ニュース視点・論点|視点|緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ)

|視点|緊急性を増した核軍縮(ミハイル・ゴルバチョフ)

【ローマIPS=ミハイル・ゴルバチョフ】

今日の世界においてもっとも急を要する問題のひとつは、核兵器の危険性である。北朝鮮による5月25日の予想外の核実験と短距離ミサイル発射実験は、そうした恐怖をあらためて想い起こさせた。

1990年代以来、核軍縮の分野においては根本的な変化が起こっていない。冷戦終結から20年経っても、核兵器国は依然として数千発もの核兵器を保有し、世界は新たな軍拡競争の危険性を目の当たりにしている。 

実際、核軍縮でこれまでに達成されたことと言えば、1980年代末から90年代初頭にかけて結ばれた協定の履行ぐらいであった。1987年の中距離核戦力(INF)条約は2種類の核ミサイルを廃絶し、1991年の戦略兵器削減条約(START)はこれまでで最大の核兵器削減を打ち出した。また、米ソ協定によって、数千発もの戦術核兵器も廃棄された。 

しかしその後、核兵器削減のペースは遅くなり、管理と検証のメカニズムは弱められる。包括的核実験禁止条約(CTBT)は未だに発効していない。ロシアと米国が保有する核兵器数は他国の保有核兵器数の合計をはるかに上回り、それがために、米ロ以外の核保有国が軍縮プロセスに関わることを難しくしている。

核不拡散体制も危機に立たされている。主要核兵器国である米ロにその責任の大半があるが、中でも米国は、対弾道ミサイル制限条約(ABM条約)から脱退し、CTBTを批准せず、法的拘束力と検証メカニズムを伴った戦略攻撃兵器削減のための条約をロシアと新たに結ぶことを拒否している。 

最近になってようやく、米ロは現在の状態をいつまでも続けているわけにはいかないことに気づき始めたようだ。米ロの大統領は、今年末までに、戦略攻撃兵器を削減するための検証メカニズムを伴った条約を結ぶことで合意し、核不拡散条約(NPT)の下での義務を果たすとの約束を再確認した。両国の共同声明は、米国によるCTBT批准など、核の危険性を減らすための他の措置の実行を呼びかけている。 

これらは大いに意味のあることだ。しかし、問題と危険性の大きさの前では、これまでの成果もかすんでしまう。その根本原因は、冷戦終結の原因を見誤っている点にある。つまり、米国などの諸国は、冷戦の終結を西側の勝利だと見、単独主義的な行動へのゴーサインだとみなしてしまったのである。こうして、真の協力を基盤とした国際安全保障のための新しい制度を構築するのではなく、残った唯一の超大国と、冷戦期の遺産でありその後も改編されることのなかった北大西洋条約機構(NATO)のような組織によって、世界を独占的に指導しようと試みてきたのである。 

国連憲章の下ではもちろん違法である武力の行使(またはその威嚇)が、問題解決の「通常の」方法として再評価されるようになった。公的文書によって先制攻撃ドクトリンと米国による軍事的優勢の必要性が正当化された。 

人類は、あらたな軍拡競争に十分警戒をしなくてはならない。依然として軍事政策に資金を投入することに比重が置かれ、安全保障の面から見て必要な水準をはるかに超す「防衛」予算が伸び続けている。兵器貿易もそうだ。米国は、世界の他の全国家の合計と同程度の軍事支出をしている。国際法と紛争の平和的解決の原則への無視、国連と安全保障理事会の軽視が、ひとつの政策として主張されている。 

結果として、欧州(ユーゴスラビア)で戦争が起こった。それは以前には考えられないことであった。中東情勢は以前より悪化した。イラク戦争も起こった。アフガン情勢は極端に悪くなった。核拡散の危機が増した。 

その主要な原因は、核兵器を保有する国々(核クラブのメンバー)が、核兵器廃絶を目指して努力するという核不拡散条約上の義務を果たしていないことにある。これが事実であれば、他国が核兵器を取得しようとする危険は消えないことになる。今日では、技術的に核保有が可能な国は数十にのぼるのだ。 

最後に、核の危険は核兵器を廃絶することによってのみ除去できると主張したい。しかし、国際関係を非軍事化し、軍事予算を減らし、新型兵器開発に歯止めをかけ、宇宙での武装を防ぐことなくしては、核兵器なき世界に関する議論は空しいものとなるだろう。 

オバマ大統領が4月5日に行った演説を聴くと、米国が本当にCTBTを批准する可能性が出てきたと私は考える。これは、とりわけ、米ロ間での戦略兵器削減新条約と組み合わせることで、重要な前進となるだろう。 

その後に、核クラブの他のメンバー――公式メンバー、非公式メンバーを含めてだが――が、少なくとも核兵器製造の凍結を宣言し、その制限と削減に関する交渉を始める用意があることを明らかにすべきであろう。核兵器の最大の保有国が本当にその削減を始めたら、その他諸国は、それを静観したり、国際的管理から自らの核兵器を隠し通したりすることは難しくなる。 

それなしでは共通の安全保障が達成できない「信頼」というものを我々が持とうとするのならば、我々はいまこそ核兵器を問題視しなくてはならないだろう。(原文へ

INPS Japan 

※ミハイル・ゴルバチョフは、1985年から91年までソ連の最高指導者。世界政治フォーラム会長。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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