ニュース視点・論点|視点|NPT運用検討の普遍化・強化を実質化せねばならない(A・L・A・アジズ・スリランカ軍縮大使)

|視点|NPT運用検討の普遍化・強化を実質化せねばならない(A・L・A・アジズ・スリランカ軍縮大使)

【ニューヨークIPS=A・L・A・アジズ】

核不拡散条約(NPT)の「運用検討プロセスの強化」と「普遍化」の問題は、それぞれの事情を考慮に入れながら検討すべき極めて重要なテーマである。

とはいえ、これらのテーマに関連した、明らかに両者を互いに関連付けるようないくつかの側面が存在する。今回のNPT運用検討会議(4月27日から5月22日まで約1か月に亘って開催)においてもこの点が見過ごされてはならない。

5年毎に開催されるNPT運用検討プロセスは実際のところ、実行されないスケジュールや基準、約束に関する単なる確認作業の場と化してしまっている。

運用検討プロセス強化の問題は、1995年のNPT運用検討・延長会議における決定事項としてでてきたもので、それ以降のNPT運用検討会議の各主要委員会において常に議題とされてきた。

1995年のNPT運用検討・延長会議の特徴は、その重要な付議事項であった(同年期限を迎える予定だった)NPTを無期限に延長した決定であるが、このプロセスの帰結としてとりわけ期待されていたことは、同条約の3本柱(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)を強化することであった。

Ambassador A. L. A. Azeez / IAEA
Ambassador A. L. A. Azeez / IAEA

3本柱の履行が完全かつ相互に補強し合うような形で達成されることが目指されたのである。

私たちは、NPTの無期限延長を成立させた当時の文脈がどういうものであったのかを忘れてはならない。核兵器を保有している国々(米国、ロシア、英国、フランス、中国)が、NPTの下で、核兵器の完全廃絶に向けて実際的措置を採ることが期待されていたのである。

当時、核兵器の完全廃絶に向けて期待された措置が、1995年運用検討・延長会議に先立つ25年の間にほとんど実施されてこなかったことが懸念をもって留意されていた。

この立場の基礎にあったのは、核保有国が、最優先事項として遅滞なく軍縮を追求するという約束であった。

このことは、複数の運用検討会議の成果に反映されている。とりわけ2010年の運用検討会議では、軍縮が「誠実に」かつ「早期に」進められるという明確な約束がなされた。

にもかかわらず、核兵器を保有する国々は、この約束を果たしていない。

元来NPTプロセスには(核兵器国による軍縮に向けた)積極的な行動を促す「前向き」な推進力が備わっているはずだが、残念ながら、戦略的利益の圧倒的な一致などの理由によって、分かりきったことを繰り返す場となってしまっている。

いま求められていることは、どのような行動計画が採択されるにしろ、(核廃絶に向けた)行程表と検証、その他の措置について明確にすることである。

NPT3本柱の内、「核軍縮」における進展は見られない。「核不拡散」は、いくつかの地域においてほんのわずかしか前進していない。一方、制限的で制御的な措置が「原子力の平和的利用」に与える影響は、あまりにも明らかだ。それは事実上、技術の否定と変わらなくなっている。

「原子力の平和的利用」の領域においては制限的あるいは制御的な措置が増え、他方で「核軍縮」の分野においては全く進展がなく、「核不拡散」の分野はその中間という状況は、人類全体にとっては退行に他ならない。

外交においては、前向きであり続けることが常に強調される。終盤に差し掛かったNPT運用検討プロセスでは、まさにそうした呼びかけが強まっていった。

しかし、NPTの他の2本の柱と互いに関連をもつ「核軍縮」の領域であまりにも多くの問題を抱えているかに見える現在のシナリオにおいて、そのような前向きな見方が取れるだろうか? 慎重な見方をしつつも、楽観主義が支配的なのだろうか?

悲観主義の兆しがすでに現れ、後戻りができないぐらい支配的なものになる可能性がある。私たちの政策やプログラムとともに私たちの思考を大きく変えようとする政治的意思が緊急に再結集されないかぎり、そうなってしまうであろう。

NPTの普遍化は、継続的に推進されねばならない目的である。しかし、この目的の背後には、1995年に達成されたNPTの無期限延長がある。

もし1995年に無期限延長の合意がなされていなかったならば、今日機能する条約は何も残されていなかったであろう。従って、NPT運用検討プロセスの強化は、NPTを普遍化するという目標を強め、またそれによって強められねばならない。

NPT延長に導いた論理は、運用検討プロセスの一環として、またそれに準じるものとして、普遍化への呼びかけに影響を与えるものでなければならない。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

NPTの延長は無期限であり、成果を生み出すべく意図されたものであった。NPTの3本柱が平等に推進され、核軍縮への前進が不可逆的なものになったとき、NPTはようやくその目的を達成したといえるのである。

強化されたNPT運用検討プロセスは、この意図された成果の実現に向けて大いに寄与することになるだろう。

しかし、普遍化という目標は、ある時限を視野に入れて推進されねばならないし、とりわけ、実質的なものでなければならない。

これはどういうことを意味するだろうか?

言うまでもなく、NPT加盟国の数が問題だし、それを増やす必要がある。しかしそれと同じように強調されねばならないのは、秘密裏に差別することなく、NPTの全ての条項を統合することの重要性だ。加盟国の国家政策とプログラムが、NPT3本柱の前進を可能にするような内容のものでなくてはならない。

NPTの運用検討プロセスは、この2つの目標を達成する取り組みを強化しなければならない。(原文へ

※A・L・A・アジズ大使は、スリランカの軍縮大使。

翻訳=IPS Japan

関連記事:

FBO連合が差し迫る核惨事に警告

中東非大量破壊兵器地帯実現の見通しは未だ不透明

2015年―核軍縮の成否を決める年

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
IDN Logo
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
Kazinform

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken