地域アジア・太平洋中国・パキスタン原子力取引に沈黙保つ米国

中国・パキスタン原子力取引に沈黙保つ米国


【ワシントンIPS=エリ・クリフトン】

  先週ニュージーランドで開かれた原子力供給国グループ(NSGの総会で、予定されている中国・パキスタン間の原子力取引に懸念が表明された。しかし、米国務省は、記者から追及されても中パ取引に強い態度を取ることを避けた。

中国によるパキスタンへの原子炉2基の売却は、理論的には、中国も加盟する核不拡散条約(NPT)に違反するものである。しかし、米国のオバマ政権が3月に結んだインドの使用済み核燃料再処理の合意についても、同様の批判を招くおそれがある。

中パ合意、米印合意のいずれも、NPT加盟国でない国(インド、パキスタン)の核開発を促進することから、NPTに違反しているとの批判がある。

 米国務省高官は、NSG総会の期間中、中パ取引に関する記者からの質問を避けようとした。6月28日の会見で、クローリー報道官は、中国の原子力取引をめぐる問題が先週のNSG会合で持ち上がってきたが、「米国政府は、将来の計画に関する情報提供を中国に求め続ける。」と述べるにとどめた。

クローリー報道官は記者団に対して、「中国が具体的に何を提案しているのか、その情報を提供するよう中国に求めているところだ。先々は、中パ間の取引に関してNSGの合意が必要になるだろうと考えている。」と語った。

NSGの他の加盟国は、パキスタンへの原子力技術移転の可能性に関して、より明確な態度を打ち出している。

たとえば英国政府は、「パキスタンと民生原子力取引を行うのは時期尚早だ。」との意見を表明している。

オバマ政権が中国によるパキスタンへの原子炉売却計画について、中国政府非難の輪に加わらないのには多くの理由がある。
 
 オバマ政権はこのところ、冷却化した対中国関係の回復に躍起であった。というのも昨年から今年初めにかけて、中国が通貨操作を行っているとオバマ政権が宣言すべきだというプレッシャーが米国内で盛り上がりを見せる一方、同時期に決定された米国による台湾への武器売却が、中国政府の大きな反発を招き、中国が米国を強い口調で非難した経緯があるからだ。

米国はまた、アフガニスタンにおけるタリバン、アルカイダとの戦争遂行のため、パキスタンとの良好な関係を維持しなければならない。アフガニスタンへの補給線を確保する必要がある上、パキスタン国内のタリバン勢力を叩くためにも同国政府の協力が不可欠だからだ。

こうした背景から、ワシントンの専門家らは、オバマ政権が中パ原子力取引に反対することはないだろうとみている。

カーネギー財団核政策プログラムマーク・ヒッブス上席研究員は、「米国とその他のNSG加盟国は計画中の取引に反対するかもしれないが、中国による原子炉輸出を阻止することはできないだろう。」と4月に発表した著書に記している。

またヒッブス氏は同書の中で、「米国に近いNSG加盟国の高官は今月、『オバマ大統領は中国による輸出を公的に批判することはないだろうと考えている』と述べた。なぜなら、米国政府は、パキスタンが民生原子力協力の推進を志向する契機となった米印原子力協力を、フランス・ロシアと共に他のNSG加盟国を押し切って、2008年に成立させた経緯があるからである。また米国政府は、パキスタンとの間に二国間安全保障対話という枠組みを有していることから、パキスタン側の(民生用原子力開発を求める)希望に敏感にならざるを得ない。」と記している。

米国が2008年にNPTの例外として民生原子力技術のインドへの売却を押し通した際、軍備管理関係者は、これはNPTを弱体化させるものだとして非難した。また一方で、「米国に近い同盟国を優遇する二重基準(ダブル・スタンダード)がNPTにはある」との批判もあった。

イランのマームード・アフマディネジャド大統領は、米国が、NPTの加盟国でもなく、核開発を進めてきたインドに抜け穴を認めるようなことをやりながら、他方では民生原子力技術の輸出に制限をかけようとするなど、偽善的な行為をしていると強く非難してきた。

オバマ政権は、核不拡散と核兵器の削減をめぐる挑戦が、米国政府が取り組む世界の最重要課題のひとつだと繰り返し言明してきた。

オバマ大統領は「核兵器なき世界」という目標を何度も語り、核兵器という脅威の世界的な削減の基礎を成す、核軍縮・核不拡散・原子力の平和利用の3つの柱を強調してきた。

NPTは、核拡散のリスクを低減する米国の努力を実現するための最も効果的な手段だと見られてきた。しかし、米国と中国がNPTを脇においてNPT非加盟国と原子力取引を行うようになればNPTは弱体化すると多くの専門家が懸念を示している。

中国がパキスタンを例外扱いして原子力協力しようという計画には批判が集まるかもしれないが、米国がこの問題を巡って中国と公式の場でやりあうようなリスクを冒すとは考えられない。

6月はじめ、専門家らは、「中パ原子力取引はNSG会合における難しい議題になる可能性がある。しかし、中国は原子力協力協定(NSG加盟以前の2004年に中パ間で締結)を用いて、例外的に原子炉輸出を押し切ることになるかもしれない。」と警告していた。

前出のヒッブス研究員は、6月17日、「NSGは米印取引をすでに認めてしまっていることから、中国のもたらした難題に対して、もっとも不満を引き起こさない綱渡りのような解決策を導き出すよう迫られるだろう。」と語った。

またヒッブス氏は、「NSG加盟国の中には、2004年の原子力協力協定を使って中国の対パキスタン輸出を例外扱いすることがダメージを最小限に止める方策だとの見方もあるが、それが信頼に足る解決策かどうかはわからない。もし中国が例外扱いを求めるようなら、NSG加盟国は、パキスタンとの限定的な取引を容認する代わりに、核保全と不拡散上の措置を採るよう中国に求める可能性もある。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
核不拡散体制には三重基準がある(ジョン・バローズLCNP事務局長インタビュー)
|米印関係|原子力協力の商業化以前にそびえるハードル

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken