【ローマIDN=ロベルト・サビオ】
3つ目の「決まりの悪い事実(Dirty Secret)」を見てみよう。それは、気候変動問題への真の対処から私たちがいかにかけ離れた地点にいるかを示してくれるだろう。パリで協議された非常に重要な問題のひとつは、この協定が化石燃料業界による排出削減にのみ関するものだったということだ。その他の排出に関しては、完全に捨て置かれている。
レオナルド・ディカプリオ氏がプロデュースした『陰謀:持続可能性の秘密』という新しいドキュメンタリーは、気候変動に対する動物の影響に関して完全菜食主義者が収集したデータを分析している。データはやや誇張されている面もあるが、その次元はきわめて大きく、もうひとつの「最後の一撃」をあらゆる意味において加えるものだ。
動物はCO2を排出しないが、CO2より少なくとも25%は有害であるメタンを排出する。自動車から飛行機に至るすべての交通手段は全排出量の13%を占めるが、牛のゲップから排出されるメタンガスは、全排出量の実に18%を占めると国連も認めている。
真の問題は水使用の点にあるのだが、ここで詳述することができない。水は、石油が長年そうだったように、近い将来紛争の原因になりうると、軍事戦略家らですら考えている。
1ポンドの牛肉を生産するには2500ガロンの水を要する。つまり、ハンバーガー1個がシャワー2か月分ということだ! そして、牛乳1ガロンを得るには、水が100ガロン必要になる。人類全体で、牛が必要とする量の10分の1の水しか利用していない。牛は水全体の33%、地球の45%を利用し、アマゾンの森林破壊の91%の原因になっている。また、人間の130倍の廃棄物を出している。オランダの養豚は、廃棄物の酸によって使用可能な土地を減らし、大問題を引き起こしている。肉の消費はアジアやアフリカで急速に伸びている。肉食は、豊かな社会に到達したことの指標と見なされているのだ。
地球に対するこの深刻な影響に加え、人類にとっての持続可能性の強力な逆説が存在する。現在人類は75億人だが、まもなく90億人に到達する。世界全体の食料生産で食べることができるのは130~140億人だ。しかし大部分が廃棄され、人間の口には入らない。しかし、動物のための食べ物で、60億人が食べることができるのだ。かたや10億人が飢えている。地球上に生きる人びとのために資源を合理的に利用できてないことの証左だ。人類は、皆のための十分な資源を持ちながら、それを合理的に回していけていない。肥満の人々の数は、今や飢える人々と同じ数に到達している。
この状況への論理的な解は、人類の地球の利益のために、グローバル・ガバナンスに関する合意を得ることだ。しかし、実際には、私たちは逆の方向に向かっている。今日、国際システムはナショナリズムに包囲され、意味のある解決策を導くことがますます難しくなっている。
最後の例を出して結論としよう。魚の乱獲の問題である。(国連システムの一部分ではなく、国連に対抗して作られた)世界貿易機関(WTO)が、莫大な量の魚を捕獲できる巨大網による乱獲に関する協定を結ぼうとして、すでに20年が経つ。27億匹を捕獲するが、取っておくのは5分の1だけで、残りの5分の4は捨てるのである。
ブエノスアイレスで昨年12月13日に開かれた最近のWTO会議で各国は、違法漁業を制限する協定に到達することができなかった。大規模漁業は現在、1970年の1割にしかすぎない。すべての魚のうち、3分の1を獲ってしまった。17の専門機関による調査は、100~230億匹の魚が違法に闇市場に流されていると推定している。そしてここでも、各国政府はそれぞれの漁業を強化するために年間200億ドルを支出している。既得権が共通善を押しつぶしているまた別の例をここに見ることができる。
各国の政府が、地球が破滅に向かいつつあることを示す必要な情報を手にしながら、その責任を真剣に負うことができていないことを認識するには、もうこのあたりで十分だろう。
気候制御の必要は「中国のデマ」であり、米国の利益に対抗すべく発明されたものだというトランプ大統領の宣言は、通常の世界なら、世界的な反発を引きおこしてしかるべきものだ。それに、トランプ大統領の国内政策は米国の問題でありながら、気候変動は地球上の75億人すべてに影響を及ぼす問題でもある。トランプ大統領は有権者のわずか4分の1以下である6300万票によって当選したに過ぎない。人類全体に影響を及ぼす決定を下す権限をトランプ氏に与えるにしては、あまりに少なすぎる数である。
欧州の閣僚たちは、「思考のささやきとカネの大声」ということわざを地で行っているようだ。気候変動による投機に備える人々が実際に多くいる。北極の氷の7割が失われたいま、海運産業は、コストと時間を17%カットできる「北方ルート」の開拓に手ぐすねを引いている。
そして、英国のワイン産業は、地球の温暖化以来、毎年生産を5%ずつ伸ばしている。英国はすでに500万本のワインとスパークリングワインを生産しているが、それらは完売している。
欧州でもハリケーンや嵐が増え、山火事も史上最も多くなっているが、人間にはどうしようもないのが現状だ。国連は、少なくとも8億人が気候変動によって移住を余儀なくされ、世界のいくつかの地域は居住不能になるとみている。こうした人々はどこへ行くことになるのだろうか? 恐らく行先は、米国や欧州ではないだろう。なぜならこうした環境難民も欧米諸国では「侵略者」と見られることになってしまうからだ。
100万人の農民が都市に流出した4年間の干ばつ(1996~2000)のあとにシリア危機が勃発したことを私たちは忘れている。干ばつ後の社会的不満が内戦を加速させて、40万人が亡くなり、600万人の難民が生まれた。発生しつつある被害に市民が気づいたとしても手遅れだ。(このまま気候変動を放置すれば)こうしたことが30年後の世界では各地で現実になると科学者らは予測している。
では、企業が政府を共謀してその支援を得ながら、最後の最後まで利益を得ようとしている時に、次の世代にとっての問題をなぜ今心配しなくてはならないのだろうか? (皮肉を込めて)それならむしろ、気候変動の波に乗って、良質の英国産シャンペンを買い、ぜいたくな北極クルーズでそれを楽しみ、ちょうどタイタニック号で最後までそうだったように、オーケストラの演奏を楽しんでいてはどうだろうか?(前編へ)(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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