「核兵器全面廃絶国際デー」(9月26日)は、核兵器が人類全体に与えつづけている脅威の重みを改めて思い起こさせてくれる機会となった。
「(現在進行中の)シリア及びウクライナの危機を巡って対立している米国とロシアの間では、約2000発の核兵器が警戒態勢にあります。」と語るのは、核兵器廃絶を目指す「平和首長会議」の主要な活動家アーロン・トビッシュ氏である。
まさにイラクとシリアがスマート爆弾による猛攻撃に晒されていたとき、広島・長崎の原爆を生き延びた被害者らは、大量破壊兵器の使用が民間人にもたらす恐るべき影響について指摘していた。
「私たちは核兵器を廃絶するための世界的なキャンペーンを強化する重要性を強調しています。主要な目標は、2020年までに核廃絶を達成するための世界的な動きを強化することにあります。」とトビッシュ氏はIDNの取材に対して語った。
米国は向こう30年間で核兵器近代化のために約1兆ドルを、英国はトライデント核ミサイルのために500億ドルを費やす予定であり、冷戦の時代が再び戻ってきたかのようだ。
「私たちは、シリアやウクライナの危機があるからといって、核兵器に対するこうした支出は正当化できないということを強調しています。核兵器は気候変動や食料安全保障に対して遥かに大きな脅威となるのです。」とトビッシュ氏は語った。
ジュネーブで開催された、今回初となった「核兵器全面廃絶国際デー」を記念する会議に参加したトビッシュ氏は、来年の原爆投下70周年に向けて、被爆者を世界各地で親子に紹介する「今と過去の対話プロジェクト」(平和首長会議とピースボートによる提携事業)について説明した。
「被爆者」とは、広島・長崎原爆を生き延びた犠牲者のことである。日本の都市に初めて大量破壊兵器を投下する決断を下した米国のハリー・トルーマン大統領は、「最初の原爆は軍事基地である広島に投下されたことを世界は知ることになるだろう。なぜなら、我々はこの最初の核攻撃において、可能な限り民間人の殺害を回避したいと願ったからだ。」と主張していた。
しかし歴史家ハワード・ジン氏によると、米戦略爆撃調査団はその公式報告書の中で「広島・長崎は活動や人口が集中しているがゆえに目標として選ばれた」と結論付けているという。
初の「核兵器全面廃絶国際デー」記念イベントを組織したUNFOLD ZEROと国連軍縮局(UNODA)は、世界の市民社会が諸政府に対して、完全軍縮と核兵器廃絶という目標を捨て去らないよう圧力をかけなくてはならないという強力なメッセージを発した。
軍縮と核兵器完全廃絶を交渉する多国間機関であるジュネーブ軍縮会議は、この18年に亘って麻痺状態にあり、市民社会がより大きな役割を果たさなくてはならない。「しかし、政治的意思はリーダーのレベルでのみ生まれるわけではないのです。」と国連欧州本部のマイケル・モラー本部長代行は語る。
「政治的意思は民衆の要求によって突き動かされることが多い。地球上から核兵器を廃絶することは単に、高潔な目標であるということではなく、長期的で意味のある国際の平和と安全を保証する究極かつ不可欠の条件ですから、こうした取り組みが必要とされているのです。」とモラー氏はUNFOLD ZEROの会議で参加者に語りかけた。
インドネシアの強力なコミットメント
インドネシアは昨年、非同盟諸国を代表して、毎年9月26日を「核兵器全面廃絶国際デー」として記念することを求める決議案を国連総会に提出した。その根底にある目的は、「核兵器なき世界という共通の目標達成に向けた国際的な取り組みを盛り上げるために、核兵器が人類に与えている脅威とその完全廃絶の必要性について世論の意識を高め教育を強化することである。」
非同盟諸国は、この行動によって、核軍拡競争の停止と完全核軍縮を規定した核不拡散条約(NPT)第6条にある、忘れられた「義務」を、核兵器保有国に思い起こさせた。
メキシコのホルヘ・ロモナコ軍縮大使はIDNの取材に対して、「NPTは、非核兵器国が原子力の平和利用の権利を得る代わりに核兵器の取得・開発を放棄し、他方で核兵器国が核軍縮を約束するという、いわゆる『大取引』によってできた暫定的なものに過ぎませんでした。」と指摘したうえで、「非核兵器国はNPTの下で義務を果たしてきましたが、核兵器国は(NPT署名以来40年以上も亘って)公約を果たしていません。」と語った。
ロモナコ大使は、核兵器が非国家主体の手に落ちる事態を含めて、意図的あるいは偶発的な核爆発が起こる危険性が増していると強調した。ロモナコ大使は演説の中で、「最新の調査結果や科学的研究の成果がますます利用可能になるにつれ、意図的であれ偶発的であれ、核爆発が与える影響に関す議論が活発になってきています。すなわち、(核爆発が)環境や、人間や動植物の健康、気候変動、食料安全保障、開発と経済、人間の強制立ち退き、さらにはその他の開発側面に与える影響についてです。」と述べ、緊急の議論を必要としている主要な課題を列挙した。
メキシコ政府は、ノルウェーやオーストリア等多くの非核兵器国とともに、一発の核爆発がもたらしうる人道的影響に焦点をあてた、世界的なキャンペーンを強化している。
国連で全面的な核軍縮を目指す運動を主導してきたインドネシアは、(核兵器国から)「核兵器なき世界」を確実に実現するという言質をとろうとしている。インドネシアのトリヨノ・ウィボウォ大使は、「核兵器国は、中東の核兵器を廃棄し、軍縮義務を果たしていかなくてはなりません。」と語った。
ジュネーブに本部を置く多国間政治組織の中では最も古いものとなっている列国議会同盟(IPU)(164ヵ国が加盟)は、今年3月に国防計画において核兵器を抑止力として位置づけないよう加盟国の議会に強く求める決議を採択している。
IPUはまた、核物質防護の強化、既存の非核兵器地帯の強化、さらには、新たな非核兵器地帯創設の支援を呼び掛けている。
約70年にわたって、国際社会は核廃絶という課題と格闘してきた。国連総会がロンドンで1946年1月に採択した初めての決議は、原爆の廃棄を求めるものだった。米国と旧ソ連との間の冷戦で軍拡競争が行われたにも関わらず、軍縮交渉を画するいくつかの重要な進展があった。
一方これまでに、より多くの国が、差し迫った二国間・地域紛争における抑止力として機能するという口実の下、核兵器という最も破滅的な大量破壊兵器を取得した。
核抑止という伝染的なドクトリン
二大核兵器国である米国とロシアは、1980年代半ばの冷戦期のピークに保有していた7万5000発にのぼる核兵器備蓄数を、今日では約2万発にまで削減している。「しかしながら、両国には依然として、『詳細かつ長期的で、十分な資金を受けた核兵器近代化計画』があります。一方で両国には、核軍縮を達成するための具体的な計画は存在せず、核兵器禁止条約交渉についても進展がみられていません。」と国連のガブリエル・クラーツ-ワドサック軍縮問題担当は語った。
「潘基文事務総長が『伝染的な核抑止ドクトリン』と呼んできたものが今日まで蔓延っており、核兵器を保有する国は、今や9か国に広がっています。」とクラーツ-ワドサック氏は嘆いた。
ジュネーブ軍縮会議では膠着状態が長年続き、多国間軍縮機関として機能不全に陥ってきたが、一方で市民社会の中から、核兵器を廃絶する必要性について人々の意識を高め教育を強化する有望な動きが出てきている。日本に拠点を置く創価学会インタナショナル(SGI)もその中で重要な役割を果たしている。
また、数ある国々の中で、インドネシアやメキシコ、ノルウェー、オーストリア、カザフスタンといった国々が、核兵器廃絶に向けたキャンペーンにおいて、協調した役割を果たしている。
核兵器使用がもたらす人道的影響と、それが人道・人権法の下で持つ意味合いに対する関心が世界的に高まり、誓約を果たさないことに対する諸政府への圧力の高まりがみられるが、これらは核軍縮における将来的な進展への扉を開ける前兆といえるだろう。
また、広島・長崎への原爆投下から70年を記念してピースボートが来年の4月から7月にかけて実施予定の、第87回「地球一周の船旅:ヒバクシャ地球一周 証言の航海(平和市長会議と提携)」は、核兵器国に対して核をなくすよう圧力をかけるための重要な動きとなるだろう。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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