この原稿は2022年核不拡散条約再検討会議の初日(8月1日)に国連本部で『核軍縮と持続可能な未来のつながり(Nexus between Nuclear Disarmament and Sustainable Future )』をテーマに、外交官や核軍縮専門家ならびにNGO関係者等約70人が参加して開催されたサイドイベント(長崎県・広島県共催)における湯崎知事のスピーチ内容である。
【ニューヨークIDN=湯崎英彦】
皆さん,こんにちは。広島 県知事/HOPe 代表の湯﨑英彦です。
核兵器と持続可能性を考えるにあたって、現在のウクライナ危機から考えたいと思います。まずは、一日も早くウクライナに平和な日常の暮らしが戻ることを願っています。今回のウクライナ危機と持続可能な開発目標(SDGs)との関係を見ると、ウクライナ国内は当然 SDGs全ての目標に非常に深刻な影響を及ぼしていますが、世界の3割に及ぶロシア・ウクライナ両国の小麦の輸出量の減退が食糧危機に拍車をかけるなど、世界的にもSDGs達成に向けたマイナスの影響が顕著になっています。
また、今回のウクライナ危機では、ロシアの核兵器による威嚇や原子力発電所への攻撃など、世界が核による脅威に直面しました。 核兵器の使用は、SDGsが掲げるすべての目標の達成に壊滅的なダメージを及ぼします。77年前の広島は、産業・生活インフラ、教育施設、保健医療などあらゆる分野で,壊滅的な被害を受け、土壌・森林・海洋は汚染されました。そして何よりも、女性、子供、老人を含む数多くの尊い生命が失われました。核兵器は、人類の持続可能な未来にとって、明確な脅威であることを、ウクライナ危機に直面する現在、我々は改めて想起する必要があります。
核兵器は、持っているだけで使われなければよいと主張する人もいます。しかし、核兵器は、その製造プロセスにおいて、ウラン鉱山の採掘者への健康被害、 核実験による人的被害や海洋森林汚染、核廃棄物による汚染など、例え使われなくても、製造し,保有しているだけで、SDGsの達成にとって大きなマイナス の影響を及ぼし続けています。
広島と長崎は、国際社会からの支援も受けながら,原爆による惨禍から、見事に復興を果たすことができました。しかし、失った尊い人命や放射線で傷ついた遺伝子は決して元に戻ることはありません。世代間で断絶し、取り戻せなくなったものも数え切れません。カタストロフィー(大惨事)に陥る前に防ぐことが重要です。気候変動問題には緩和と適応という対応策がありますが、核兵器問題に適応はあり 得ず、緩和も難しい、使ったらそれで終わりです。そういう意味では、気候変動よりも深刻であり、予防こそが唯一の解決策となります。その実現に人類の英知が試されています。
〇これまで、MDGsでは途上国支援、SDGsでは環境・社会・経済を包括した開発を中心としてきましたが、2030年以降のポスト SDGsでは、これら に「平和・安全保障」を加えた目標にする必要があると考えています。
〇そのため、広島県・HOPe は、国際 NGO 等と共に、人類と地球の「持続可能性」という概念に着目した新しい市民社会プラットフォームとして GASPPA を立ち上げました。
〇GASPPA のコンセプトフレーズは、「核兵器なき世界の実現なくして、真に持続可能な世界はあり得ない」です。人権や社会,環境など核以外の分野で活動 する人々と連携し,”Sustainable Peace and Prosperity for All”をコンセプト に、核兵器廃絶を人類共通の課題としてポスト SDGs に位置付けることを目指します。
これまで核兵器の問題を考える上では,国家の安全保障と人道性という観点が 重要視されてきました。NPTは前者,そして TPNW は後者に焦点化した結果成立したものです。本日のイベントでは,それに連なるべき,持続可能性という 観点の重要性を認識する機会となることを期待しています。(原文へ)
INPS Japan
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