【コペンハーゲンIDN=ジョン・スケールズ・アベリー】
ノーム・チョムスキー教授はかつて、米国の共和党は「世界史上最も危険な組織」と呼んだが、その理由は、気候変動を否定し石化燃料巨大企業へ支援するのが同党の特徴だからだ。2018年国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)特別報告は、石化燃料の採掘・使用を止めるまでの猶予がかなり短いことを明らかにした。もし国際社会が10年以内に石化燃料の使用を止められなければ、『フィードバックス』と呼ばれる地球上の重要な転換要素が活性化され、その時点でたとえ人類が温室効果ガスの排出を停止できたとしても、地球全体がさらに高温になっていく『ホットハウス現象』が発動する可能性がある。この不可逆なプロセスが現実のものになれば、地球は生命が存続不可能な環境となり、大規模な種の滅亡が引き起こされることになる。
気候変動の最悪の影響が現実のものとなるのはしばらく先の話だが、今日生きている子どもたちはこのリスクに晒されることになる。私たちは愛情をもって子供らの世話をするが、子供たちや彼らの子孫が生存していける世界を引き継ぐための努力をしないならば、そうした世話も意味をなさないものとなるだろう。
世界が燃えている
人類が壊滅的な気候変動の脅威に直面するのはしばらく先の話だが、今日その影響の一端を目の当たりにしつつある。例えば、カリフォルニア州が気候変動の影響で未曽有の火災に見舞われている。同州森林保護防火局によると8月28日現在、7175か所で発生した火災により約166万エーカー(約6717平方キロメートル)が焼失した。
北極圏も燃えている。北極圏に位置する北東シベリアの街では、今年6月、観測史上最も暑い摂氏38度を記録した。溶解が進む北極圏の永久凍土やシベリア北方沖の浅瀬から危険な温室効果ガスであるメタンが大気中に噴出しているのだ。
さらに、北極圏で多発している山火事は未曽有の量の二酸化炭素を大気中に放出している。北極圏で確認された山火事は2003年から18年は年間平均100件程度だったが、19年には400件、今年は7月下旬時点で既に600件が確認されている。
2020年のハリケーンシーズンは例年より早く到来し、8月には観測史上最大規模のハリケーンローラがルイジアナ州に上陸した。グリーランドの氷は溶け続けており、南極では氷床の崩壊が進行している。しかし、こうした明らかに危険な兆候が表れているにもかかわらず、2020年大統領選挙に向けた政治キャンペーンでも米国メディアでも、気候の非常事態については、ほとんど取り上げられていない。本来ならば、気候変動の問題こそが、議論の中心に据えられるべきだ。
バーニー・サンダース氏は最近以下のコメントを述べている。「政治家らが気候変動は現実ではないと言うとき、これは、彼らが単に嘘をついているとか、科学を否定しているという問題にとどまりません。彼らのそうした発言は、今日気候変動の影響を現実に経験しているルイジアナ州の人々に背を向けているに等しい行いなのです。」
私たちは、何が迫りつつあるのかは理解しつつも、実際に関心を示すのは気候変動がもたらす目前の脅威に限られる傾向にあります。しかし、私たちはあらゆる将来の世代に責任がありますし、壊滅的な気候変動が現実のものとなれば絶滅に瀕することになる地上の全ての生き物に対して責任があります。私たちが実際に直面している危機を理解するには、温室効果ガスが引き起こした前例としてペルム紀–三畳紀絶滅を想起すべきです。その際、96%の海洋生物と70%の陸上脊椎動物が絶滅した。
2020年大統領選挙は極めて重要
11月の米大統領選挙が極めて重要になるのは、単に再選を目指すドナルド・トランプ氏のネオ・ファシズム的な傾向が問題だからなのではない。それよりもむしろ、気候変動を否定し石化燃料巨大企業を支援する共和党が政権と議会の主導権を保持すれば、生命を破壊する地球温暖化から世界を救う全ての希望が失われてしまうことになりかねないからだ。来る選挙に影響力を行使できる或いは投票できるあらゆる人々は、民主党の勝利に向けて熱心に取り組むべきだ。(原文へ)
INPS Japan
*ホットハウス現象:地球温暖化が産業革命以前に比べて2度上昇すると、しばしば『フィードバックス』と呼ばれる地球上の重要な転換要素が活性化され、その時点でたとえ人類が温室効果ガスの排出を停止できたとしても、地球全体がさらに高温になっていく可能性が指摘されている。突然の変化につながるいくつかの「転換要素」を含む10種類の自然システム(永久凍土の融解、海底からのメタン水和物の減少、陸上や海中での二酸化炭素吸収量の減少、海中におけるバクテリアの増殖、アマゾン熱帯雨林や北方林の立枯れ、北半球の積雪の減少、北極圏・南極圏の海氷や極域氷床の減少)は「フィードバック・プロセス」と呼ばれる。これらの自然システムは、温暖化が一段と進んだ世界では、今のように二酸化炭素を吸収する「人類の友」である存在から、一転して無制限に二酸化炭素を排出する「人類の敵」になる可能性があると指摘されている。
*視点で表明されている観点は著者の個人的な意見であり、必ずしもIDN-InDepthNewsの編集方針を反映するものではない。
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