【アビジャンIPS=マーク・アンドレ・ボワヴェール】
西アフリカでは、マリとコートジボワールにおける政治危機が最悪の難民危機を引き起こしている。武装勢力が各地で跋扈し政情不安が続く中、難民の帰還問題も長期化する様相を呈している。
ナイジェリアではイスラム過激派組織が民間人を標的にしたテロ行為を繰り返してきたが、今では隣国のニジェールとカメルーンに潜伏している。マリでは、国連部隊が政府への軍事支援を行っているが、イスラム過激派武装勢力「西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)」は依然として、各地で爆弾テロを展開するなど脅威であり続けている。
コートジボワールもまた、深刻な政情不安に直面している。同国は3000人に及ぶ犠牲者を出した2010年末の大統領選挙に端を発した内戦のダメージから回復したが、内戦中に隣国のガーナ、トーゴ、リベリアに避難した難民の帰還は遅々として進んでいない。
UNHCRによると、同近隣3か国を中心に国外に暮らすコートジボワール難民は93,738人、さらに国内避難民は24,000人にのぼるという。
しかし内戦中に多くの殺戮が行われた同国西部の低サッサンドラ州では、この数週間の間に再び武装勢力による襲撃事件が再発するなど、政情は不安定なままである。
スウェーデンのウプサラ大学平和・紛争研究学部博士課程の学生イルマキ・カイコ氏は、リベリア東部のコートジボワール難民が多数居住する地域において詳細な実態調査を行っている。
カイコ氏はIPSの取材に対して、「コートジボワール難民の多くは2015年の大統領選挙の結果を見据えてから帰還するかどうかを決めようとしているのです。」「彼らは現職の(アサラン)ワタラ氏が次回大統領選で敗れると予想していますが、もし選挙結果で勝利するようなことになると、再び騒乱が起こりかねないと考えているのです。」と語った。
ワタラ政権は、隣国に逃れた難民コミュニティーに、本国への帰還を歓迎するという政府のメッセージを携えた特使を派遣するなど、難民問題の解決に努力している。
この政策は、最近になってマルセル・ゴシオ元アビジャン港湾局長や1300人を超える元兵士を含む旧ローレン・バボ支持派(先の内戦の敵対勢力)の人々の帰還が実現するなど、ある程度成果を生み出しつつある。
先のコートジボワール内戦で拘束され失脚したバボ前大統領は、内戦期に人道に対する罪を犯したとして逮捕され、国際刑事裁判所の審理にかけられる予定である。
カイコ氏はまた、「難民の安全な帰還を実現するにはコートジボワール西部における土地所有権の問題解決が重要」と指摘したうえで、「現地の緊張状態はいまでも続いており、このまま難民が帰還すれば、暴力的な衝突が再燃するリスクは依然として高い。」と語った。
リベリアにおけるコートジボワール難民の大半は同国西部の世界有数のカカオ生産地から逃れてきた人々である。彼らは、コートジボワール政府の「土地は、実際にその土地を耕しているものに属する」という政策に則って、土地を開墾しカカオ栽培に従事してきたが、一方で先住のゲレ族との間に土地の所有権を巡る軋轢が生まれていた。内戦によって彼らが農地から離れたため、もはや土地の所有権は望めないと考えているのである。
カイコ氏は、リベリアに暮らしているコートジボワール難民の多くが本国帰還に消極的な最大の理由は、もはや戻るべき土地がないという土地所有権を巡る問題にあると見ている。
また、ナイジェリアでも政情不安が続いている。
ナイジェリア北部では、イスラム過激派武装組織「ボコ・ハラム」による一連の襲撃事件により、この数か月間で、1,500人が北に隣接するニジェール南部のディッファ地域に、さらに4,000人以上がカメルーンに難民として流出している。
ボコ・ハラムは、学校、病院など、欧米起源と見なされる施設を標的に襲撃を繰り返しており、治安の悪化とともに、近隣諸国や国内避難民が増加し続けるなか、難民への支援活動が困難になってきている。
ただし、治安悪化が原因で人道支援活動が困難になっているのはナイジェリアだけではない。
西アフリカ全域を通じて、援助活動に従事する要員が誘拐や襲撃を受ける事件が頻発しているほか、帰還難民も襲撃の標的になってきている。2月8日にはマリのキダルからガオに移動中の4輪駆動車がMUJAOに襲撃され、国際赤十字委員会のマリ人職員4人と他の援助団体の獣医師1名が拉致されている。
襲撃事件が頻発する中、多くの人道支援団体は、支援活動のため危険地帯に赴かざるを得ない職員のための治安対策を強化することを余儀なくされている。
「この地域では、武装勢力から職員を拉致されないように武装兵士によるエスコートが欠かせません。」とUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ブルキナファソ事務所のムハンマド・バー広報官はIPSの取材に対して語った。
マリと国境を接するブルキナファソの情勢は比較的安定しているが、バー広報官は、「(マリに近い)北部遠隔地域、とりわけドーリやディーボ地域では厳格な安全措置を講じてスタッフの活動の範囲を制限せざるをえなくなっています。」と語った。
これにより人道援助活動や帰還難民の支援活動に支障がでてきている。
UNHCRマリ事務所のアリヴィエ・ビーア氏はIPSの取材に対して、「政情不安により、マリ国内で帰還難民へのアクセスが困難になっており、NGOの中には帰還難民が暮らす地域における活動を制限するところも出てきています。私たちがそうした地域に出向いて帰還難民に対する支援活動を行うには、国連マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA)の支援が必要なのです。」と語った。
2012年12月にフランス軍がイスラム過激派武装組織の拠点に対する空爆を開始する数週間前の段階で、隣国に逃れたマリ人難民及び国内避難民の数は50万人に上っていた。
その後、MINUSMAが徐々に軍事作戦に取って代わり国内治安の安定化作業を進めるなか、隣国のブルキナファソ、ニジェール、アルジェリア、モーリタニアの各地に点在する難民キャンプに暮らすマリ人難民の数は167,000人に減少している。現在、マリ国内の避難民の数は約20万人である。
なお、UNHCRは現時点で難民の帰還を積極的に勧めていない。
「UNHCRが難民の帰還を支援する際には、難民の安全と尊厳が守られるよう一定の保護基準が満たされていなければなりません。」とビーア氏は語った。しかしマリでは、住宅や学校の不足、政情不安、司法へのアクセスの不在等の諸要因から、難民の帰還プロセスが遅れている。
しかしたとえ治安問題が解消されたとしても、難民の帰郷にはさらに多くの時間を要するかもしれない。いくつかの国連諸機関およびNGOが、現在西アフリカ地域は深刻な食糧危機に直面していると警告している。
英国に拠点を置く人道支援団体「オックスファム・インターナショナル」は、現在食料支援を必要としているマリ難民の総数は80万人以上に及んでおり、作物の収穫が少なくなる5月中旬以降には、さらに危機的な事態に発展する可能性があると予測している。
コートジボワール難民も同様に厳しい状況に直面している。UNHCRリベリア事務所のカシム・ディアニュ代表は、「もし難民に対する食糧供給量が2か月以内に増やされない場合、52,000人以上のコートジボワール人難民が餓死するだろう。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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