【国連IPS=タリフ・ディーン】
「9か国が保有する世界の核兵器備蓄は、このところわずかしか減っていない。他方で核戦力の近代化は急速に進んでいる。」とストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が15日に発表した最新の年鑑で警告している。
同年鑑によれば、米国とロシアが継続的に核戦力を削減し続けているため、世界の核弾頭の総数自体は減少しているという。
「しかし、10年前より(削減の)ペースは鈍化している。」と同年鑑は指摘している。
同時に両国は、その他の核兵器運搬システムや核弾頭、生産に関しては、「広範かつ高価な」長期的近代化計画を進めているという。
現在、世界の9か国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が、約1万5850発の核兵器を保有し、そのうち4300発が作戦配備の状態にある。さらに、おおよそ1800発が、警告即発射態勢に置かれている。
SIPRIのシャノン・カイル上席研究員は、「核軍縮を優先的に進めることへの国際的な関心が改めて高まっているにも関わらず、核保有国で進められている(核戦力の)近代化計画は、どの核保有国も近い将来に核兵器を放棄する意図がないことを示しています。」と語った。
「アボリション2000」調整委員会の委員で「核時代平和財団」ニューヨーク支部のアリス・スレイター支部長はIPSの取材に対して、「SIPRI年鑑を読んで残念に思ったのは、9つの核兵器国すべて、とりわけ、米国・ロシア・英国・フランス・中国の5つの主要核兵器国が核戦力近代化を進めていることです。」と語った。
「1970年に発効し95年に無期限延長された核不拡散条約(NPT)で5大国は、『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行うこと』を約束しています。」とスレイター氏は指摘した。
またスレイター氏は、「にもかかわらず、5年毎のNPT運用検討会議で何度も繰り返されてきた約束違反(例えば米国に関して言えば、新たな爆弾製造工場2か所と、新型核兵器を運搬するミサイル・爆撃機・潜水艦に関して今後30年間で1兆ドルを投入する)によって、世界が化学・生物兵器に関してそうしてきたように、核兵器を違法なものとして禁止し、核兵器を禁止する条約の交渉を始めるよう求める非核兵器国による世界的なキャンペーンが新たに力を得てきています。」と語った。
SIPRIによれば、米国とロシアを別にすれば、他の核保有国は核弾頭数についてはずっと少ないものの、新型の核兵器システムを開発・配備するか、今後そうする意図を明らかにしている。
中国の場合は、核弾頭数自体も微増するかもしれないという。
インドとパキスタンは核兵器生産能力を拡大しており、新たなミサイルシステムを開発している。
SIPRI年鑑は、北朝鮮は軍事的核計画を推進しているが、その技術的進展度合は公的な情報源だけからは判断できないとしている。
この最新のSIPRI年鑑は、昨月までニューヨークで開催され失敗に終わったNPT運用検討会議の後に出された。
SIPRIのタリク・ラウフ氏(軍縮・軍備管理・不拡散プログラムディレクター)は、「参加した161か国が努力の成果をほとんど示せなかったNPT運用検討会議の失敗は残念なことだった。」と語った。
最終文書に関する合意は、英国とカナダの支援を受けた米国によって阻止されたという。「これらの国が掲げた理由は、中東で核・生物・化学兵器と弾道ミサイルを禁止する国際会議に2016年3月に出席するようイスラエルに対して圧力をかけることに断固として反対する、というものだった。」
イスラエルは中東で唯一NPTに参加していない国であり、核兵器を保有していると言われる。
他にNPT運用検討会議で議論された重要な問題としては、核兵器の人道的影響をめぐる問題がある。オスロ(2013年3月)、ナヤリット(14年2月)、ウィーン(14年12月)で開催された「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)の結果を受けて、159の非核保有国がこの動きに賛同している。これらの会議では、いかなる国家、国際援助機関、その他の機関も、核兵器爆発が人間、環境、食料、社会経済に与える影響に対応する能力はないとの結論が出されていた。
これら諸国は、生物・化学兵器と同じように、核兵器に関しても法的拘束力のある禁止を求めている。
5つの公式核兵器国(中国・フランス・ロシア・英国・米国。安保理で拒否権を持つ常任理事国でもある)はそうした要求を拒絶し、核兵器が偶発的あるいは意図的に爆発させられる危険性はないと頑なに主張している。
「こうして、大量破壊兵器がない安全な中東を求める動き、そして、世界的な核兵器廃絶につながるようなステップへの機会は、少なくとも2020年に開催される次のNPT運用検討会議までは失われてしまいました。」とラウフ氏は語った。
「NPTの192の加盟国であっても、インド・イスラエル・パキスタンのようなNPT非加盟国であっても、この状態に甘んじているわけにはいきません。なぜなら核兵器の危険性は地球上の全ての人間に及ぶからです。」と、核の検証、不拡散、軍縮を取扱う国際原子力機関(IAEA)の高官を2002年から12年まで務めたことがあるラウフ氏は語った。
スレイター氏はIPSの取材に対して、「この2年間、ノルウェーやメキシコ、オーストリアにおいて、核戦争の壊滅的な人道的帰結の問題に関して、市民社会と諸政府が協力して一連の会議を成功させてきました。」と語った。
成果文書を採択できず決裂に終わった2015NPT運用検討会議でも、107か国が、核軍縮に向けた「法的欠落を埋める」ことを求めたオーストリア主導の「人道の誓約」に署名している。
こうした非核保有国は、核保有国の「安全保障上の」懸念の人質となることを拒否し、核保有国抜きでも核兵器を違法化するために前進すると誓っている。
スレイター氏は、「とりわけ南アフリカ共和国は、現在の核を「持つ国」と「持たざる国」の体制を『核のアパルトヘイト』に例えるなど雄弁な発言が会場の注目を浴びました。」と語った。
広島・長崎への原爆投下から70年、交渉が始まることが期待されると同氏は言う。
「核保有国の参加がなければ効果的でないとの意見もありますが、口では『核軍縮を』唱えながら、他方では米国の『核の傘』の下で軍事同盟に守られているいわゆる『イタチ国家』〈米国の核の『傘』の下にある国々:原文『weasel states』のweaselには『ずるい人』という意味もある:IPSJ〉に対するプレッシャーは大きくなるだろう。」とスレイター氏は語った。
先週、北大西洋条約機構(NATO)の構成国であり、米国の核の庇護の下にあるオランダ議会が、法的欠落を埋めるための「人道の誓約」の賛同を求める決議を採択した。
「米国の核抑止力に依存しているNATOやアジア諸国が、世界各地で核兵器禁止条約を求める活発な草の根キャンペーンからの圧力を感じる中、世界を支配し私たちを人質にとってきた核保有国と同盟国間の結束力は弱まるだろう。」とスレイター氏は語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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