ニュースアーカイブ核廃絶のエネルギーを削ぐ「核の恐怖」の脅威(ケビン・クレメンツ、オタゴ大学平和紛争研究センター教授)

核廃絶のエネルギーを削ぐ「核の恐怖」の脅威(ケビン・クレメンツ、オタゴ大学平和紛争研究センター教授)

【INPSコラム=ケビン・クレメンツ】 

バラク・オバマ大統領は、2009年、「バラク・オバマ大統領は、2009年、「核兵器のない世界」の実現に邁進するとプラハで述べた。この大胆な声明以来(それゆえに彼はノーベル平和賞をとった)、オバマ大統領は、核廃絶の問題はしばらく脇に置いて、原子力安全や核保安に集中するよう、外交顧問から説得され核兵器関連の研究所からプレッシャーを受けてきた。」の実現に邁進するとプラハで述べた。この大胆な声明以来(それゆえに彼はノーベル平和賞をとった)、オバマ大統領は、核廃絶の問題はしばらく脇に置いて、原子力安全や核保安に集中するよう、外交顧問から説得され核兵器関連の研究所からプレッシャーを受けてきた。

したがって、ワシントンで2010年に開かれた最初の核安全保障サミットでは、原子力安全と核テロの防止問題に焦点が当てられることになった。これらの目標は重要なものではあるが、「平和的な」原子炉の安全の問題や、核兵器の削減あるいは廃絶の問題に実質的に対処するものではない。

 逆に、核保安とは、国際原子力機関(IAEA)が定義したところによると、「核物質とその他の放射性物質、あるいはそれらの関連施設に関して、盗難、サボタージュ、不正アクセス、違法移転などの悪意ある行為を防止、探知し、それに反応すること」だとされている。言葉を変えれば、焦点は核物質が「悪人の手」に渡らないようにすることにある。そこで次に、ある国家が「テロとの戦い」の中でどういう風に位置づけられているかによって、定義がさらに変わってくることになる。この焦点に関して驚くべきことは、テロ集団が、「汚い(放射能を出す)爆弾」を製造したり、あるいはより高度な核兵器を入手することを志向している国家の野望に協力したりするために、高濃縮ウランを手に入れようとしているという明確な証拠がないことだ。

核安全保障サミットは、第1回、第2回(ソウル、2012年3月26~27日)ともに、核テロと核分裂性物質の管理強化の問題、すなわち、原石であれイエローケーキであれ、あるいは六フッ化物、酸化金属、セラミックのペレット、燃料集合体であれ、いかなる種類の核物質の「違法な」(どのように定義されるにせよ)奪取をどう防止、探知し、どう反応するか、という問題に焦点を当てた。

1回目のサミットは、核軍縮や核不拡散、核エネルギーの平和的利用を促進することで、「核兵器なき世界」の実現に寄与するための重要な前提として核保安の問題を位置づけることを目指した。しかし中には、核兵器を大幅に削減し、核取得の瀬戸際にいる国や事実上の核兵器国に対して創造的に対処し、核廃絶に向けた明確なガイドライン/ロードマップを打ち立てる努力から目をそらすものだという懐疑的な意見もあった。

しかし、第1回サミットでは、高濃縮ウラン(HEU)の量を最小化し削減する作業計画が策定され、核テロリズム防止条約(ICSANT)のような国際合意が批准され、核物質防護条約(CPPNM)の修正に成功した。いくらかの成果があり、ソウル・サミットでは、これらの措置の進展具合を確かめ、(福島第一原子力発電所のメルトダウンを受けて)原子力事故の危険性に焦点をあてることを目指した。

いくらか問題であるのは、核物質の盗難とテロ活動との間のつながりである。オサマ・ビン・ラディンが核兵器の取得は「宗教的な義務」であると言い、9・11委員会の報告書でアルカイダが核兵器を取得ないしは製造しようとしたと結論づけられているからといって、アルカイダ、あるいは他のテロ集団にすでにその能力があるとか、依然として関心を持ち続けているということではない。テロリストの手に渡った核兵器が大量の命を奪うために使われるとか、あるいは彼らの明白な政治的利益のために使われるとかいうのは、論理の飛躍である。こうした非常に可能性の低い問題にばかりこだわるのは、核兵器なき世界(原子力と核兵器の両方への依存を減らすこと)に向けた努力のエネルギーを削ぐものだと言えよう。

韓国政府は、ソウル・サミットが「核不拡散・核軍縮というより広い問題への突破口に向けた一つの踏み台」とされることを望んでいた。核保安と原子力安全の関連は話し合われたが、サミットのコミュニケではこの「踏み台」が提示されることはなく、北東アジアや世界のその他の地域における原子力の拡大に真に抑制をかけようとの努力も示されなかった。

実際、多くの識者は、コミュニケは内容に乏しく、各国にはそれを実現する気もないとみている。署名国は、28回にわたって何かをなすように「勧奨」されてはいるが、「義務付け」られては全くないのだ。最終コミュニケには、その中心的な内容として、参加国が核物質の保有量を削減し続けるという合意が入った。しかし、この合意ですら一般論に終始しており、核物質の全廃あるいは削減に関して特定の目標を示していない。2013年末までに、高濃縮ウランの保有を最小化するための目標を自発的に定め、発表するように各国に勧奨してはいる。米国とロシアは高濃縮ウランを低濃縮ウランに転換する作業を進めているが、12万6000発の核兵器を作ることができる500トンのプルトニウムの削減・全廃については、ほとんど前進が見られない。

このコミュニケは、何が含まれているかということよりも、何が省かれているかという点において、注目すべきものだ。たとえば、日本は、核物質を防護し保障措置をかける規制枠組みを持っていないベトナムヨルダンのような国に対して核技術輸出を急速に進めることの問題に言及することなく、核テロの危険性に焦点を当てている。

イランや北朝鮮、ウズベキスタンも同様に兵器級の核物質をかなり備蓄しているが、サミットでの討論には加わっておらず、これらの国の核物質にどう対処するかという問題への言及はない。

驚くべきことに、朝鮮半島で開かれた会議だというのに、北朝鮮の核開発をどう食い止めるかという問題にはまったく触れられていないし、パキスタンの核物質をどう保全するのかについてもまともな議論がなかった。

しかし、より重要なことは、核エネルギーの平和的利用と非平和的利用、あるいは原子力安全と核軍縮との間の明確なつながりを打ち立てる意思が見られなかった、ということであろう。平和運動の視点から言えば、今回のサミットは、「核兵器なき世界」というオバマ大統領の希望の実現に向けた勢いを生み出すことに失敗している。

2014年にオランダで予定されている第3回目のサミットでは、これらのつながりを明確にし、核廃絶という目標をすべての議論の中心に座らせることが重要だ。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

ケビン・クレメンツオタゴ大学(ニュージーランド)平和紛争研究センター教授。

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