Multimedia|書評|セミパラチンスク核実験場の真実(アルマス・ディシュコフ元カザフスタン外務省外交官、筑波大学大学院博士後期課程)

|書評|セミパラチンスク核実験場の真実(アルマス・ディシュコフ元カザフスタン外務省外交官、筑波大学大学院博士後期課程)

【東京IDN=アルマス・ディシュコフ】

本書はカザフスタンのアケルケ・スルタノヴァという新世代の学者によって書かれたものです。

多くの日本国民は、冷戦の歴史と、米国とソ連の二大国間の対立の歴史を知っています。また、これらの国が致命的な核兵器を造り、近代化するために絶えず努力し続けていることをよく認識しています。広島長崎第五福龍丸の悲しい物語で、核兵器の力がどれほど破壊的で危険なのかを世界に知らせました。

Chagan Nuclear Test/ Wikimedia Commons

一方で、ソビエト連邦の住民は、「核兵器国」の地位がもたらす問題や不幸を認識していなかった。カザフスタンの東部に位置する元セミパラチンスク核実験場は、ソ連の最大の核実験場であり、最初の核実験場でした。広島に投下された原子爆弾の2500発に相当する威力をもつ約500発の核弾薬の実験がおこなわれたカザフスタンでのソビエト連邦による核実験の40年間は、カザフスタンの国民に極めて衝撃的な影響を残し、現在も残しつづけています。核実験とそれにより発生した放射能により、150万人の人びとの生活が破壊され、そして広大な地域が汚染されました。

核実験場の閉鎖へ

27年前の1991年8月29日、この状況に終止符がうたれ、ヌルスルタン・ナザルバエフ・カザフスタン大統領により大統領令が出されたことで、セミパラチンスク核実験場は、モスクワの当時のソビエト連邦政府の立場に反して、永久に閉鎖されました。今まで多くの国際機関、各国政府や科学者の努力のおかげで、国際社会はソ連の核実験の実際の規模について知ることができました。

セミパラチンスクの目撃者

核実験地に住む/ Amazon.com

これまでに出版された本の内容以上にアケルケ自身の研究により現在ではたくさんの新情報が見つかっています。これは、著者が核実験の新しい側面、すなわち人間の運命の歴史を示すことを試みている、という事実によるものです。それは彼女が聞き取った数々の証言によっても裏つけられます。

セミパラチンスク核実験場がある地域に彼女の家族が住んでいることがわかります。したがって、彼女は核実験場内埋立地のひどい遺産を直接認識している数少ない目撃者です。

アケルケは当時まだ若く、核実験と実験場に隣接する地域の住民の苦しみについて理解できる年齢ではなかったが、それでも環境の悪化は周りの家族、住人から察することができました。

真実つづる物語

私はこの本がアケルケの卒業論文をさらに深めたものであったことを知ってうれしく驚いていました。これは、アケルケの自身の民族の歴史について非常に関心が高いという事を意味し、このトピックは現在の研究においても重要な題材となっています。

アケルケは10代のころに広島に留学しています。明らかに、彼女は核兵器の致命的な危険を理解し、人類と自然のための恐ろしい力を認識していました。アケルケの本は哲学的な本ではありません。これは、カザフスタンの被爆者の運命に関する本物の物語です。 カザフスタンの女性の話は深い印象を与えます。最も近い人を失った数十人の母親、妻、姉妹、娘の話がその150万人の代表として残るでしょう。

Almas Dissyukov
Almas Dissyukov

この本は、核の脅威は関連性があり、依然として危険であることを再び強調しています。アケルケ自身も、在日カザフスタン共和国大使館と在カザフスタン日本国大使館で仕事の経験があります。したがって、私はこの本は若い政治家や外交官、学者に深く関係していると信じています。

INPS Japan

アルマス・ディシュコフ。カザフスタン共和国生まれ。同国外務省元職員。現在、筑波大学大学院 人文社会科学研究科 国際日本研究専攻 博士後期課程。

アケルケ・スルタノヴァさんのプロフィール

カザフスタン共和国セミパラチンスク市(現セメイ市)生まれ。2000年から1年間「ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト」の支援により広島の山陽女学園高校に留学。カイナル大学卒業後、一橋大学院博士課程退学。在カザフスタン日本大使館、在日カザフスタン共和大使館等勤務。

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