ニュース視点・論点|視点|先住民の土地管理の知恵が制御不能な森林火災と闘う一助になる(ソナリ・コルハトカル テレビ・ラジオ番組「Rising up with Sonali」ホスト)

|視点|先住民の土地管理の知恵が制御不能な森林火災と闘う一助になる(ソナリ・コルハトカル テレビ・ラジオ番組「Rising up with Sonali」ホスト)

【ロサンゼルスIDN=ソナリ・コルハトカル】

カリフォルニア州南部に20年以上暮らしているが、住まいが火災避難区域に指定されそうになったことはない―ただし今のところはだが…。あたかもカリフォルニア州全体が燃えているかのようだ。山火事シーズンはまだ数カ月残っているにもかかわらず、今年だけで既に記録的な200万エーカー(東京の4倍近い面積)が焼失している。あまりにも深刻な事態に、州消防当局は「全ての山火事に対処するには人手が足らない。」と警告している。

山火事の発生地はカリフォルニアの最北部からメキシコ国境地帯まで全州に点在しており、数万人に退避勧告が発令されている。同州で山火事が発生するのは珍しいことではないが、またたく間に広がる大規模火災が数週間ごとに頻発するのは不自然で異常事態だ。そしてなによりも重要なことは、実行さえすれば長期的な解決策があるにも関わらず、顧みられていないことだ。

Western US states have been battling close to 100 wildfires, blanketing the majority of the west coast in smoke. Captured on 10 September, this Copernicus Sentinel-3 image shows the extent of the smoke plume which, in some areas, has caused the sky to turn orange./ By Contains modified Copernicus Sentinel data 2020, Attribution/ Wikimedia Commons.

現在、メディアや市民の注目は山火事の原因に向けられている。あたかも、あらゆる火元を消せば山火事が頻発する最悪の事態に潜む問題を解決できると考えているかのようだ。今年最も暑かった日に開かれた性別発表パーティーで使われた花火付き発煙装置がエルドラド火災の原因であった。この火事はロサンゼルス市の東方70マイルの1万エーカー以上を焼き尽くした。この火災を引き起こした人々や性別発表パーティーそのものに対する批判がおこっているのは当然のことだが、ここで注目しておくべき点は、大火災を引き起こす自然条件が完全に整ってしまっており、なにが出火原因かという点はさほど重要ではないという事実だ。

ベイエリアでは8月に1万件を超える落雷で火災が発生した。2018年11月にはカリフォルニア史上最悪の山火事で15エーカーが焼け86人が死亡、引退後の高齢者が多く暮らしていたパラダイスという街が焼失した。キャンプファイヤと名付けられたこの山火事は、地元電力会社が所有する高圧送電線の不具合が出火の原因だった。このような山火事が引き起こされる環境そのものに対処する長期的な視野に立った取り組みがなされない限り、将来引き起こされる山火事の出火原因は、禁止されている花火だったり、無許可のバーベキューだったり、或いは一本の煙草の火の粉さえ大惨事の引金になりかねないだろう。より差し迫った問題は、そもそもどうしてこのような極端な山火事が発生する環境条件にあるのかという点だ。

気候変動がその原因の一つである。春に雨が多く降ったため例年よりも雑草や低木が育ち、それが例年以上に暑い夏が到来で乾燥し山火事の燃料と化してしまっている。気候学者らは、「極端に雨が多い時期の後に極端に乾燥する時期が続くサイクルが今後一層頻繁に起こり、カリフォルニア州の住民に大きな影響を及ぼす。」と予測している。

いま一つの原因は、山火事の燃料となってしまう大量の枯草・低木管理の問題だ。アリ・メ―ダース‐ナイトさんは、カリフォルニア北部チコ出身のメチョーダ族の女性だ。彼女はこれまで20年以上にわたって、部族森林管理プログラムの渉外担当として「伝統的生態学知識(TEK)」として今日知られる伝統技術を実践してきた人物である。この森林管理プログラムは、まさに制御不能で多くの被害者を出すに至った大火災の原因となっているカリフォルニア州の誤った土地・燃料管理政策の問題に取り組む内容となっている。メ―ダース‐ナイトさんは、私の取材に対して、「自然界の植物や土地は元々火に適応しているのです。地域は(森林に息づく生命のサイクルとして)火に順応しており、むしろ火を必要としているのです。」と説明した。

環境保護団体グリーンピースは「原野に発生した火を徹底的に消すという土地管理政策が数十年に亘って行われてきた結果、かえって異常に大規模で激しい山火事を引き起こす自然条件、すなわち燃焼負債(Fire deficit)が蓄積された状態が作り上げられた。カリフォルニアのユニークな生態系は、特定の動植物相が依存する定期的な火災のサイクルを基礎に進化してきたが、白人による支配がはじまると、先住民による火災管理の知恵は全面的に否定され一掃された。」と述べている。メ―ダース‐ナイトさんは、「私たちには、少ない火(=雑草や低木を適切な時期に燃やす野焼きで大火災を防ぐ)か、大規模火災かを選択するしかありません。全く出火がないという選択肢はないのです。)」と語った。

ダイアン・ファインスタイン上院議員(カリフォルニア州選出:民主党)は同州における火災管理を先導しているが、これは全く間違った方法で進められてきた。「山火事からコミュニティーを守る」と主張して同上院議員が提出した法案は、明らかに「カリフォルニア州の森林景観を守る体制を改善し再生プロセスを促進する」ことを意図したものだった。しかし現実には、そもそも森林火災の元凶の一部でもある木材産業界が、森林景観の名の下に電線や道路沿いの森林を大量に伐採できる仕組みとなっている。

Coast Redwood forest and understory plants — in Redwood National Park, California./By Michael Schweppe

グリーンピースは、「徹底した消火政策を強く支持してきた木材産業界の広報担当は、皮肉にも、数十年に亘って自ら加担してきた森林管理政策の失敗(例:密集しすぎた森林は大規模火災の原因として危険)を正すためとして、より積極的な森林伐採を呼びかけている。」と要約した。メ―ダース‐ナイトさんは、「木材産業界の関心は、利益のために樹木を伐採することのみであり、土地の管理や再生あるいは流域管理について関心もなければ専門知識も持ち合わせていません。」と指摘したうえで、ファインスタイン法案を「粗野」で、「極めて無知」なものであり「災害便乗型資本主義」に他ならないと非難した。

カリフォルニア州では何十年もの間、かつて先住民が定期的に管理された火付けを行っていた文化的慣行を禁止してきた。しかし今では、メ―ダース‐ナイトさんは先住民部族の新世代のリーダーの一員として、祖先から代々継承されてきた野火を管理する土着の知恵について、人々を訓練して認定する活動を行っている。要するに、古来の知恵は文字通り火をもって火を制するという発想に基づくものだ。研修は、同州固有の動植物の種類と生態系の中でそれぞれの品種が果たす役割を識別し理解するところから始まる。この土着の火災管理手法は、山火事が発生しやすい夏の乾期前の、やや湿った風も弱い時期に、育ちすぎた雑草や低木を付け火で取り除いておくというものである。

こうした古来の手法が現代にどれほど通用するものだろうか。メ―ダース‐ナイトさんは、「管理された火付けを行う最適な日時を、数週間や数カ月前から正確に予測することは困難なため、州当局による認可手続きをより柔軟にする必要があります。(山火事が多数発生する)最も暑い時期にあらゆる火災を鎮火する任務を担っている消防士たちを、もしそれ以外の時期に『火を取り扱う技術者』として先住民の火災管理手法を訓練することができれば、今と比べて繁忙期に彼らが直面する危険を低減し負担を減らすことにもつながります。」と語った。彼女は、とりわけ新型コロナによる大量失業と住宅危機が深刻な今日、これはカリフォルニア州が推進している「グリーンジョブ」の一角を担いうる「新たな労働力を開発するイニシアチブ」だと考えている。森林火災の消火活動にあたる厚生プログラム(時給1ドルで正規消防士への道が開かれている)に参加している受刑者らも、このイニシアブから恩恵を受けられる可能性がある。

火災管理に関するこうした土着技術が特筆すべきなのは、気候変動の緩和にも貢献できる点である。オーストラリアでは、類似した土着の技術が小規模ではあるが、山火事対策として既に実行に移されている。このプログラムは死者を出す大火災を減らすという短期的目標と、気候温暖化を促進する炭素排出を削減するという長期的な目標双方に非常に有益なことが証明されている。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

ニューヨークタイムス紙は、「(オーストラリアの)土着の火付けプログラムは7年前に開始され、激しく破壊的な森林火災の発生を半減、炭素排出量も40%以上削減した。カリフォルニア州の場合と同じくオーストラリアにおいても、管理された付け火は、ヨーロッパ人が渡来する以前は極めて重要な森林管理手段だった。」と報じている。

カリフォルニア州は、このおぞましい死者を出す森林火災の被害を何世紀にもわたって被ってきた。しかし(もし国であれば)世界第5位の経済大国に相当する同州が、この壊滅的な山火事の被害に屈するのは決して避けられない運命ではない。火災管理に対するファインスタイン法案と先住民による火を駆使する伝統技術の違いは、前者はこれまで機能してこなかったうえに、資源採掘産業が短期的な財務利益を得る資本主義的利益ベースモデルである点である。一方後者のアプローチは、企業利益を膨らませることはないが、そのかわりカリフォルニア州の住民全体の利益に資する骨の折れる取組みに根差している。はたして私たちはどちらの道筋を選択するのだろうか。(原文へ

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