【ワシントンIPS=ミリアム・ペンバートン】
何カ月も噂されていたことだが、ついに12月に入ってロシアの通貨ルーブルが急落(2週間で23%下落)し、同国の経済苦境が世界の紙面を賑わせている。原油価格の下落を背景に、ルーブルは史上最安値を記録し、ロシアは1998年以来最も深刻な経済危機に直面している。
今般の危機を招いた最大の要因と言われているのが、ロシア政府が経済を多様化できなかったことである。少なくとも、全ての経済活動を石油・ガス部門に収斂させていく戦略(GDPの75%を両部門に依存)を採った弊害が今日明らかになってきている。
ロシアはかつて冷戦期に、多様化戦略を試みたことがあった。それは石油・ガス部門に依存した「解決策」が最も望ましいと考えられるようになる以前の、まさにソ連時代が終焉を迎えようとしていた時期のことである。当時、クレムリンの指導者らは、国家経済を破綻に追い込んだ巨大な国営軍需産業の一部を、それまでソ連国民には程遠い存在だった消費財を生産する拠点に急遽転換させようとしていた。
一例を挙げれば、戦車工場の工場長らがある日、生産ラインを作り変えて新たに靴を生産するよう政府より指令を受けた。しかし、その実施日程は、「即日取り掛かれ」というもので、うまくいかなかった。
経済学者らは、産業構造の多様化を図る適切なタイミングは、経済ショックに見舞われてからではなく、その前に実行すべきという点で一致している。新たな産業構造への移行は、慌てて実現できるものではない。しかし当時は、冷戦が無血で終焉を迎えるとは誰も予測していなかったことから、事前に産業構造を転換しようという計画は立てられなかったのである。
しかし、現在の米国には少なくともそれを行う選択肢がある。現在米国は、2011年に成立した財政管理法により、国防費削減の第一段階にある。米国は同法により、2012年度以降2021年度までの10年間の枠組みで軍事予算を削減することが義務付けられているのだ。
ただし、議会が国防費削減計画の規模を縮小したり計画そのものを廃棄したりするようなことがないと仮定しても、国防費の削減幅は史上最小規模のものに止まるとみられている。米国防総省の予算は2001年の9・11同時多発テロ事件後に2倍近くに膨れ上がっており、今回予定されている削減分は、あくまでこの倍増した部分を刈り取るにすぎない。つまり今後軍事予算の削減を着実に行ったとしても、米国の軍事費は、かつて軍拡を競ったソ連という実際に敵国が存在していた冷戦期の予算よりも、なお上回るのである。
しかし現在米国には、かつてのソ連のような敵は存在しない。それでは中国はどうかと言えば、 米国の軍事費は中国の6倍にものぼり、実質的に競合相手とはいえない。
それでも、国防予算の削減は、米国各地の軍関連産業に依存した地域コミュニティーに影響を及ぼしている。そして削減計画が終了する2021年までには、より多くの地域コミュニティーが影響を受けることになるだろう。従って、こうしたコミュニティーは、今のうちに、国防総省との契約に過度に依存している地元の産業構造を転換する取り組みを開始すべきである。
実は、国防総省の予算には、そのための予算が確保されている。国防総省経済調整局は、地元産業を多様化する必要性を認識しているコミュニティーに、計画のための補助金と技術支援を提供するために存在している。
もし米国が、ロシアの現在の経済状況とそれへの対応策を理解しようとするならば、ひとつだけ明らかなことがある。つまり米国は、ロシアが、かつては巨大な軍需産業、そして現在は石油・ガス産業に支配されている経済構造を転換できなかったという経験を、自国の将来への警告として学び、行動をおこす契機とすべきだということである。
多様化された産業構造を持つ経済はより強靭である。しかしこうした産業構造を構築するには、時間も計画も必要だ。既存の経済基盤が崩壊するまで産業を多様化するタイミングを待っているようでは、時期が遅くなればなるほど、新たな産業構造へスムースに移行できる可能性が急速に遠のくこととなる。戦車を作る産業構造をわずか1日で靴を作る産業構造へと転換することなど、できないのだ。(原文へ)
※ミリアム・ペンバートンは、ワシントンDCに本拠を置くシンクタンク「政策研究所」の特別研究員。同研究所の平和経済移行プロジェクトを指揮。
翻訳=IPS Japan