【プラハIPS=クラウディア・シオバヌ】
ロシアの野党運動は、12月4日のロシア下院選挙後の抗議活動で脚光を浴びるようになったが、そのリーダーの一人セルゲイ・ウダチョフ氏(35歳)は、「我々の要求はまだ終わっていない」と語った。
小さな社会主義者団体「Vanguard of Red Youth」と左翼の政治連合「左翼戦線」のリーダーをつとめるセルゲイ・ウダチェフ氏は、昨年ロシア当局に何十回も恣意的に逮捕される中で、野党運動関係者の間で頭角を現してきた人物である。昨年ウダチェフ氏は1年の約3分の1を刑務所に収監された。
ロシアでは昨年12月に、4日に実施された下院選挙で与党「統一ロシア(プーチン氏自身が党首をつとめる)」が多数派工作を目論んで不正行為を行ったとする疑惑が高まり、首都モスクワをはじめとするロシア各地の主要都市で数万人規模の抗議デモが発生した。
しかしモスクワにおける12月24日の8万人規模のデモを最後に、大規模な抗議行動は一旦影を潜めている。その後もモスクワでは引き続き数百人規模の抗議デモが発生しているが、参加者からは、ロシア当局によるウダチョフ氏に対する執拗な嫌がらせを憤る声が聞かれた(アムネスティ―・インターナショナルは12月にウダチェフ氏が「良心の囚人」にあたるとして、即時釈放を訴えた)。
先般釈放されたばかりのウダチェフ氏はIPSの取材に応じ、「当局は何度も私を逮捕してきていますが、法的な本拠があるものなど一つもないのです。逮捕理由はすべてでっちあげられたものです。例えば、ある(下院選挙当日の)逮捕理由は、私が横断すべきでない場所で道路を渡ろうとしたという馬鹿げた嫌疑でした。しかもその時、私は同じ町の違う場所にいたにも関わらずですよ。またある時は、逮捕に抵抗したというありもしない罪を着せられました。」と語った。
インターネットに流れている複数の録画映像には、抵抗することなく警察官に逮捕されるウダチェフ氏の姿が映っている。
「政府当局は、私には民衆を動員する力があると理解しているので、私を危険人物だと判断したのだと思います。私を立て続けに逮捕・収監してきた狙いは、私を政治活動家として孤立させること、とりわけ選挙期間中に動きを封じることにあったのだと思います。」
インタビューの要旨は以下の通り:
Q:「左翼戦線」が目指しているものは何ですか?
A:「左翼戦線」は社会正義の実現と、全ての国民に国家の資源を公正に分配することを目指すイデオロギー運動です。今日ロシアは、大統領(ドミトリー・メドヴェージェフ氏)と首相(ウラジミール・プーチン氏)の取巻きが支配しています。その結果、人口の10%程度にあたるエリート層が国の富の90%を支配し、大多数のロシア人が貧しい生活を送っているのです。これが今日のロシア社会が直面している深刻な問題なのです。
私たちは、天然資源、運輸、産業など国のあらゆる戦略的な分野の管理に、より幅広い層の国民が参画できる仕組みを実現したいと考えています。つまり私たちが求めているのは、ロシア国民が、公平で透明性が確保された国民投票を通じて意思表示ができたり、インターネットを通じて政府当局との意思疎通ができたり、或いは国民として社会改革について発言権をもてるような直接民主主義の実現なのです。
私たちはソ連について特に郷愁の念を抱いているということはありませんし、ましてや社会の停滞をもたらした中央計画経済への復帰を訴えるということもしていません。私たちの主張は、新たな発展の道筋を模索しながら、ソ連時代の良い点については残していこうというものです。つまり、ロシアの社会民主主義的な開発を志向しているのです。
Q:お話を伺っていると、「左翼戦線」が掲げているビジョンは穏健なものに聞こえますが、それではどうしてメディアでは「極端」「過激」というイメージで報道がなされているのでしょうか?
A:今日のロシアではプロパガンダが大衆伝達の主な手段となっています。ロシアでは多くのテレビ局、ラジオ局、オンラインニュースが当局の管理下にあります。政府当局はこうしたマスメディアを通じて、野党運動全体に対する不信感を植え付ける手段として私たち(「左翼戦線」)のイメージを傷つけているのです。政治について知識があまりない市民は、こうしたマスメディア報道に接して真実を見極めることができません。その結果、そうした人々は、私たちが内戦やスターリン時代の復活を望んでいるといったデマを信じてしまうことになるのです。
しかし、私たちがウェブサイトで公表している内容を見れば、だれもが私たちが訴えている真の立場が理解できると思います。つまり、私たちは今まで一貫して平和的な抗議活動を訴えてきたということ。そして私たちが望んでいることは、国民に権限を付与(エンパワー)して国民自らの問題を解決していきたいということに尽きるのです。私たちはメディアによって実像がかなり歪められています。しかし、インターネットが透明性をもたらし、政府当局によるプロパガンダに支配されやすい人の数も減少していくなかで、こうした歪んだイメージも近い将来払拭されると期待しています。
Q:あなたはこれまでの演説で「ウォールストリートを占拠せよ」運動で良く使われる「99対1%」レトリックを使っていますが、同運動とロシアの野党運動には多くの類似点があるのでしょうか?
A:はい、2つの運動には、いくつかの類似点があります。社会的平等を求める闘いは、一国に限定されたものではなく、今やその機運は世界全体を覆っています。帝国主義的なグローバリゼーションを批判する声は、第三世界(発展途上国)のみならず第一世界(西側先進国)においても湧き上がっています。こうした国際情勢の流れは必然的にかつての第二世界(旧共産圏)に暮らす私たちに今後どのような発展を志向したいのか真剣な考察を迫っているのです。
しかしロシアは閉ざされた国ですから、海外の運動と連携するのは困難なのが現状です。よって今日ロシアの野党運動が取り組んでいる具体的な活動は、①実態を反映した政治的な競争を実現すること、②公正な選挙を実施すること、③政権当局と民衆の対話を実現することの3点に集約されます。
Q:今後数か月、ロシアの野党運動はどのような展開をしていくと見ていますか?
A:ロシアの民衆は政府に改革を要求しています。政治家たちは改革を実現できなければ、権力の座から降りなければなりません。もし弾圧が続くならば、最終的には反乱がおこるかもしれません。
今後の流れは、政権当局が野党勢力や市民社会との対話を開始するかどうかにかかっていると思います。今般の抗議活動の規模は近年最大のもので、当局も無視するのが困難になっています。政府は12月下院選挙結果の無効を宣言し、年末までに再選挙を実施すべきです。ロシアには公正な選挙が必要です。もし公正な選挙が実施されれば、新たな議会は、各党の実際の勢力関係がより反映したものとなり、野党各党の議席が拡大したものとなるでしょう。
しかし政権側があくまでもプーチン氏を大統領とすることにこだわり、野党勢力との対話も私たちの要求も拒否し、さらなる不正選挙を強行していくようなことがあれば、民衆の抗議行動も強まり、ついには革命へと発展するかもしれません。もちろんそうした場合でも平和的(ビロード革命のような)なものでなければなりませんが。
Q:3月(次期大統領選挙)以降プーチン氏に大統領として政権を継続させるということで政権側と野党側が妥協する可能性はどうでしょうか?
A:もし政権側がプーチン氏の大統領職復帰を主張するとすれば、それは妥協ではなく罠です。
Q:ロシア当局があなたを何度も逮捕しているのは、政権側があなたを恐れているからだと思いますか?反対勢力に対するそのような恐れは、政権が弱体化している兆候でしょうか?
A:ロシアでは、政権にとって好ましくない者、とりわけ政権を批判するような活動家は「過激論者」というレッテルが貼られ、常に弾圧の対象となってきました。政権側はこのような圧力を常に行使してきたのです。過去10年から15年、政権側の体質は基本的に変わっていません。しかし近年は、一般のロシア人が以前より政治動向に注意を払うようになってきたことから、政権側はこうした弾圧を世間の目から隠しづらくなってきており、結果的に当局による抑圧が以前より目につくようになってきたのです。従って、今は、政権側にとって、弾圧という目に見える失敗を犯すことは、以前より政治的なリスクが高くなっているのです。
Q:プーチン体制後のロシアをどのように展望していますか?それはソ連崩壊後に独立した旧連邦諸国との関係にどのような影響をもたらすと思いますか?
A:今後公正な選挙が実施されたと仮定すれば現実的な予想は左翼が政権を担う公正な選挙が保障されたロシアが誕生しているでしょう。政策も左派路線に転換することで、社会の緊張、生態学上の危機、飢餓の問題も緩和されるでしょう。旧ソ連邦構成諸国との関係については、私たちは、経済的、文化的関係を深めて、おそらく欧州連合(EU)をモデルとした連合を構築したいと考えています。ただし、これらの諸国がこうした構想に同意し平和的手段で連合が形成されるのならばという前提があってのことです。
こうした連合は、最終的には共通通貨、共同防衛、さらには域内の行動の自由を保障する枠組みを目指す漸進的な統合形態をとることも考えられます。ロシアと旧ソ連構成諸国との間には、ソ連解体後にすべてが失われたわけではなく、依然として緊密な関係が存続しています。お互いに協力し合うことが各々の国益にもつながりますし、旧ソ連構成諸国における不法移民問題でさえも、この連合構想が実現すれば解消することが可能なのです。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩