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核兵器なき持続可能なグローバル社会へ

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツは、1919年の有名な詩「再臨(The Second Coming)」で、第一次大戦後の混乱と無秩序についてこう書いている。「世界はバラバラになり、中心は持ちこたえられない/無秩序がこの世にぶちまかれ/いたるところに血で濁りきった潮が押し寄せ/無垢な儀式(従来の慣習を重んじる伝統的な階級)を飲み込んでしまう/すべての信念が失われ、最悪が/熱を帯びて充満している。」世界戦争こそ起きていないが、ふたたび世界がバラバラになっていくような現代、仏教哲学者で教育者の池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長は、希望を捨てず「グローバルな変化を引き起こすための価値を創造する」方途を示している。

東京に本拠を置く在家仏教組織で、世界に1200万人以上の会員を擁するSGIの創立記念日(1月26日)に寄せて、池田会長は「21世紀の潮流を希望と連帯と平和の方向に力強く向けながら、全ての人々が尊厳を輝かせて生きられる『持続可能な地球社会』を築くための方途についての考え」を提言している。

池田会長は、1月26日に発表された2014年の「平和提言」の中で、持続可能な地球社会を築くために肝要な3つの領域に焦点を当てた提言を行っている。3つの領域とは、①世界市民教育、②異常気象や災害による被害を減らすための地域的協力メカニズムを設置することによって、アジアやアフリカなどの地域でレジリエンス(深刻な外的ショックに対して社会を回復する力)を強化すること、③核兵器の禁止・廃絶である。

池田会長は、「近年、災害や異常気象による被害が深刻化する状況を踏まえると、国際的な支援の強化のみならず、『いかに脅威に備えるか』『危機に直面した時どう対応し、どう回復を図るのか』との観点に基づいた取り組みが急務であり、社会のレジリエンスを高める必要性が叫ばれるようになってきました。」と述べている。

つまりそれは、共通の目標に向けて協働しその目標に向けた前進を確かな手応えとして感じたいという人びとの自然な欲求に根差した、希望ある未来を実現することである。池田会長はこれを「未来を創るための人類の共同作業(それぞれの地域で誰もが関わることができる、持続可能な地球社会のかけがえのない基盤を築くプロジェクト)の一体的な側面」と呼んでいる。

世界市民教育

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

池田会長は、持続可能な地球社会を築くためには、特に青年に焦点をあてた世界市民教育が重要だと考えている。「持続可能な開発目標(SDGs)」と呼ばれるあらたなグローバル開発目標の採択が予定される2015年9月の国連サミットを念頭に置き、池田会長は、次のような内容を教育関連の目標に含めるべきだと強く呼びかけている。すなわち、「初等・中等教育の完全普及」、「すべての教育レベルでの男女格差の解消」、「世界市民教育の促進」である。

池田会長はまた、「世界市民教育プログラム」の骨格に据えることが望ましい3つの観点として、①人類が直面するさまざまな問題への理解を深めるような教育、②グローバルな危機が悪化する前に、それらの兆候が表れやすい足元の地域において、その意味を敏感に察知し、行動を起こしていくための力をエンパワーメントで引き出す教育、③自国にとって利益となる行動でも、他国にとっては悪影響や脅威を及ぼす恐れがあることを常に忘れず、他の人々の苦しみを思いやる想像力と同苦の精神を養う教育、を提起している。

さらに池田会長は、教育と並んでSDGsで焦点が当てられるべき領域として「青年」を挙げ、SDGs策定にあたって、含められるべき3つのガイドライン(①「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の確保に各国が全力を挙げること、②社会が直面する問題を解決するプロセスに「青年の積極的な参加」を図ること、③国境を越えた友情と行動の連帯を育む青年交流を拡大すること)、を提案している。

とりわけ交流を通じて育まれた友情や心の絆は、憎悪や偏見に基づく集団心理に流されない防波堤として機能するだろう。池田会長は、これらがSDGsに含まれることには大きな意義があると考えているのである。

レジリエンスのための地域協力

また2014年の「平和提言」には、アジアやアフリカをはじめとする各地域で、異常気象や災害の被害を軽減する地域協力メカニズムを立ち上げて、レジリエンスを強化すべきとの提案が含まれている。池田会長は、こうしたメカニズムは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で発展してきたグローバルな規模での対応策と並行する形で機能するだろうと、と述べている。

池田会長は、「事前の備え」「被災時の救援」「復旧・復興」を一連のプロセスとしてとらえ、近隣諸国の間で災害対応の協力体制を築いていくよう呼びかけるとともに、「レジリエンスの強化や復興支援の面で、近隣諸国が息の長い協力を積み重ねていく中で、助け合いと支え合いの精神を地域の共通化として育むことが可能なのです。」と述べている。

ARF DiREx 2013
ARF DiREx 2013

池田会長は、そうした地域協力の先鞭を、災害による被害が最も深刻であるアジアがつけ、世界の他の地域にも「レジリエンス強化と復興支援の協力の輪」を広げる流れをつくることを呼びかけている。そして、そのような基盤が、(災害救援に関する協力のあり方を定期的に)討議する枠組みを持つASEAN地域フォーラム(ARF)において既に存在している点を指摘したうえで、ARFでの実績をベースに「アジア復興レジリエンス協定」を締結することを、アジア地域の国々に訴えている。

さらに池田会長は、姉妹都市間の交流と協力を通じてレジリエンスを強化する取り組みをさらに推奨している。これによって、地域を通じた平和的共存の空間を創出する重要な基盤となるだろう。現在、日中間で354、日韓間で151、中韓間で149の姉妹都市協定がある。さらに、1999年以来、同種の交流を促進するために、日中韓地方自治体会議が毎年開催されている。

池田会長は、環境問題での協力など、この種の協力に向けた対話を開始するため、できるだけ早く日中韓サミットを開催すべきだと強く訴えるとともに、「来年3月に仙台で行われる『第3回国連防災会議』を契機に、どのような協力を具体的に進めるかについての協議を本格化させることを、呼び掛けたい。」と述べている。

核兵器なき世界に向けて

UN World Conference on Disaster Risk Reduction
UN World Conference on Disaster Risk Reduction

池田会長はまた、「先に論じた地震や津波などの被害は、事前の備えで被害の軽減は図れても発生自体は止められないものであるのに対し、その災害以上に取り返しのつかない惨劇をもたらす核兵器の脅威は、大多数の国々の明確な政治的意思を結集することができれば、防ぐことのみならず、なくすことさえ可能なものであります。」と論じている。

この点に照らして、池田会長は、核兵器の禁止と廃絶が持続可能な地球社会の背骨であると考えている。そして、2010年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の最終文書、および、ノルウェーのオスロで昨年3月に開催された「核兵器の非人道性に関する国際会議」は、核軍縮・不拡散をめぐるすべての協議の中心に「核兵器の人道的影響」を据えることを求めるますます多くの国々の努力を後押しするものだった、と述べている。

2012年5月以来、これらの政府はこの問題に関する共同声明を繰り返し発し、4回目となった昨年10月の声明の際には、賛同国が「核の傘」の下にある日本などを含めた125か国に拡大した。

池田会長は、核兵器は他の兵器とは決定的な違いがあること、核兵器は決して超えてはならないラインの向こう側に存在すること、核兵器がもたらす惨劇を誰にも味わわせてはならないこと、などの共通認識を強調したうえで、「この認識は、核兵器が国家安全保障上の目的を実現するために使用されうるという考え方そのものを超えるために極めて重要だ。」と論じている。

池田会長は、被爆70周年にあたる2015年に広島・長崎で核廃絶サミットを開くべきとの提案を繰り返した。とりわけ、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の署名国に加え、地球市民社会の代表、特に世界中からの若者たちが「世界青年核廃絶サミット」に集い、核時代に終止符を打つ誓いの宣言を採択するよう望む、と記している。

Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB
Photo: The remains of the Prefectural Industry Promotion Building, after the dropping of the atomic bomb, in Hiroshima, Japan. This site was later preserved as a monument. UN Photo/DB

これに並行して池田会長は2つの提案を行っている。ひとつは、核兵器不使用協定の締結である。池田会長の見方では、これは、核兵器の人道的影響の問題を2015年NPT運用検討会議の議論の中心に置いた当然の帰結であり、核兵器国が核軍縮を誠実に追求することを約束したNPT第6条の履行を促進する方法でもある。

池田会長は、核兵器国が、NPTの中心的精神に根差した義務のひとつとして、条約加盟国に対して核兵器を使用しないと誓う不使用協定の締結は、同盟国の核の傘に依存している国々に対して物理的・心理的安心を高め、核兵器に依存しない安全保障取り決めへの道を開くことになる、と論じている。

池田会長の第2の具体的提案は、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の取り組みを軸としながら、国際世論を広く喚起し、核兵器の全面禁止に向けた交渉を開始することである。

「『不使用協定』も最終目的にいたる橋頭堡にすぎないだけに、核兵器の禁止と廃絶に向けた挑戦を加速させることが急務であり、市民社会の連帯で後押しすることが欠かせません。」 

ICAN
ICAN

池田会長は、「『深刻な対立が存在した』からこそ危険だった時代から、深刻な対立が抜け落ち、『核兵器が存在しつづけている』からこそ危険という時代へと移り変わった」と指摘したうえで、「冷戦時代には『抜き差しならない対立』が互いの危機意識を高め、抑止政策によって核兵器が角突き合せる対峙を招いていたのに対し、現在では、『世界に核兵器が存在している状況』が常に不安を生むために、新たに保有を望む国が出てきたり、どの保有国も核兵器を手放せない心理が働いているとは言えまいか。」と述べている。

さらに、核兵器をなくすためのもうひとつの冷静な議論は、6年前に始まった世界経済危機が、世界ほぼすべての国々の財政的基盤を揺るがしたということである。にもかかわらず、このますます有用性が低くなる兵器を維持するために、全核保有国で毎年1000億ドルもの資金が費やされている。

結果として、核兵器は「国の威信を高める資産」というよりも、「国の財政を傾ける重荷」になりつつあるとの声が人びとの間で高まりつつある。池田会長は、「こうした状況に鑑みて、保有国は核兵器の存在がもたらす脅威を削減するための行動に踏み出すべきだ。」と述べている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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