ニュース核に関する「世界的に許容できない一線」はどうなのか

核に関する「世界的に許容できない一線」はどうなのか

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

「核兵器なき世界」に向けた熱心な活動で定評がある「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICANが再び、地球と人類全体の生存そのものを危うくする核兵器を全廃するよう、時の権力者らに訴えかけている。ICANによるこの熱気のこもった呼びかけは、ニューヨークで開催された「核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合」にあわせてなされた。

80か国・300団体以上の世界的な連合体であるICANは、9月26日に行った声明の中で、「核兵器に関して『世界的に許容できない一線』とはどこにあるのだろうか?」と述べている。

この問いかけは、米国のバラク・オバマ大統領がシリアにおける化学兵器使用疑惑を受けて(シリア政府が)「許容できない一線」を超えたとして、軍事行動を起こす構えを見せたことを念頭に置いている。その後ロシアが急遽介入してシリアのバシャール・アサド大統領との間で妥協が成立したことから、この軍事行動は当面回避された。

「シリアにおける軍事攻撃の恐怖は、大量破壊兵器を保有し続けることに必然的に伴う危険を明らかにした。化学兵器の使用による虐殺に対する国際社会の怒りに満ちた反応は、化学兵器が廃絶されるまでは、意図的であれ偶発的であれ、それがいつの日か使用される大きなリスクが存在することの証明であった。(核兵器保有国によって)国際的な地位と力の象徴と見なされてきた核兵器もまた、この峻厳たる現実から逃れることはできない。この現実を無視することの代償は甚大なものになるだろう。」とICANは警告している。

この声明を「ハフィントン・ポスト」に投稿したリブ・トーレス「ノルウェー民衆の支援」(NPA)事務局長をはじめとする賛同者8人は、婦人国際平和自由連盟(WILPF)事務局長のマデレーン・リーズ、UNIグローバルユニオンのフィリップ・ジェニングズ書記長、IKVパックス・クリスティのジャン・グリュイターズ代表、「核軍縮キャンペーン」(CND)のケイト・ハドソン事務局長、ピースボートの川崎哲共同代表、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のマイケル・クライスト事務局長、創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長、である。

世界に1200万人以上の会員を擁する仏教組織であるSGIは、「信仰を基盤とした団体(FBO)」の一つである。創価学会の戸田城聖第2代会長が1957年9月8日に「原水爆禁止宣言」を発表して以来、核兵器廃絶に向けてたゆみなく活動を続けてきた。また2007年には、核兵器の全面禁止を支持する世論を活発化するため、「核兵器廃絶のための民衆行動の10年」キャンペーンを立ち上げた。

SGIの池田大作会長は、2010年の「平和提言」の中で、広島・長崎への原爆投下70周年にあたる2015年に両市で核廃絶サミットを開催するという考えを提唱している。池田会長は、2011年の平和提言でもこの考えを繰り返し述べているほか、その翌年には、2015年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議を広島・長崎で行うべきとの提案をしている。 

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

池田会長は、2013年の「平和提言」では、さらに一歩踏み込み、核兵器なき世界に向けた拡大首脳会議の開催を提案した。「広島・長崎への原爆投下から70年となる2015年にG8サミット(主要国首脳会議)を開催する際に、国連や他の核保有国、非核兵器地帯の代表などが一堂に会する『核兵器のない世界』のための拡大首脳会合を行うことです。例えば、2015年のホスト国であるドイツと交代する形で、2016年の担当国である日本がホスト役を務め、広島や長崎での開催を目指す案もあるのではないかと思います。」

世界的な人道上の脅威

「ハフィントン・ポスト」に掲載された声明はこう強調している。「核軍縮は、核兵器保有国のみが取り組めばよい領域ではない。核兵器は世界的な人道上の脅威であり、その廃絶の責任は、核兵器保有国にあると同様に、核を保有しない国々にもある」。

署名者らは、核兵器は非差別的な兵器であって、その影響を制限することも制御することもできないと論じている。実際、1万7000発以上の既存の核兵器のわずか一部分だけでも使用されれば、気候に悪影響を与え、農業生産を危機に陥れ、20億人が飢えに苦しむことになると推定されている。

またこの主張は、「核兵器攻撃被害想定専門部会」が米国による広島への原爆投下に関する分析で明らかにした次の結論に基づいている。「核兵器攻撃から市民を守ることはできず、市民を守るには、意図的であるか偶発的であるかを問わず、核兵器攻撃の発生を防止する他に方策はなく、そのためには唯一、核兵器の廃絶しかないと答えざるを得ない。」

さらに声明の署名者らは、核兵器の非差別な本質を知らしめようとして、「研究に次ぐ研究が、大規模な民間人被害を防いだりそれに対処したりすることは不可能だということを指摘している。太陽の中心にも匹敵する温度を生み出す能力をもつ兵器に対しては、緩和措置は単純に言って不可能と言わざるを得ない。」と論じている。

またこの声明は、現実を回避する傾向にある国々を念頭に、「もちろん核兵器保有国は、核兵器の真の効果について、他の大量破壊兵器と比較して核兵器に与えられている二重基準についてと同様に、十分熟知している。」と指摘している。

声明はさらに、「真実は、数十年にわたって、核兵器にはほぼ神話的な地位が与えられてきた。つまり核兵器は『平和を維持するもの』とか『必要悪』とみなされ、核兵器保有国の政治的・軍事的エリートにとっての力や威信の象徴としての地位が与えられてきたのである。」と述べている。

また声明の8人の署名者らは、核兵器の使用がもたらす重大な人道的帰結に焦点を当てつつ、「核兵器は兵器であって、政策の道具ではない。いかなる核兵器の使用も破滅的な人道的帰結(大量の民間人への被害、環境や公衆衛生、世界経済への回復不可能なダメージ)を引き起こすという事実を、どの安全保障ドクトリンや理論も完全に覆い隠すことはできない。」と強調している。

オスロで今年3月に開催された政府間会合「核兵器の人道的影響に関する国際会議」は、核兵器の爆発が直ちにもたらす人道面における緊急事態に十分に対応し、被害者に対して十分な救援活動を行うことは不可能との結論に達した。いかなる国際機関や国家も、そのような対応能力を確立すること自体、いかなる試みをもってしても不可能かもしれない。

専門家らはオスロ会議において、核兵器が使用されれば必ず、病院や食料、水、医療品、交通、通信といった、生存者支援のために必要なインフラが消失してしまう、と指摘した。彼らはまた、外部から支援に入った医師や救急隊は、効果的な治療に必要な手段なしで活動しなくてはならず、さらに、チェルノブイリや福島原発事故の経験から明らかなように、放射能によって高度に汚染された地域に救護者が立ち入ることができなくなる、と警告した。

核兵器を禁止する法的拘束力のある取り決め

こうした背景の下、ICAN声明の署名者らは次のように論じている。「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的帰結を認識するということは、核兵器を容認できないという立場を明確にとることを意味する。またそれは、核兵器の保有やその使用の威嚇は直接的に人道的な原則に反すると明言することを意味するとともに、核兵器ををとりまく従来の認識を改めて、核兵器を完全に禁止する法的拘束力がある取り決めを策定していくことを意味する。」

ICANの活動家ノジズウェ・リセ・バクワ氏は9月26日の国連総会においてさらにこの議論を押し進めて、「核兵器も、既に禁止されている大量破壊兵器と並んで完全に違法だと明確に宣言されていないことは、国際社会が全体で取り組むべき社会的責任を未だに果たしていないことの証左に他なりません。」と語った。

ICAN

バクワ氏は非政府組織(NGO)を代表して「意志ある国家がこの失敗を正す時が来ました。核兵器を完全に廃止すべき時が来ました。」と指摘したうえで、「これまで、多国間核軍縮協議のための現在の枠組みの下では、軍縮義務(NPT第6条)遵守に関する核兵器保有国の政治的意思の欠如を乗り越えることができませんでした。軍縮会合での行き詰まりを後世への遺産として残さないようにしようではありませんか。」と各国代表に訴えかけた。

次のように述べるバクワ氏は、池田SGI会長と同じ信念を持っているようだ。「核兵器禁止条約は実現可能であり、核兵器を保有しない国家がその実現に向けた動きを始めることができるのです。核兵器保有国はそうした交渉を妨げるべきではありません。私たちは、従来の軍縮協議以外の場における、生産的あるいは見込みのある取り組みを諦めるべきではありませんし、目前にある、歴史的偉業を成し遂げる機会を無視すべきではないのです。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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