ニュース視点・論点|ネパール|民主主義からデマゴギーへ(クンダ・ディキシット『ネパーリ・タイムズ』の編集長)

|ネパール|民主主義からデマゴギーへ(クンダ・ディキシット『ネパーリ・タイムズ』の編集長)

【IPSコラム=クンダ・ディキシット

手ぶれしたアマチュアビデオは、ネパールの毛沢東派リーダーが、7000人のゲリラしかいないのに、国連を騙して3万5000人の軍勢がいると思い込ませたことを自慢している映像を捉えていた。彼はこの中で、民主主義と和平プロセスへのコミットメントについて皆に嘘をついてきたこと、そして彼の本当の目標は軍隊と国家の完全支配であることを認めている。

これらはすべて、毛沢東主義革命の指導者が言うべき、至極当然のことであった。しかし、これはプシュパ・カマル・ダハル(戦名は「プラチャンダ」)が昨年、和平協定に署名した後、首相に選出される前に軍隊に向かって語った言葉である。

このテープは、プラチャンダが5月4日に陸軍大将の解任に失敗して首相を辞任した後、ネパールのテレビ局で放送された。毛派のリーダーが他の政党や国際社会をいかに欺いたかを自慢している姿が暴露されたことで、他の政党が彼の意図を信頼し、彼を新しい連立政権に加えることは困難になったのである。

昨年の選挙での毛沢東の勝利は民主主義の勝利を意味し、ネパールは、暴力革命を起こした集団が銃弾ではなく投票によって政権を獲得した、紛争解決の成功モデルとして歓迎された。しかし、それはあまりにも楽観的な見方だったようだ。 

テープの中で、プラチャンダは、すべては手の込んだ策略であり、革命を完成させ、全権力を握るための戦術であったと語っている。「軍隊を支配した後は、何でもできる。」のだ。

そして、プラチャンダは、陸軍大将のルックマングド・カタワル将軍をクビにして、自分たちが育ててきた副司令官と交代させることによって、まさにそれを実現しようとしたのである。カタワルは、ネパール軍に毛沢東派ゲリラを入れることに断固反対していた。教化された政治的幹部が軍のプロ意識を破壊すると言っていたからだ。プラチャンダは、カタワルが引退する2ヶ月前に、とにかく退役を命じた。毛派の意図は、ネパールの10年にわたる反乱で軍事的に倒すことができなかった軍隊を、こっそりと引き継ぐことであることは明らかであった。

軍が真っ二つに割れて収拾がつかなくなったとき、ランバラン・ヤダヴ大統領が介入し、カタワルの復職を要請した。プラチャンダは、面目を保つため、そして、自分の支持者の間で道徳的優位に立つために辞任した。

プラチャンダの下心に関する暴露は、毛派と他の政党の間のギャップを広げ、新政府の樹立を困難にしている。彼らは5月9日の連合結成の期限に間に合わず、ネパールが新政府を樹立するまでにしばらく時間がかかりそうだ。

ネパールにはこの遅れは許されない。選挙で選ばれた代表者は、来年4月までに連邦共和制の新憲法を起草しなければならないが、このプロセスはすでに遅れている。国連が監督するキャンプにいる数千人の毛派ゲリラは、国連の任務が終了する7月までに統合、リハビリ、動員解除されなければならない。今後、どの政党が政権を取るにせよ、その仕事は大変なものだ。

和平プロセスもさることながら、新政府は開発活動を活発化させる必要がある。この9カ月間、毛派主導の政府は政治に執着し、法秩序を悪化させ、開発活動を停滞させた。民衆が再び立ち上がらないのは、カトマンズのどの政府にもあまり期待をしてこなかったからである。

一方、毛派は青年共産主義者同盟から戦闘的な幹部を動員して、大統領に対する街頭抗議行動を起こし、他の政党の支持者を恐怖に陥れている。彼らは大統領の動きを支持する者に対して「物理的な攻撃」をすると脅し、インドがネパールの内政に干渉していると非難して民族主義的熱狂を煽ろうとしているのである。

2006年以来ネパールの和平プロセスに舵を切ったインド政府は、プラチャンダに陸軍長官を解任しないよう圧力をかけていた。インド陸軍とネパール陸軍は密接な関係にあり、インド軍には6万人のグルカ兵が所属している。インドの治安部隊はインド東部6州で自国の毛派ゲリラとの戦いにも従事しており、隣に全体主義の毛派ネパールがあることを望んでいないのである。

選挙で政権を取った後、毛派が武力、脅迫、威嚇の手段に訴える必要はなかった。実際、政権を取った後、彼らはさらに大きないじめっ子になってしまった。統治しようとする代わりに、支配を拡大するために貴重な時間を浪費してきた。彼らは、官僚、司法、軍隊、メディアを組織的に弱体化させようとしている。

大統領が軍隊を統制しようとする彼らの試みを阻止すると、毛派は憲法上の大統領という制度そのものを攻撃し始め、今や国会を麻痺させた。全体主義的な野心を隠そうともせず、自前の軍隊を持つ政党が、今になって軍隊に対する「文民優位」を訴えているのは皮肉なことだと多くの人が感じている。

ネパールのメディアと民主化運動家は、過去に絶対王政や独裁政権と闘ってきた多くの経験を持っている。問題は、民主的に選ばれた指導者が、政権を獲得するのに役立ったまさにその制度の解体を進めたときに生じる。ネパールの新たな挑戦は、選ばれたデマゴーグと戦うことである。(原文へ
 
翻訳=IPS Japan 

*クンダ・ディキシット氏は、『ネパーリ・タイムズ』の編集長・発行人で、元BBCラジオ国連特派員、元インタープレスサービスアジア・太平洋総局長。

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