ニュース視点・論点「それはものの見方の完全な転換だ」(ジェームズ・キャメロン監督インタビュー)

「それはものの見方の完全な転換だ」(ジェームズ・キャメロン監督インタビュー)

【国連IPS=マルゲリテ・ソッジ 】

大ヒット映画「アバター」は、貪欲な企業によって遠い星の原始的な生態系が容赦なく収奪されるというストーリーである。地球上でも、先住民族にとってみれば同じようなことが起こっている。

国連の第9回「先住民問題に関する常設フォーラム(Permanent Forum on Indigenous Issues)」での「アバター」上映会に出席したジェイムズ・キャメロン監督に、IPSのマルゲリテ・ソッジがインタビューを行った。以下にインタビューの抜粋を紹介する。

ames Cameron Credit: Courtesy of Broddi
ames Cameron Credit: Courtesy of Broddi

IPS:自然が変わりゆくさまを見ることで「アバター」の制作につながったのでしょうか。

キャメロン:自然と自分がつながっていると感じるとき、そして、社会の一部として行動していると感じるとき、心の中に一種の義務感のようなものが生じることでしょう。私の場合、それは芸術家としてこの問題について何らかの発言をするという義務感だったのです。そして私は、商業的なエンターテイメントの世界にいるわけです。

商業的なエンターテイメントは通常、こういうことを伝えるために使われる場ではありません。普通それはドキュメンタリーという形を取ることになるでしょう。しかし、ドキュメンタリーには、すでにその課題を理解している人々しかそれを見ないという問題があります。一方で、世界的な大衆エンターテイメントの世界では、全ての人々にそれを見せることができます。ですから、「アバター」で私がやろうとしたことは、説教くさくならないように、アドベンチャー・ストーリーという枠の中でこのテーマを取り扱い、人々にたんに知的な反応を呼び起こすだけではなく、力強くて感情的なカタルシス)を与えることだったのです。

IPS:私たちは、科学、開発、進歩、発見に価値を置く経済システムのもとで生活しているわけですが、先住民の権利を侵すことなくこのシステムとどのように折り合いをつけていけるのでしょうか?

キャメロン:先住民の権利を侵害しているのはダム、高速道路、石油パイプラインといったインフラプロジェクトに代表される開発行為だと思います。例えば石油処理施設からの廃棄物や排煙、排水物といった公害が先住民を苦しめています。そして、消費社会に生活する私たちこそが、消費者として市場経済を通じてこのような産業施設や資源採取のフロンティアを広げ続けている原動力になっているのです。

一方、科学者が必ずしも先住民の権利を侵害しているとは思えません。彼らは静かにフロンティアに入り込み、生態系や現地の先住民へのインパクトを最小限にとどめる配慮をしながら、熱帯雨林における生物多様性や先住民の文化等について研究を行っているのです。その点でいえば、石油やガス、鉱山業などの採取産業にそのような配慮はありません。彼らは、道義的な障害さえなければ、開発を断行すると思います。

こうした採取産業からの圧力に対して、先住民の諸権利を謳った憲法条文や様々な宣言が採択されてきました。しかし現実にこうした規定や宣言は執行力に乏しいのが実情で、住民たちは、結局のところ、自らの資金と資源を使って、自身の権利を守るための法的な闘争を余儀なくされているのが現状です。

IPS:こうした問題から抜け出すために先住民の知恵を活用するのはどうでしょう?

キャメロン:これは多くの人々が陥るポイントだと思います。たしかに、先住民の知恵から生物多様性が豊かな熱帯雨林よりある薬の成分を入手できたりするなど、先住民はもとより我々もその恩恵を獲得できるような先住民の知的財産とも言うべきものがあるのは確かです。すなわち、先住民族は彼らの知の利用によって自ら利益を得るべきでしょうが、それは重要な点ではありません。

本当に重要なのは、彼らが長年にわたって自然と調和しながら生きてきたという価値の体系(自然との精神的な繋がりや仲間間の責任感)の方にあります。私たちが学ぶべきはそちらの方でしょう。それは、ものの見方の完全な転換です。私たちが、先住民のそうした価値体系を身につけれるかどうかについては確信がありません。しかしもし希望があるとすれば、私たちの意識転換をはかる能力-すなわち与える以上に奪わない-にかかっているのではないかと考えています。

IPS:中には、「アバター」は惑星ナヴィを救う白人男性の主人公を描いたものと批判する意見もありますが、この「白人救世主」批判にどのように応えますか。

キャメロン:私はそうは思いません。ここで「アバター」を鑑賞し、自身の直面している現実を重ね合わせて観た先住民の方々も、白人男性が主人公であることが、作品を楽しむ障害になったり、そうした違和感を持つことにつながったとは思えません。

IPS:先住民族からあなたの映画への反応はありましたか。

キャメロン:圧倒的に好評をいただいています。もっとも、私にわざわざ感想を言ってきてくれるわけですから、当然そうなるともいえますが。しかし、今のところ私に近づいてきて「アバター」の白人救世主問題を非難するひとにはお目にかかったことはありません。

重要なのは、アフリカ系米国人の問題―それは、歴史的に根が深い、貧困に関する社会経済的な問題であり政治的な発言権の問題です―と、ブルドーザーが実際に森を破壊し、高度に機械化した軍隊が一つの文明をまさに破壊しようとしているという現実の生存の問題を、区別することでしょう。

このような侵略勢力に対して、対抗するものが弓矢だけであるのならば、国際社会からの介入が必要です。救世主がどの人種であるかは問題ではありません。ブルドーザーを弓矢で止めるのは不可能な訳ですから、私たちすべてが救世主であるべきでしょう。

とはいえ、大事なのは、先住民族自体が発言権を持つことであり、彼らが政治過程に引き入れられることです。私は、彼らの「代理」として発言しようとは思いません。

IPS:最近では、あなたが声高に反対しているベロモンチ水力発電ダム計画*が進んでいるようですが。

キャメロン:まだ建設が始まっていないのでコメントは難しいのですが、この計画については紆余曲折があり、最近も3度目の入札差し止め命令がでたものの、建設が始まっていないことから先住民への直接的な脅威はないとしてその命令を裁判所が再び覆すということが起こりました。私が聞くところでは、実際に建設が始まる前に様々な手続きが議論されることになるだろうとのことです。ダムの建設反対派と賛成派の争いはようやく熱を帯びてきたところというのが私の見方です。私たちはこの段階で勝利を期待してはおらず、むしろ事態は私たちの期待通りの展開になっています。すなわち、先住民に多大な影響を与えかねないこのダム計画への関心が、ブラジル国内と国際社会双方で大いに高まったということです。メディアにおいてもニューヨークタイムズの1面に掲載されたのをはじめ多くが取り上げています。

従って、このダム計画阻止の成否は、今や非政府組織とブラジル国内の法手続きに委ねられています。そしてその中に、当事者として開発計画の対象地域に住む先住民へも僅かながらスポットライトが当てられているというのが現状です。(原文へ

翻訳=IPS Japan戸田千鶴

*ベロモンチ水力発電ダムは、ブラジル政府がシングー川に建設計画しているダムで、完成すれば世界で三番目、ブラジルで一番大きいダムとなる。シングー保護区の境界と隣接する10以上の先住民の村に影響を与えるといわれており、アマゾン熱帯林の広大な地域を破壊すると指摘されている。ジェームズ・キャメロン監督は、ルラ大統領に建設を懸念する書簡を送っています。

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