【国連IDN=ファビオラ・オルティス】
持続可能な開発目標(SDGs)とは、ミレニアム開発目標(MDGs)という「未完の仕事を終わらせる」ためのもの―こう語ったのは、ポスト2015年の開発計画に関する潘基文国連事務総長の特別顧問であるアミーナ・モハメッド氏である。
国際社会は、ニューヨークの国連本部で開催された「持続可能な開発に関するサミット」(9月27日~29日)において、2030年までの17の新たな開発目標と169のターゲットを採択した。今年で期限を迎える8つのMDGsに替わって、ポスト2015年のアジェンダはより多い目標数を定めた。
国際社会は、今後15年間で世界が優先すべき課題とその範囲を定める作業に実に3年半を費やした。
モハメド特別顧問は、国連での記者会見において「今般の開発目標は、世界が直面している諸問題に対して対症療法的な対応に留まりません。」と指摘したうえで「私たちは問題の表面的な現象ではなく根本原因について議論していきます。MDGsは一定の成功を収めました。もっとも仮にMDGsがあまり機能していなかったら、その後継目標について話し合うこともなかったでしょう。ただし(期限を迎えた)MSGsは未完の仕事のままなのです。」と語った。
「今日の世界は、今後15年間で何をすべきかについて少数の人々が世界に処方箋を提示した2000年のMDGs発表当時とは、大きく違ってきています。」「今日、私たちが手にしているのは、普遍的な開発目標です。つまり、このアジェンダはみんなのものであり、互いに密接な関連を持っていると誰もが認める世界の諸問題に関する開発目標なのです。SDGsは、2030年までにいかにして貧困を根絶していくか、そして数多くの複雑な問題にいかに対処していくかについての、人類の共通のビジョンに対する回答なのです。」と、モハメド氏は強調した。
世界資源研究所(WRI)のキティ・ファンデルヘイデン氏にとっては、SDGsは革命とまでは言えないが、本質的に革新的な内容を含むものだ。「SDGsは、私たちの経済や暮らし、生態系をも変える可能性を持っています。また17の目標はMSGsが成しえなかったこと、つまり『誰も見捨てない』という目標を目指していくことになります。これは、一歩前進だと思います。」とファンデルヘイデン氏はIDNの独占インタビュー対して語った。
「持続可能な開発」とは、経済・環境・社会の三本柱の間のバランスを意味する。ヘイデン氏によると、グローバル経済がかなり成長した過去数十年において(世界のGDPは1990年以来3倍になった)、世界は極度な貧困を半減させることである程度の平等は達成したが、ジェンダー平等や女性の性と生殖に関する健康の面においては依然として大きな課題を抱えているという。
「私たちは、経済は成長させてきましたが、経済的・社会的富を世界に平等に配分することには失敗してきました。その結果、深刻なニュースを目の当たりにしています。つまり、生物多様性の喪失スピード、土壌の劣化、気候変動、海洋の酸性化、飲み水の不足、これら全てが加速度的に悪化しているのです。」とファンデルヘイデン氏は語った。
モハメド特別顧問によれば、MDGsは、何が人々を経済から排除し、なぜ貧困があるのかという問いについて、「根本原因」に目を向けなかったし、より広く、より統合的な視野に対応することができなかった、という。
「健康に関しては、HIVや結核などの疾病には何とか対応してきましたが、その中身は黙々と対処療法に終始したもので、保健医療制度には目を向けていませんでした。そのためエボラ出血熱の大流行が起こり、従来の脆弱は保険医療制度では十分な対処ができず大きな後退を余儀なくされたのです。」「私たちは正面から問題に対処しようとはしましたが、根本原因には触れませんでした。今後はこのような失敗を繰り返さないためにも、応急処置に留まらず、さらに一歩先に踏み込んでいかなければなりません。」と、モハメド特別顧問は語った。
しかし、市民団体には、新しい開発目標について、特にその「履行」に関して、懐疑的な見方もある。
世界自然保護基金(WWF)ディオン・ネル氏は、SDGsの今後の見通しについて、「MDGsでは大きな進歩もありましたが、今後環境という要素をしっかり織り込まなくては、これまでに得たものを失ってしまう大きなリスクがあります。究極的には、この開発アジェンダは、謳われている文章によってではなく、それらが実際に行動に移されかどうかによって判断されなければなりません。」と語った。
ネル氏は記者たちに対して、「現状を見る限り世界はもはや後戻りできない岐路に立たされており、今後の見通しについて「きわめて悲観的」にならざるを得ない数多くの理由があります。」「例えば、人類は毎年地球の一年分の資源を8か月で消費し続ける一方で、重要な生命の生態系の6割が衰退しています。また、2015年は史上最も暑い年となりました。」と語った。
他方で、市民団体は変化の兆候も感じ取ってもいる。「この新しいアジェンダは、地球を変革するための、文字どおり草の根の実行計画です。やらねばならない仕事は多いが、世界を変革するための第一歩となるものです。私たちはこのプロセスを自分たちのものにしなくてはなりません。このアジェンダは完璧ではないかもしれないが、それでも基礎から積み上げて作り上げてきたものです。」とネル氏は強調した。
一方インドネシアの人権活動家エニ・レスタリ氏の意見では、「SDGsには矛盾があり、移民のニーズに対応できていない。」という。
「数多くの人々が、開発やアグリビジネス、オイルプランテーション、鉱山、不動産開発等のために土地を追われて貧困に陥っています。彼らは、安価で搾取される労働力になることを余儀なくされており、その中から多くが難民になるかもしれません。また多くの人々が、気候変動や災害で土地を追われて、基本的な市民の権利を拒絶してきたグローバル化の最下層を構成しつつあります。」と国際移民連合(IMA)の議長を務めるレスタニ氏は批判した。
レスタニ氏はまた、国連から報道している会場の記者らに対して、「一部の開発目標は一般的な不平等の問題に対応していますが、真の変化を生み出すための財政的な確約は未だに存在していません。」「この開発アジェンダの中に、貧困の原因となるシステム自体を変革するよう諸政府に求めるものはありません。」と語った。
彼女の意見では、民間部門と企業がSDGsの資金面を見るようになれば、問題の根本原因に適切に対処されないリスクがあるという。
SDGs実現のためのコストがいくらかかるのかということと、国際ドナーの政治的意思との間には、未だにギャップがある。「このギャップは巨大で、毎年数兆ドルという規模の額にもなります。」とオックスファム・アメリカの政策・キャンペーン担当副責任者のポール・オブライエン氏は語った。
オブライエン氏によると、とりわけ途上国の国内支出に対するインセンティブを考えれば、SDGsの財政面を賄う資金は十分にあるという。
「目標のすべてを達成するための時間と資金はあります。」とオブライエン氏は断言した。問題は、各国政府に政治的意思が十分にあるかどうかだ。オブライエン氏はこの点について、「(サミットに出席した)全員がそれぞれの国に急いで帰って、目標達成のための投資を始めるかといえば、そうは思えません。」と語った。
モハメド特別顧問によれば、その答えはグローバルなパートナーシップを形成していくことにあるという。「この世界には数兆ドルの資金が存在します。それは、プライベート・エクイティ・ファンドや様々な投資資金源のなかに眠っています。私たちは、それを引き出す鍵を見つけなければなりません。SDGsを実現する資金は確かに存在するのです。」
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