作地が活用し尽くされているため、新たに大豆の耕作地を拡大するには、トウモロコシや小麦といった他の穀物農地を切り替えるしかない。ブラジルでは、アマゾン盆地や南部のセラード(総面積約200万平方キロのサバナ)を開拓して新たな大豆の耕作地が確保されている。

簡単に言えば、アマゾン熱帯雨林を救えるかどうかは、いち早く人口を安定させて大豆需要の増加を抑制できるかどうかにかかっているのである。また、世界のより豊かな人々にとっては、食べる肉の量を減らせば、大豆需要を抑制できることを意味する。こうした事情を考えれば、最近米国で肉の消費量が減っているというのは歓迎すべきニュースである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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