【東京IDN=石田尊昭】
尾崎行雄は、1890年の第1回総選挙から第25回まで連続当選し、衆議院議員を60年以上にわたり務めました。この当選回数と在職期間は、日本の議会史上、まだ誰にも破られていない偉大な記録です。
しかし、それは「尾崎が打ち立てた」というより、「有権者が打ち立てた」記録です。
国の存続・繁栄と国民の幸福のために立憲政治を命懸けで実現させようとした政治家・尾崎の生き方は、未来に大いに語り継ぐべきものだと思います。と同時に、地元に直接的な利益をもたらさなかった尾崎を、「国のために」という思いで国会に送り続けた当時の有権者の姿も忘れてはいけません。
尾崎行雄は、時の政府・権力と厳しく対峙しますが、同時に有権者に向けても厳しい要求を突きつけます。真の立憲政治・民主政治の実現のためには、有権者こそがしっかりしなければならないからです。
前回の参議院議員通常選挙が行われた2016年、私は『18歳からの投票心得10カ条』という本を書きました。この本は、政治や選挙と初めて向き合う若い人たちだけでなく、これまでの政治や選挙に慣れてしまった大人の皆さんにも、改めて民主主義の本質を見つめ直してほしいという思いで書いたものです。「投票率を高める」ことよりも「投票(一票)の質を高める」ことを目的に書きました。
この本には、尾崎行雄が説き続けた政党・議会・選挙のあり方、そして、尾崎が掲げた「有権者の投票心得(10項目)」を載せています。その中から、以下二つ、ご紹介します。
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(第1条)
何よりもまず、自分はいかなる政治を希望するかという自分の意思を、はっきり決めてかかることが大切だ。選挙は、国民の意思を国政に反映させるために行われる。つまり、反映する本体がしっかりしていなければならない。有権者自身に政治的意思――どのような政治、どのような国・社会を実現したいと考えるのか――がなければ、いくら投票しても意味がない。
(第7条)
演説会場その他あらゆる機会をとらえて、有権者は各政党または候補者に向かって、具体的な政策を明示するように要求しなければならない。そして政党本部で発表した政策と候補者の言質(げんち)を箇条書きにして、台所の壁にでも貼っておき、実行された公約の上には○をつけ、実行されなかった公約の上には×をつけるようにすること。公約を裏切った政党や議員に対しては、次の選挙の時に絶対に投票しないことを覚悟すれば、政党も議員も、完全に有権者によってリードされるようになる。
『18歳からの投票心得10カ条』より
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この二つは、いずれも「当たり前」のことで、「心得」などと大袈裟に言うほどのものではない、と思われるかもしれません。しかし、この二つを私たちは確実に実行できているでしょうか。ついつい面倒臭くなって「思考停止」になることはないでしょうか。
選挙になると、政党も候補者も様々な政策を掲げます。
聞き心地は良いが実現性に乏しいもの、分かりやすいが具体性に欠けるもの、今の自分にとっては「お得」でも社会全体で長期的に見た場合は負担が大きすぎるものなどなど。
INPS Japan
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