核兵器の全面禁止を定めた核兵器禁止条約(TPNW=核禁条約)の第1回締約国会議(1MSP)が6月21日から23日までオーストリアのウィーンで開催された。日本政府は同会議へのオブザーバー参加を見送ったが、この会議に先立って開催された第4回「核の人道的影響に関する会議」並びにICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)主催の「世界国会議員会合」にオブザーバー参加した浜田昌良・公明党核廃絶推進委員長に日本政府が今後検討すべき課題についてご寄稿頂いた。
【東京INPS/IDN=浜田昌良】
日本はオブザーバー参加を見送りましたが、ロシアの核の威嚇を背景として、ドイツ、オランダ、ノルウェー、ベルギ―といった北大西洋条約機構(NATO)諸国や、加盟手続き中のスウェーデン、フィンランド、さらには5月に政権交代があったオーストラリアなどの米国の同盟国が、直前になってオブザーバー参加を決定しました。
日本と同様、米国の核抑止力に安全保障を依存するドイツは、2日目の会合で自国の立場を明確にする次のような演説をしました。
「疑いもなく、1MSPは核軍縮にとって偉大な出来事であり、核禁条約を軌道に乗せるとともに、(8月の)核不拡散条約(NPT)の運用検討会議の弾みとなる。わが国を含む数カ国は、核禁条約とNPTの軋みを危惧していたが、1MSPがNPTへ支持を明確にしたことを高く評価する。一方、核兵器が存在する限り、NATO加盟に反する核禁条約にドイツは加入することはできない。TPNWの非加盟国である限り、その条項には縛られない。ドイツは、建設的な対話と実践的な協力機会の開発に取り組むことを約束する」
他の米国同盟国も同様な発言をしました。これらを聴いた日本からの出席者の声は「同様な発言なら日本政府もできたし、してほしかった」というものでした。
核禁条約の署名国にはならない意思を明確にしつつもオブザーバー参加をした国々に対し、議長国であるオーストリアのアレクサンダー・クメント大使は、「核兵器の人道的影響、リスクに関する深い議論に建設的な形で関与する意思だ」と述べ、その姿勢を高く評価しました。
日本政府は「核禁条約は核保有国が参加しないから意味がない。核保有国も参加するNPTの場で日本は貢献する」と核禁条約締約国会議へのオブザーバー参加を拒み続けています。
しかし、日本の被爆地の大学やNGOの皆さんが、その知識と経験から積極的に貢献したいと考えている核兵器の「被害者支援」や「環境修復」の活動は、NPTにはない核禁条約ならではの内容です。こうした分野で核禁条約に貢献するのであれば、核保有国の参加がなくても推進できます。
「被害者支援」「環境修復」に関しては、来年11月の第2回締約国会議(2MSP)までに会期間作業グループ(WG)が設置され、セミパラチンスクの元核実験場の問題を抱えるカザフスタン等が中心となって議論が進められることが決定されました。
これらの分野での貢献を志す日本のNGOの皆さんの気持ちを大切にしたい。その思いから、私は日本政府不在の下で、カザフスタン代表団のカイラト・サルジャノフ国際安全保障局長との非公式会談を持ち、会期間WGに日本の専門家が参加する用意があることを伝えるとともに、今後、地理的均衡も考慮して選出される、科学諮問グループへの朝長万左男・長崎大学名誉教授の推薦をお願いしました。
1MSPから90日以内の科学諮問グループへの推薦は、締約国でない日本にはできません。被害者支援・環境修復の分野で長年の協力関係のあるカザフスタンに日本の専門家の推薦を依頼することに対し、議長のクメント大使からは「良いアイディア」とのコメントがあった一方、中満泉・国連事務次長・軍縮担当上級代表は「まずはオブザーバー参加の決断がなければ、他の締約国からの理解が得られるかどうか」という見通しが示されました。この分野でわが国に蓄積された見識を生かしていくためにも、次期締約国会議への日本のオブザーバー参加の早期表明が望まれます。
日本政府は、8月のNPT運用検討会議への岸田文雄首相の出席、今年中の広島での国際賢人会議開催、来年の主要国首脳会議(G7サミット)の広島開催など、「核兵器のない世界」をめざして一連の行事を進めていくとしています。しかし、次期締約国会議への流れの中でこれらを位置付けていかなければ、少なくとも核禁条約の加盟国の理解は得られません。
1MSPで副議長を務め、来年の2MSPの議長国となるメキシコのカンプサーノ・ピニャ在ウィーン常駐代表の「次期会議での日本の貢献を期待したい」との言葉にどう応えるか。核保有国と非保有国の橋渡し役を務める意思と能力がありながら、今回は全く機能しなかった現地の日本大使館の支援体制のあり方を含め、政府に具体的対応を求めていきます。
INPS Japan
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