ニュース視点・論点|軍縮|核軍縮には未来がある(セルジオ・ドゥアルテ国連軍縮担当上級代表)

|軍縮|核軍縮には未来がある(セルジオ・ドゥアルテ国連軍縮担当上級代表)

【ベルリンIDN=ジャムシェッド・バルア】

国連は、核軍縮が現実に起こっていることに疑問を抱き、それが最終的には「核兵器なき世界」につながるかどうかを危ぶむ意見が強くなってきていることについて、その否定に躍起になっている。国連軍縮担当上級代表のセルジオ・ドゥアルテ氏によれば、世界の国々と人々は、核兵器にこだわることで、国際的な相互依存を作り上げるなかで勝ち取ってきたものを危険にさらすことはないだろう、という。

ブラジルの外交官であるドゥアルテ氏は、「この時代遅れで、コストがかかり、本質的に危険な兵器、その保有は許されず、非人道的だと広く考えられている兵器にこだわることで作られる、幻想の国家安全保障上の利益」に各国が引き寄せられることはないだろう、と考えている。「これには、将来への希望を幾分かは感じます。核の脅威を防止するという点についていえば、この兵器を廃絶する以外の方法はありません」。

11月4日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際セミナーでの一こまである。従って、核軍縮には確かに未来がある。「それは正しいことだ。そして、実際に行いうる」とドゥアルテ氏は語った。

 実際、核兵器国では軍縮機関の設置が目立つようになってきているし、軍縮の公約を履行するための国内法・規則も制定されている。軍縮措置のための予算もつけられるようになってきている。

また、軍縮の責任を果たすよう任務を与えられた研究所や企業、組織も現れ、多くの核兵器が物理的に廃棄され、すべての核兵器国の核戦力の規模と構成、核分裂性物質、運搬手段に関する実質的な新情報が提供され、具体的な軍縮措置に関する詳細な情報も出されている。

国連事務次長でもあるドゥアルテ氏は、核兵器国の一部が自国の核戦力に関する情報を近年さらに公開していることを評価している。そうした情報は、軍縮の公約を履行する上でアカウンタビリティと透明性を強化するより広い文脈の中で、重要な意味を持っているからだ。

ドゥアルテ氏は、国連の潘基文事務総長が2008年10月に発表した5点の核軍縮提案の中で、核兵器国に対して国連事務局にそうした情報を提示するよう求めていたことに注意を向ける。

行動21


この考え方は、2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で採択された勧告の中の行動提起第21項に盛り込まれている。すなわち、国連事務総長に「市民が利用しうる(核戦力の)目録」を作るよう求めたものである。第21項は、核兵器国がこの目的のための「標準的な報告様式」を作り、適切な報告間隔について合意を形成するよう要求している。

核兵器国はこの運用検討会議の初のフォローアップ会合として、2011年4月にパリに集まる予定である。国連軍縮局は、核戦力の情報公開のためにウェブサイトに目録を掲載することになろう。

だとすると、結局のところ、核軍縮はどの方向に向かっているのだろうか?漸進的な軍縮政策で核兵器が「より少なく」なれば、世界は満足することになるのだろうか。「おそらく、そんなことはない。核兵器国以外は、核不拡散の部分的措置を取るだけで満足することはないだろう」とドゥアルテ氏は語った。

核軍縮が実行されないまま世界が直面している危険と、終わりなき核拡散という状況を目の当たりにして、核軍縮への最後の頑強な抵抗も、いよいよ弱まることになるのだろうか?「おそらくそうでしょう。少なくとも、この状況は、オバマ大統領が2009年4月にプラハで述べたとおりに、『核兵器なき世界』での平和と安全を達成する可能性へと道を開くことでしょう」とドゥアルテ氏は語った。

批判

ドゥアルテ氏はまた、この重要なスピーチにおいて、漸進的なアプローチへの批判も紹介した。すなわち、そうしたアプローチは、徐々に条件が展開されていくゲームのようなものであり、軍縮は結局のところ、遠いビジョン、あるいは究極の目標、比喩的に言えば「霧に覆われた山頂」にとどまるというのだ。
 
 本当の軍縮を回避するための詐術として条件や前提条件が持ち出されることは、なにも珍しいことではない。アルバ・ミュルダールが1976年に著した『軍縮のゲーム』〔邦題は『正気への道―軍備競争逆転の戦略』〕には、そのようなゲームがいかに冷戦中に行われたかについて記述してある。

「……両者は、軍縮合意に向けての提案を出すことであろう。それも、しばしばあらゆる側面に関してのものである。しかし、それらの提案には、相手方が飲めないような条件が巧妙に仕掛けられている。こうして軍縮は、過去も今も、ずっと掘り崩されてきたのだ」。

ドゥアルテ氏は言う。「今日、核軍縮に向けた包括的なアプローチを持った提案は多くありません。少なくとも、1978年の初の国連軍縮特別総会で国連の『究極の目標』として定立された『効果的な国際規制の下での一般的かつ完全なる軍縮』という線に沿った提案ではなくなってきているのです」。

代わりに、軍縮に向けて前提条件を相手に課すことが横行している。このゲームには新規プレーヤーが参入し、新しいルールができているかのようにも見えるが、実際には古いゲームそのままなのである。

前提条件

世界平和がまず達成されるまでは軍縮を先送りにしようという提案は、この類のものである。すべての大量破壊兵器(WMD)拡散の脅威がまず除去され、すべての地域紛争がまず解決され、WMDによるテロの危険性がまずなくされ、すべての危険なWMD関連物質がまず完全に管理され、確実なる保全措置の下に置かれ、そしてもちろん、戦争への解決策がまず出されなくてはならない、という前提条件の出し方もまたしかりである。

「こうした前提条件の結果―そしてその真の目的―は、軍縮を永久に先延ばしすることにある。」とドゥアルテ氏は語った。

軍縮を実施するには、人間の良心の根本的な変革が必要であり、非暴力の原理による完全に新しい社会の夜明けを待つべきであり、すべての国家の軍備、もっといえば国民国家そのものが廃絶されるべきである、という論じ方についてもまた同じことが言える。

しかし、ドゥアルテ氏によると、これまでのアプローチとは違って、この手の前提条件を課そうとする人々には、核兵器を永遠に保持しようという動機には欠けるのだと言う。「彼らは、漸進的でステップ・バイ・ステップの協議や、現在の国際安全保障システムの手直しによって、核兵器なき世界を作ることは十分可能だという議論に疑問を持ち始めています」。

「しかし、彼らのラディカルな処方は、ユートピア主義、あるいは、空想的な理想主義によっているのではありません。むしろ、これまでの軍縮のゲームにおける『いつものやり方』に対して、苛立ちを覚えているのです。このゲームにおいては、言葉ばかりが先行して、具体的な行動が伴っていません」。

しかし、これだけで国連における軍縮問題が尽くされているわけではない。

歴史的にみれば、国連軍縮委員会、国連総会第一委員会、ジュネーブ軍縮会議といった国連の軍縮機構は、多国間規範の醸成と維持のためのメカニズムであった。その目標とするところは、この60年にわたってきわめて明確であった。すなわち、すべての大量破壊兵器(核兵器、生物兵器、化学兵器)の廃絶と、通常兵器の制限あるいは規制である。しかし、それは実際に達成されたというよりも、最終的な目標に関する単なる合意といったようなものだ。

5つの基準

ドゥアルテ氏は、「この複雑で現在進行形の多国間プロセスは、軍縮合意において適用されるべき具体的な基準に関するコンセンサスを世界で作り上げてきた。」という。いずれの政府や市民もそうした合意を検証し、それが実質的なものといえるかどうか判定するにあたって利用すべき基準である。


「こうした基準は、軍縮が起きる条件、あるいは前提条件として出されているものではありません。それは、私たちが自信を持って軍縮は実際に起きているとみなすことを可能にするような基準なのです」。

「これら5つの基準は、これまでの数多の国連総会決議やNPT運用検討会議の議事録、さらには、運用検討会議での最終文書にも容易に見出しうるものです。」とドゥアルテ氏は説明した。

これらの基準のうち第一のものは「検証措置」である。国内のものであるか国外のものであるかを問わず、他国がその義務を完全に遵守していることを別の国が確認できるようにするためのすべての方策がここには含まれる。

核軍縮のプロセスにおいては、一方的宣言にはかなりの限界がある。米国とロシアが1991年にそれぞれに短距離の戦術核を大量に撤去したという動きにもそれは表れている。「そうした宣言は、核廃絶を達成する方法としては不十分だ。」とドゥアルテ氏は語った。

しかし、検証措置は、国家が隠蔽工作を行っていないと証明する唯一の基準ではない。透明性の向上もまた、同じ目的に資する。検証も透明性の向上も、信頼醸成措置なのである。実際、核兵器の数、核分裂性物質の量、核兵器の運搬手段に関する包括的で検証されたデータなしに、どうやって世界が核廃絶を目指すのか想像することは困難だろう。透明性の向上によって世界は軍縮の実行されるさまを眼にし、その進み具合を計ることができるのである。

第三の基準は、不可逆性である。これもまた、将来の軍縮合意において鍵を握ると世界が認めた信頼醸成措置のひとつである。軍縮合意をひっくり返そうとする突然の動きを封じるには必要不可欠だとみなされている措置である。

ドゥアルテ氏は言う。「不可逆性は、軍縮の公約を放棄させない政治的、技術的障壁を打ち立てることの必要性を裏書きしています。この障壁は、他の基準である『検証措置』と『透明性向上』によって補強されます。ここでの目標は、事態の逆流を防ぐというだけではなく、そのような行為をやめさせたり集合的な国際的反応を準備したりするために、可逆的な行為を速やかに察知することにあります。理想的には、不可逆性という目標は、逆行を難しくするだけではなく、完全に不可能にすることなのです」。

「検証、透明性向上、不可逆性の3つはそれぞれに重要だが、それ単独では、『核兵器なき世界』を導くのには不十分です。」とドゥアルテ氏は語った。

第四の基準―普遍性ということに関係あるのだが―は、核軍縮は一部の国によってのみ行われるものではない、ということである。それは、すべての国家が厳格に果たさねばならない責任である。それは、NPT第6条によって明確な核軍縮義務を負っているNPT加盟国に関して、特に言えることである。

しかし、それはまた、国連安保理決議1887のテーマでもある。この決議は、2009年9月24日にハイレベル会合によって採択され、すべての国家(NPT加盟国だけではない)に対して、核兵器削減と核軍縮に関連した効果的な措置に関して、さらには、厳格で効果的な国際的規制の下における一般的かつ完全な軍縮に関する条約について、交渉を誠実に追求することを求めている。

核軍縮は、それが正当な目標であると見なされているがゆえに、現在世界で広く支持されている。それは、開かれた民主的なプロセスをつうじて合意されたという点においても、二重基準を認めない実質的な公正さの点においても、正当なものである。
 
 最後の基準、すなわち「法的拘束力」は、上記すべての基準に関連している。「高い山頂に関する祝辞を述べ、報道発表を出し、演説をしただけでは、核兵器ゼロを達成することは出来ない。」とドゥアルテ氏は言う。核兵器は地球上もっとも危険な兵器であるから、世界が可能なかぎり厳格な基準を打ち立てて「核兵器なき世界」を維持しようとするであろうことは、まったく驚きに値しない。

条約上の義務は、具体的な措置を決め、その措置を恒久的で持続可能なものにしていくにあたって不可欠のものである。核兵器禁止条約、あるいは、同じような目標を持った相互に強化しあう道具立ての枠組みを追求することが重要なのは、そのためである。

ドゥアルテ氏は、「この意味において、条約の批准プロセスは、厄介なものでも面倒なものでもありません。公約が国内法と国内での強力な支持によって支えられているようにするには、必要不可欠のものです。核軍縮は、立法府の頭越しに成し遂げることはできません。立法府と組み、より広く市民全体と手を組んで、はじめてできることなのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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