【ニューヨークINPS=タリフ・ディーン】
デジタル革命がコントロールを失って久しい中、米国の新聞の中には、発行をやめたりオンライン版に移行したりするところが出てきている。
149年の歴史を持つ『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』紙(ワシントン州)は、2009年3月、プリント版の発行を停止し、オンライン版のみに移行した。その4か月後、174年間発行を続けた『アンアーバー・ニュース』紙(ミシガン州)もプリント版をやめ、オンライン版に移行した。
2006年に公共サービスに関する報道でピューリッツァー賞を受賞した日刊紙『ニューオーリンズ・タイムズ・ピカユーン』(ルイジアナ州)は、今年9月、発行を週3回に減らした。また同じくピューリッツァー受賞紙『パトリオット・ニュース』(ペンシルバニア州ハリスバーグ)も、来年1月から週3回発行となる。
そして昨月、世界で最も有名なニュース雑誌の一つである『ニューズウィーク』も、1991年の発行部数330万部から昨年6月には150万部と減少する中、79年の印刷版の歴史に終止符を打ち、デジタル版に完全移行することになった。
こうした状況を見ると、紙媒体は墓場に向かっているのかと考えたくなる。
シェルトン・グナラトネ博士(ミネソタ州立大学名誉教授/マスコミ学)は、インターネットは、誰もがジャーナリストになれる状況を作り出すことで、寡占的な報道産業に革命をもたらした、と述べている。
また、インターネット革命は、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル、ロサンゼルス・タイムズ、USAトゥデイの「傲慢な虚勢を叩きのめした」と博士はいう。これらの新聞も、遅かれ早かれ、『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』のたどった道をゆくことになるだろうと博士は考えている。
『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』紙と『ロッキー・マウンテン・ニュース』紙が倒産した後、『アンアーバー・ニュース』が、印刷版を週2回発行しながら基本的にはオンライン版とする「ハイブリッド」型になった、とグナラトネ氏は述べている。同氏には、『40年代の村落生活――あるスリランカ人海外居住者の記憶』(アイユニバース、2012年)、『村の少年からグローバル市民へ 第1巻――あるジャーナリストの人生』『同第2巻――あるジャーナリストの旅』(エックスリブリス、2012年)の3部作がある。
INPSのタリフ・ディーン記者とのインタビューで、グナラトネ氏は、米国の多くの新聞がハイブリッドに移行している要因について語った。以下がインタビューの抜粋である。
Q:プリントメディアが苦境に陥っている理由は何でしょうか?
A:ウェブサイトやブログ、ポッドキャストなどで多くの人が雑誌タイプの記事に触れるようになったことが原因です。さらに、ニュースを読むためにスマートフォンやワイヤレスタブレットを使うようになってきているという事情もあります。
Q:広告の減少が新聞に影響を与えているでしょうか?
A:米国の新聞の製作・配布コストのおよそ8割を広告収入がカバーしています。しかし、1980年代のデジタル革命で、広告産業は、オンラインメディアの拡散によって特定の商品やサービスの対象となる消費者により低コストで情報を届けることができることに気づいたのです。
Q:ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の役割はどういうものでしょうか。
A:1990年代に情報化時代が始まり、インターネットの一部としてWWWが一般にも利用できるようになりました。ウェブは、マスメディア、メディアの消費者、広告産業にとって恵みとなったのです。三者はいずれもサイバースペースに救いを見出し、彼らの共存にとってより適した環境であることを発見するのです。
ニューヨーク・タイムズの標語「印刷に適したすべてのニュース」よりも多くのものをウェブは抱えていくことになるでしょう。先進国においては、急速に減少する広告収入は新聞雑誌ジャーナリズムを脅かす中心的な問題になっています。
Q:若い世代がますますデジタル情報に傾く中、今後25年でこの状況はどう動くと思いますか?印刷版の新聞の終わりの始まりとなるでしょうか?
A:米国の若い世代は、デジタル革命がプリントメディアを貶めるようになってのちに生まれた世代です。私のクラスには、スポーツ面以外には新聞を読まない子が多いですよ。課題にした本の章ですら読まないんですから。デジタル革命で彼らの関心は電子メディア、バーチャルメディアで読み書きすることに移ってしまいました。
アナログの機械・電子技術をデジタル技術に移行させるこの革命は、情報時代の始まりにおいて歓迎されたデジタルチップによって可能となりました。
2000年代に入って、最初は先進国で、次に途上国で急速に広まった携帯電話もまた、印刷版の新聞の経済性を奪っていきました。
世界のインターネット利用者は加速度的に増えています。現在、インドネシアには人口よりも多い台数の携帯電話があります。2010年代初めには、クラウド・コンピューティングが主流になっています。2015年までには、インターネット利用においてタブレット型のコンピューターや電話がパソコンを凌駕するであろうと見られています。
Q:この現象は米国(と西側社会)だけに限られたものでしょうか。それとも、途上国にも同じく影響をあたえそうでしょうか。
A:『ニューズウィーク』の発行者であるティナ・ブラウン氏は、同誌印刷版(デジタル版ではない)の発行ライセンスは、日本やメキシコ、パキスタン、ポーランド、韓国のような国では「きわめて強い」と語ったとされています。
国際電気通信連合(ITU)のデータによると、2006年の世界のインターネット利用者は人口の18%、2011年には約35%(20億人)になったということです。この速度だと、先進国と途上国との間のデジタル格差は、米国が崩壊する前に消えてしまいそうです。私は、米国崩壊は2043年までに起こると書いたことがあるのですが。
ティナ・ブラウン氏が挙げた5か国のうち、印刷媒体に対する儒教的影響が依然として強い日本と韓国、それからポーランドでは、『ニューズウィーク』印刷版を含めた伝統的な新聞・雑誌が、しばらくは勢力を保つでしょう。
ニュースが商品のひとつでしかない米国と違って、他の多くの国では、ニュースは社会的な財だと考えられています。
カナダ、英国、米国における有料紙の60年間にわたる発行部数を調査し、部数が減少していることを明らかにしたコミュニケーション・コンサルタントのケン・ゴールドスタイン氏は、新聞はいつの日か消えてなくなるものだと述べています。(原文へ)
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