【IPSコラム=ジョン・バローズ】
2008年以来、「核兵器なき世界」を実現することがいかに望ましいか、それがいかに必要かということが、とりわけ国連の潘基文事務総長や米国のバラク・オバマ大統領など、多くの人々によって声高に語られてきた。しかし、ジュネーブ軍縮会議(CD)は、こうした明確なレトリックの変化からは超然としており、依然として行き詰まりの中にある。
全会一致ルールによって運営されるこの会議は、すべての核爆発実験を禁止する合意のテキストを1996年に生み出してからは、何の交渉も行ってこなかった。
何の成果も生み出さないCDに対する忍耐は切れつつある。国連加盟国は、10月の間、ニューヨークの国連本部で総会第一委員会に集い、多国間軍縮をいかに再び前進させるかについて、熱を帯びた実質的な議論を繰り広げてきた。そして、第一委員会は、12月初旬には総会で正式に採択されることになる2本の決議を可決した。これらの決議は、国連の中心的な使命のひとつを追求する責任をもつ機関としてのCDの停滞がもし今後も続くようならば、総会が前面に出るということを示唆している。
可能性のある行動は、国連総会が、CDが何らかの成果を出すまで、CDの外で全会一致ルールによらないプロセスを作り出す、というものである。オーストリア、メキシコ、ノルウェーがそのような提案を第一委員会で行い、過半数ではないがかなりの国からの支持を得た。提案によれば、作業部会が以下のような問題に取り組むことになる。核軍縮と「核兵器なき世界」の実現。非核兵器国に対する核兵器不使用の保証。兵器用核分裂性物質の生産禁止条約(FMCT)の交渉。宇宙の兵器化の防止。
これらテーマのすべてはすでにCDで取り扱われているものだが、65の参加国による作業をたった1ヶ国の反対によって止めてしまえる構造のために、うまく機能しなかった。加盟国の多数―その多くは「南」の諸国だが―は、完全なる核軍縮に関する交渉を優先してきた。しかし、安全保障理事会の五大国(中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ)はこれを拒否した。1990年代、多数の国々は、軍備管理の歩みを止めないために、「FMCTについては交渉に入り、他の事項については討議に留める」という西側核保有国の立場をしぶしぶ受け入れた。だが、作業は始まらなかった。
パキスタンは、自国の核戦力を拡張する時間を稼ぐために、2009年以来、FMCTの交渉入りを阻止してきた。2000年代中盤には、交渉を止めていたのは米国だった。ジョージ・W・ブッシュ政権が、FMCTは検証不可能であるとの根拠なき立場をとっていた頃のことである。それより以前には、中国とロシアが、宇宙の兵器化防止の問題に関する交渉を同時に開始すべきだと主張して、米国の反対を招いていた。
交渉に成功した多国間軍縮条約の歴史は、「全会一致の罠」にはまらないようにすることの必要性を教えている。1963年の部分的核実験禁止条約(正式名:「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」)と1968年の核不拡散条約(NPT)の場合は、核兵器を保有するすべての国家が交渉に参加したり、当初の条約加盟国になったわけではなかった。非参加国も遅れて参加するようになったのである。インドからの強い反対を押し切って1996年の包括的核実験禁止条約を採択したのは国連総会であり、CDではなかった。
[核戦力の]透明性と検証に関する不定期の会議を持つという初めての試みが、五大国によって2009年から始められている。これは歓迎すべき動きである。しかしこれは、将来の核軍縮交渉は、国連の場というよりも、核兵器国によってリードされる可能性を示唆している。これは望ましいことではない。なぜなら、世界的な賛同のみが生み出すことのできる正当性と実効性を欠いたゆるい合意ができるにすぎないからである。全会一致ルールによって麻痺したCDはこれまで15年間も機能してこなかったのだから、国連を中心としたプロセスこそ機能しなくてはならない。
コンセンサス形成に関する柔軟性に加え、同時にひとつ以上の多国間措置に取り組むアプローチが必要である。これが、オーストリア・メキシコ・ノルウェー提案のもうひとつのメリットである。米国とその同盟国は、「核兵器なき世界」の実現は漸進的なアプローチでなければならないとの立場を強固に保ってきた。しかし、FMCT交渉が終わらなければ他の多国間合意に取り組むことはしないと言えば、それは、核兵器の時代を終わらせる決定的な行動を無期限に先送りするということに他ならない。
FMCTの交渉には時間がかかる。発効となればなおさらである。さらに、五大国が現在考えているように、それはたんに将来の兵器用核分裂性物質の生産を禁止するに過ぎない。昔からの核大国である米国、ロシア、英国、フランスにはすでにして大量の兵器級物質の備蓄があり、FMCTの予定するような生産禁止では、これらの国々の軍事的能力にはほとんど何の現実的な効果ももたらさない。
したがって、漸進的なやり方はやめ、統合的かつ同時並行的に複数の軍縮措置に取り組むやり方を採らねばならない。諸国は、核分裂性物質の生産禁止、核兵器の不使用、核兵器の削減に関する同時交渉を行うか、あるいはその準備を進めるべきである。あるいは、それらをひとつの交渉の枠組みの中に包括することである。
もしCDが作業を再開する方途を今後も見出しえないとするならば、国連総会が責任を取り、軍縮への新たな道筋を切り開いていくべきである。(2011)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
※ジョン・バローズ氏は、ニューヨークに本拠を置く核政策法律家委員会(LCNP)の事務局長で、『核の混乱か協力的安全保障か―米国のテロ兵器、グローバル拡散の危機、平和への道筋』(2007年)の共編者。
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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