SDGsGoal4(質の高い教育をみんなに)|視点|世界市民のための教育を理解する(カルティケヤ・V・サラバイ環境教育センター創設者・代表)

|視点|世界市民のための教育を理解する(カルティケヤ・V・サラバイ環境教育センター創設者・代表)

【アーメダバード(インド)IPS=カルティケヤ・V・サラバイ】

持続可能な開発のための教育」(ESD)は環境や経済開発、社会的側面に関する関心を統合するものです。初の国連人間環境会議がスウェーデンのストックホルムで1972年に開催されて以来、環境保護と人間開発との間の複雑なつながりについて意識が高まってきました。

私たちのライフスタイルと私たちが発展してきた様が環境に大きな影響を及ぼすということは、長らく知られてきました。レイチェル・カーソン女史が1962年に著した『沈黙の春』は、とりわけそれが出版された米国において人々の目を開かせるものでした。

しかし、開発と環境問題が同時に扱われねばならないという認識が芽生えたのは、恐らく1976年の国連人間居住会議以降のことだと思います。そして、1992年に国連環境開発会議(通称、地球サミット。第二回国連人間環境会議とも言われる:IPSJ)がブラジルのリオデジャネイロで開催される頃までには、環境破壊が地球規模の問題だと認識されるようになりました。

地球サミットでは、それまで別途に協議が続けられていた「気候変動に関する国際連合枠組条約」(気候変動枠組条約)と「生物の多様性に関する条約」(生物多様性条約)が採択され署名が開始されました。これらの問題を各国政府が国内問題として解決することはもはやできないことが、次第に明らかになっていったのです。とりわけ気候変動問題に関する認識が高まるにつれて、地球のある部分で起きたことが他の場所に影響を及ぼすことが理解されるようになりました。

ジョージ・W・ブッシュ大統領が地球サミットで「アメリカ的な生活様式は交渉の対象でない」と宣言したにも関わらず、これらの問題は究極的には、人間の生活様式に関わっているということを国際社会が理解するようになりました。それまでの開発のあり方は、CO2を大量に排出し、きわめて浪費的なものだったのです。

世界を(エコロジカル)フットプリント指標で計測する試みは、1990年に、カナダの環境保護家ウィリアム・リース氏とスイス生まれの地域計画専門家マティス・ワケナゲル氏がブリティッシュ・コロンビア大学で始めたものです。これは、人間活動がいかに地球に影響を及ぼしているか(=地球環境を踏みつけにした「フットプリント(足跡)」がどの程度の物か)を知る有効な方法です。1970年代以来、人類のフットプリントの総量は、地球が許容できる能力を上回っています

当時の議論、そしてかなりの部分において今日のグローバル議論は、政策を変更し新技術を導入すれば、この「フットプリント」を持続可能なレベルにまで何とか縮小できるとの前提に立っているように思えます。しかしこの想定は広く疑問視されています。

今最も変化が求められている点は、人間の地球との関与のあり方、つまり私たちの生産・消費・浪費パターンがどのように変容していくかという点です。法律だけで人々の行動に変化をもたらすことはできません。そのためには、各人が責任感をもって行動するようになることが重要です。この責任感こそが、市民概念の中心にあるものです。

従って、世界市民とは、環境と持続可能な開発に関する理解から、ほぼ自然に生まれてくるものであり、このことから、ESDは、世界市民教育(EGC)の基礎になるものです。

また、世界市民とは受動的な存在ではなく、自ら貢献する必要があります。ESDは、ほとんどの正規の教育プログラムと異なり、必要な行動要素を内包しています。ESDはアルファベット3文字に縮められていますが、実際には4つの単語(Education, for, Sustainable, Development)を表しています。省略されている単語は「for」(~のための)であり、他の3つと同様に重要な意味合いを持っています。

つまりESDは「持続可能な開発教育」(Sustainable Development Education)ではない、ということです。もしそうであれば、持続可能な開発(SD)について人々に教えるという意味になってしまいます。「for」という単語が入ることによって、教育プロセスの最後に行動目標が設定されるのです。それは単にSDに関する一般の意識と知識を高めるだけではなく、実際にSDを達成するような行動を促すものなのです。

Education First

潘基文国連事務総長の「グローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアチブ(GEFI)」は、世界が今日の教育に求めるべき3つの主要な概念の一つとして世界市民を挙げています。EGCには、視野を広げ問題を様々な観点から考察するプロセスが含まれます。EGCプログラムでは、複数の利害関係者を含んだ議論が重要な構成要素となっています。私たちはこれを目指そうとしていますが、実際には様々な観点を理解し経験することは、必ずしも容易なことではありません。

アーメダバード(インド)の環境教育センター(CEE)は、CEEオーストラリア支部とともに「持続可能性のための地球市民(GCS)プログラム」を開始しました。これは、様々な国々の学校の子どもたちを、自然を基盤としたテーマを通じて、つなごうというものです。

例えば、「プロジェクト1600」は、インド西部グジャラート州沿岸の8つの学校と、オーストラリア・クイーンズランド州沿岸の8つの学校とつないでいます。海洋環境に関連したプロジェクトを通じて、様々な開発レベルにある大きく異なる社会に住む子どもたちが情報交換をします。この交流によって、子どもたちは従来の常識に囚われずに考え、地球の様々な場所からの非常に異なった観点から物事を理解するよう誘導されるのです。

自分の出身国や環境とは相当に異なったところで学生が時間を過ごすインターンシップも、EGCの効果的なツールです。世界的に接続性が増すなかで、数年前には考えられなかったようなEGCの可能性が開かれてきています。

ユネスコが主導し、地球全体で数多くの組織が協力してきた「持続可能な開発のための教育の10年」の間になされたESDの取り組みは、EGCに向けた基礎を築いてきました。EGCを測るツールは、EGC概念そのものと同じく、未だ発展途上にあります。ブルッキングス研究所は、「学習測定法タスクフォース2.0プログラム」の「グローバル市民作業部会」を通じて、これらのツール開発に着手しています。

開発プロセスに関わると同時に地球に対する責任感を養うという重要な点をESDにおけるこの10年の取り組みが国際社会に教えてきたのと同じく、このプログラムから継続的なフィードバックを得てそれを強化していくことが、EGCに関する特定の理解につながっていくに違いありません。(原文へ

※カルティケヤ・V・サラバイ氏は、アーメダバードに拠点を持つ「環境教育センター」の創設者で代表。同センターはインド全土に40か所の事務所を持つ。

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