ニュース視点・論点核兵器禁止に向けた大きな節目となる国連条約が署名開放さる(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

核兵器禁止に向けた大きな節目となる国連条約が署名開放さる(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

【国連IDN=セルジオ・ドゥアルテ】

ニューヨーク国連本部で9月20日に始まった核兵器禁止条約の署名開放は、人間が発明した史上最も破壊的で残酷な兵器を廃絶するために国際社会が取組んできた長い歴史において、一里塚となるものだ。

条約交渉が、市民社会組織からの力強い支持を得て粘り強く取り組まれてきた背景には、「核兵器のない世界」を実現し維持するために必要な規範的枠組みの中で、核兵器の禁止が不可欠な要素であるとの認識が世界的に強まってきた現実がある。それは、核軍縮に関する具体的な進展が長らく見られないことに対する不満や、核兵器がもたらす人道被害に対する考慮から生じた、性急あるいは軽率な動きではない。むしろ、人類が長らく抱えてきた熱望に対応するものだ。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

第一次世界大戦の後に結ばれた化学兵器に関する最初の合意の背景にあったものは、人道的な懸念であった。この戦争手段を完全に違法化する多国間プロセスには、数十年を要した。つまり、細菌(生物)兵器が違法化されたのは1970年代で、化学兵器禁止条約が発効したのは1990年代のことであった。

核兵器の禁止・廃絶についてはどうかというと、1946年以来長らく、国連において国際的論議の対象となってきた。しかし、残念なことに、完全に満足のいく形の解決には至っていない。国連第一回総会の第一号決議は、とりわけ、「国家の兵器庫から原子爆弾の除去計画案」を立案するための国連原子力委員会の創設を決定するものだった。

しかし委員会の努力も、当時の米ソ二大超大国間の角逐と不信によって進展が妨げられ、数年後に放棄された。それ以来、数多くの部分的な措置が協議されてきたが、いずれも核兵器の拡散予防に関するものであった。また一方で、核兵器廃絶に関する、不可逆で法的拘束力がある多国間合意の締結は、きわめて見通しが暗いものとなった。推計によると、世界には1万5000発以上の核兵器が9カ国によって保有されており、そのうち1万3800発が米ロ両国に保有されている。

核兵器廃絶を追求する取り組みは数十年に亘って続けられてきた。中でも注目に値する提案は、コスタリカとマレーシアによるモデル核兵器禁止条約(1997年。2007年に改定)である。潘基文前国連事務総長は、2008年にこの案文をベースに核兵器禁止条約の締結を呼びかける「核軍縮5項目提案」を打ち出している。核兵器を廃絶する必要性については、全ての国家が合意しており、核不拡散条約(NPT)やその他多くの国際協定においても認識されている目的である。

核兵器の保有国とその同盟国のほとんどは、これまでのところ、禁止条約に対して否定的な見方を示してきた。しかし、新しい取り決めは、他の措置と切り離した形で核兵器の禁止を追求しようというのではない。また、核兵器廃絶につながる行動において、世界の安全保障環境を無視しようというのでもない。

国際社会が深刻な安全保障上の諸問題に直面していることについて異論を唱える者はいない。ちなみに、そうした問題の多くは、事実、核兵器の存在そのものに起因しているものだ。核兵器保有国が、早期の段階で禁止交渉プロセスに関与・参加していれば、これらの国々にとって圧倒的に重要であると思える安全保障上の諸懸念について取り上げ、説明することができたはずだ。

現実的な(核軍縮)協議をする条件が現段階で存在しないという主張は、無期限の現状維持を正当化する方便として使われてきた。しかし、何がそうした条件にあたるのかは、明確にされてこなかった。従って、(もし交渉会議において)こうした見解を持つ国々とのオープンな議論ができていたならば、相互の利益に関する多くの点を明確にするうえで有益だっただろう。

交渉会議に向けられたもう一つの反対論は、それがコンセンサスを基盤としたものではなく、核兵器保有国と非保有国の間の亀裂を深める危険がある、というものだった。しかしそうした亀裂は、そもそも世界を2つの国家集団(=核兵器保有が認められる5カ国と保有が認められないその他の国々)に分割したNPT体制の基本的な特徴である。

禁止条約は、国際法上の対世的(=国際社会全体に対して負う)義務の適用を意図したものであり、2つの国家集団の間の溝を埋めることを目的としたものだ。NPTの信頼性と効果は、第6条(=核保有国の核軍縮義務)の履行を呼びかけたからではなく、むしろ核兵器保有国がその義務を履行していないと認識されることによって、損なわれてきた。第6条に盛り込まれた義務は、国際司法裁判所(ICJ)による1996年の勧告的意見によって明確に示されている。ICJは、核軍縮の実現に向けた協議に誠実に関わることを加盟国に要求しただけではなく、それを実際に妥結させることも求めた。

ICAN
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核兵器が登場してから70年余、NPTが発効してから47年、核兵器保有国によるこれまでの言動は、軍縮義務の履行を無期限に先延ばしするものに過ぎなかった。

国連総会は、9月26日を「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」と定めた。今年のこの日のイベントは、核兵器禁止条約の署名開放直後ということになる。国連総会はまた、核兵器廃絶に向けた進展状況を評価するために、遅くとも2018年までに核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合を招集することを決定している。

近年の国連総会ハイレベル会合は、気候変動に関するものや、海洋、移民に関するものなど、大きな成功を収めてきている。諸国は、市民社会組織からの積極的参加を得て、核不拡散や軍縮に関する議論に新たな推進力を与え、この分野で具体的進展をもたらすことを目的としたプロセスに参加する機会を利用しなくてはならない。諸国には、核兵器禁止条約という最新の取り決めを、無益だとか逆効果だとか言って否定するのではなく、世界から核兵器をなくすという共通の目的に向けた効果的なツールとしてこれが使われるように努力することが期待されている。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、国連軍縮問題担当上級代表(2007~12)。核不拡散条約締約国第7回運用討会議(2005年)議長。キャリア外交官としてブラジル外務省に48年間勤務。オーストリア、クロアチア、スロバキア及びスロベニア、中国、カナダ、ニカラグアでブラジル大使を務める。また、スイス、米国、アルゼンチン、ローマにも駐在した。8月末からは「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」議長。

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