【ヘルシンキIPS=ルナス・アタラー】
「経済危機以降、移民はますます人種差別と外国人迫害にさらされるようになってきています。」―そう語るのは、国連総会のナシル・アブドルアジズ・アルナセル議長である。13日にヘルシンキで開かれた移民とコミュニケーションに関する会議でのことだ。
国際移住機関(IOM)とフィンランド外務省、インター・プレス・サービス(IPS)が共催した情報の流れと対話のバランス配分に関する会議で発言したナセル氏は、移民に関する議論の力点をどう変えるか考えるためには、「事実を見つめ、根拠のない社会通念(Myth)を終わらせる必要があります。今日、南北移民とともに多いのが南南移民です。ほとんどの移住は、近隣諸国や同一地域内での短距離で起こっているのです。」と語った。
南から北への移民の流れに対する嫌悪感が増す状況下、アルナセル氏は、「アラブ・湾岸諸国では、労働力人口の半分以上を移民が占めています。彼らは出身国の家族に対して送金しますが、2010年にはその総額が約3250億ドルにものぼりました。この数年間送金にかかる手数料が安くなってきているので、多くの家族が貧困から救われているのです。」と語った。
またアルナセル議長は、「移住が最適の条件下で最適の結果をめざしてなされるよう、国際協力が必要です。国際組織は、移住によって移民の出身国を利するようにしなくてはなりません。」と語った。
こうした必要性と事実が知らされ、よく理解される必要があるという点で、会議の発言者らは一致した。移民が労働している国の経済にもたらす利益と、出身国の発展にもたらす寄与について事実が知られなければならない。
IOMのウィリアム・レイシー・スウィング事務局長は、「移民が社会に敵対心を引き起こしている状況の下では、こうしたことが緊急に求められています。今日、反移民的な感情が世界を席巻していますが、移民に関する正しい見方を作りあげていくことが必要です。」と語った。
またスウィング事務局長は、「政策に影響を及ぼしているのは、事実よりもメディアの作り出す言説や世論であり、しかもその影響は概してマイナスのものなのです。その結果、外国人嫌いが社会に再来しており、(移民の)圧倒的多数による圧倒的にプラスの貢献が、あっさりと忘れ去られているのです。」と語った。
「移民に関する根拠ない社会通念には、今日多くの共通点が確認されていることから、こうした誤った通念を解消していく必要があります。その典型的な事例として『ほとんどの移住は国境を越えて行われる』というものがあります。しかし事実は、同一国内の移住はが国境を越えたものより3倍もあるのです。最近の報告では、中国における、国内移住は2億1000万人にも上り、これは、世界の移住の2億1400万人とほぼ同じ数字なのです。」とスウィング事務局長は語った。
「経済格差のある状況では移住は不可避」だとスウィング氏は考えている。フィンランドのハイディ・ハウタラ国際開発相は、「多くの人は、逃亡したり、難民になったり、よその地域でまともな暮らしと仕事を見つける必要性に迫られているということを私たちは知っておかねばなりません。こういう人々を保護する必要性があるということに私たちはもっと敏感であらねばなりません。フィンランド政府は、将来の開発政策の策定にあたって、移民の問題も念頭に置くことになります。」と語った。
またハウタラ大臣は、「女性と子どもの権利に特別の地位を与えること、その権利は移住のすべての段階における中心的な問題であることを強調しておきたい。」と語った。
移住に関してより多くの知識が必要であることは、衆目の一致する点である。「私たちはみな移住の影響を受けているし、それは実際私たちの社会で起きていることなのです。しかし、議論に際して情報は十分得られているでしょうか?メディアと国際組織の役割が問われるのは、まさにこの点にあります。」と国際移住機関(IOM)幹部のピーター・シャッツアー氏は語った。
またシャツァー氏は、「世界は、移住の影響があらゆる面においてあることを次第に理解するようになってきています。2000年のミレニアム開発目標(MDGs)では、目標のうち7つまでもが移住との関係があるにもかかわらず、移住についてまったく触れられていなせんでした。しかし現在の議論は、移住問題を取り込む方向に進みつつあります。」と語った。
IPSのマリオ・ルベトキン事務総長は、「将来的には移住問題の比重は増してくるでしょう。移住を、環境問題、気候変動、災害問題、水や雇用、人権、女性、子どもの問題と関連づけねばなりません。移住問題に関連して実際に何が起きているのかについて、われわれはもっとよく伝えなければならない。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
関連記事:
|イラク|女性の人身取引が増加
貧困国が難民受け入れ負担の大半を負っている(アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官)
もう一つのアフリカが出現しつつある(パオラ・ヴァレリ)