ニュース|輸送と環境|若き企業家、輸送業界の明日を見つめる(佐久間恒好)

|輸送と環境|若き企業家、輸送業界の明日を見つめる(佐久間恒好)

「いかに文明が進んでも、人の心を機械的に動かすことは出来ません。」と佐久間恒好氏は自身の哲学的な所見を述べたうえで、「“真心をこめて運ぶ”ということは、同時に“御客様のこころ(想い)”を運ぶことであり、それが荷主様の期待にお応えすることと信じています。」と語った。

多才で先取の気概に富む佐久間氏は、しっかりと地に足をつけながら未来を見据えた若き企業家である。佐久間氏が経営する株式会社商運サービスは、東京都練馬区に本社を置き、従業員40名、保有車両台数38台の地元の優良企業で、一般貨物及び産業廃棄物輸送のほか、梱包・荷役、保管・物流管理、及び「野菜工場」を手掛けている。

佐久間氏は大学4年の時、父で創業者の勇が大病で倒れたことから、突然会社の運営を任されることとなった。しかし彼が実質的に経営者として手腕を発揮するには、まず「トラック野郎」という言葉に象徴される当時の雰囲気を改革するという難題を乗り越えなければならなかった。

【東京IDN=浅霧勝浩】

 佐久間氏は2004年に父が他界すると、代表取締役に就任した。彼は、「『もっと生きたい』と願った父が今も生きてくれていたら…」と、現実を受け入れながらも創業者の無念に想いを馳せている。佐久間氏の母も、肺がんによる不自由を抱えながらも発病後14年という年月を立派に生き抜いた。

「私はこうして健康に生きていられるということだけで幸せだとつくづく思うのです。しかも私には父が遺してくれた会社と一緒に働ける素晴らしい従業員がいるのです。」と佐久間氏は語った。

このような社長を得て、商運サービスの従業員・管理職員の間には、共に会社をとおして社会に貢献していこうという、強い絆で結ばれた共同体意識が根付いている。佐久間氏は、このような社員の協力を得て、徐々に経営規模と取引先を拡大していった。現在、荷主様企業には、日本旅客鉄道株式会社(JR)、埼玉生活協同組合(埼玉COOP)、東京銀座の老舗デパート「銀座和光」、モンドセレクションで2010年最高金賞を受賞した堂島ロールで有名な株式会社モンシュシュ等がある。
 
 商運サービスは、2008年以来、トラック運送事業者の安全・安心・信頼の証となる「安全性優良事業所(Gマーク)」(2年毎に更新)に認定されている。同社では、安全運転・法定速度をモニターするタコグラフを導入し、経営者と従業員が一体となった完全法定遵守に努めている。(2011年3月現在、「Gマーク」を取得している運送会社は15,197社で全体の18.1%を占めている。)

また商運サービスは、日本全国に430拠点を有する「ハトのマークの引っ越し専門」で知られる「全国引っ越し共同組合連合会」に加盟している。

さらに「環境問題」は、佐久間氏が大変重視している分野である。商運サービスは、燃費の向上とCO2排出量削減を目指すグリーン・エコプロジェクト(東京都トラック協会が運営)に参加し、ドライバー一人一人が燃費目標をたて、タコグラフを活用した運転実績の検証を行うなどの努力を通じて環境への取り組みを推進している。

今回の取材で佐久間氏は、昨年就任した東京都トラック協会青年部本部長としての取り組みと抱負について語ってくれた。佐久間氏は、同時に、東京都と近隣7県(神奈川県、千葉県、栃木県、埼玉県、群馬県、茨城県、山梨県)からなる地域組織「関東トラック協会」の青年部会長、並びに全日本トラック協会傘下の全国組織「全国物流青年経営者中央研修会」(北海道、東北、関東、中部、北信越、近畿、中国、四国、九州地区から構成)の代表幹事も務めている。

佐久間氏は、これら3つの立場で全国を回り、会員と協議する中、長引く経済不況の影響が東京よりも地方の運送会社により深刻に表れている実態を目の当たりにしてきた。とりわけ、地方諸都市の若者人口の減少と運送業への就職を希望する若者が減ってきている現状を憂慮している。

「地方では運送会社の従業員の平均年齢が50代後半というケースも珍しくありません。地方の深刻な状況に比べれば、当社も含めて、東京の運送会社は恵まれていると思います。」と佐久間氏は言う。佐久間氏は、東京の会員にも、国全体として運送業界が直面している厳しい現状について危機感を共有してもらいたいと考えている。

東京都トラック協会青年部には現在507の会員が加盟しているが、従来青年部主催の交流行事に出席する会員数はかなり限られたものであった。そこで佐久間氏は青年部本部長就任以来、「まずはこうした交流行事に顔をだすことから共に活動していこう」と呼びかけてきており、少しずつ参加者が増えてきている。

佐久間氏が青年部の活動を通じて最も重視しているのは、会員である青年経営者たちと、運送業界の将来は自分たちの双肩にかかっているという意識を共有していくことである。この点について佐久間氏は、「東京都トラック協会の親組織においても、業界が直面している問題に対する危機感を私たちと共有する先輩方が増えてきており、今後の青年部の活動に希望を見出しています。」と語った。
 
また佐久間氏は、3組織のトップとして、運送業の将来を見つめた社会目標の実現に関しては、不動の信念を貫く覚悟でいる。彼は、東京都トラック協会の練馬支部青年部部長時代、小学生の子ども達を対象とした大型トラックを使った安全教室(内輪差や死角についての実地研修を含む)を思い立ち、近くの小学校に交渉に訪れた。ところが対応にでた校長は「大型トラックを入れたら校庭が傷む」として取り合おうとはしなかった。

そこで佐久間氏は、校庭は非常時に大型消防車が入れるように設計されている点を指摘し、安全教室実施の重要性を訴えた。校長はそれでも納得していなかったが、判断をPTAに委ねることに同意した。いざ父兄が佐久間氏の提案を知ると、是非実施してもらいたいということになり、地元警察も後援に入って大盛況の内に交通安全教室は実現した。その後、この安全教室は様々な学校からの要請で実施され、商運サービスは、2009年11月には石神井警察署から感謝状を授与された。

この経験から手応えを感じた佐久間氏は、安全教室を全国のトラック協会と警察署との協力のもと、10月9日の「トラックの日」に合わせて全国的に実施できないものか模索している。

また佐久間氏には、自身に課した大きな目標がある。それは、トラック運転手の社会的な地位を、航空機のパイロットや船舶の船長と同じくらい社会的なステイタスが持てる職業になってほしいという目標である。確かに、トラック運転手こそが、産業化社会を維持する上で欠かせない陸上輸送の基幹を担っている存在である。そのことからも、トラック協会の青年部が、佐久間氏のこうした大望を実現するために果たせる役割は大きい。

このような志を抱いている佐久間氏が、今年1月に開催された「全国物流青年経営者中央研修会」年次会合において、代表幹事として仲間と共に打ち出したスローガンが、「原点回帰、未来へ繋げ、絆と想い」である。

「『原点回帰』とは、私たち一人一人が運輸業界に夢と希望を持って踏み込んだ時の気持ちをもう一度思い出そうという意味です。『未来へ繋げ』とは、すなわち次世代に繋いでいくこと。そして『絆』とは、先輩方がトラック協会を通じて育んでこられた貴重な人間関係を大切に継いで育んでいくこと。そして『想い』には、決して諦めないで、子供たちのために立派な会社を作っていくというメッセージが込められています。」

「私は、このスローガンの下で、全国の青年経営者の大切な仲間達とともに、明日の運送業界全体のために歩んでいきたいと思っています。」と佐久間氏は抱負を語った。

また佐久間氏は、関東トラック協会青年部会長に就任以来、この関東組織には、全国各地の地域組織を牽引していく存在になってもらいたいとの思いから、新たな継続事業を模索していた。「私は、大きな予算をかけなくても、会員が参画しやすく、しかも社会的なインパクトを生み出せる、そんな事業を探していました。ですから、どんぐりを使った事業を見出した時は、大変嬉しく思いました。」

「関東トラック協会青年部会の周年行事としてたまたま研修先として訪れた化粧品会社にて、そちらの社員と地元住民とが連携し、どんぐりを拾い苗木を育て、植樹している活動を知ったのです。」と佐久間氏はその時の喜びを振り返って語った。

その後、商運サービスの職員が1890個のどんぐりを拾ってきて、会社で苗木を育てている。佐久間氏は、関東トラック協会青年部の次回総会で、この「どんぐりの苗木を作る」計画を同協会の新規事業として提案するつもりである。

「これならば、協会のメンバーがお金をかけることなく、年間を通じて気軽に参加することができます…つまり、ゴルフコースや山に出かけた際に、どんぐりを拾って、簡単に苗木を育てられるのです。そしてそうした苗木を、関東トラック協会として、例えば、10月9日の『トラックの日』に合わせて環境CSR(企業の社会的責任)事業として寄付することもできるのではないでしょうか。」

どんぐりの苗木が育つには2年かかる。まさに「大きな樫(かし)も小粒のどんぐりから(偉人も偉業も一夜にしてなったものはないから辛抱が大切である)」という諺(ことわざ)のとおりである。

どんぐりは、古代ギリシャで庶民の食卓にのぼったり、日本では縄文人があく抜きして焼き上げたものを食したりするなど様々な文化において貴重な栄養源であった。しかし現代社会においては、もはや重要なカロリー源ではなくなっている。
 
 2010年11月、佐久間氏は「野菜工場」という新規ビジネスに乗り出した。「わが社は、渡辺博之教授を中心とする玉川大学との最先端の共同研究・開発を行なうアグリフレッシュ株式会社とアライアンス契約を結び、山梨県韮崎市に完全人工光型植物工場を建設しました。私たちは、パートナーに野菜工場の運営と営業を委託し、顧客に対して工場の野菜を搬入しています。」

佐久間氏の野菜好きは父親譲りである。野菜工場は無農薬の理想的に調整された環境の下で年間を通じた安定的な野菜栽培を可能にしている。また、天候・季節・土壌条件を問わず、露地栽培よりはるかに大きな単位面積当たりの収穫量を実現している。

「現在野菜工場では、例えば、バジルを市場に一括売りしたり、赤茎ほうれんそうを栽培し、コーヒーとイタリア料理を提供するカフェとして全国展開している有名レストランに出荷しています。」と佐久間氏は誇らしげに語った。

赤茎ホウレンソウは、ビタミンA、C及び鉄分、カルシウムを豊富に含んでいる。また高タンパク質、低カロリーの縁黄野菜である。

また植物工場は、もうひとつの異なった観点から重要な会社の資産となっている。それには事業の多角化と雇用の保障を確保したいという佐久間氏の狙いが隠されている。「これによって、もし経済状況が悪化し、やむなく運転手の削減を迫られる事態になったとしても、『野菜工場』での仕事を職員に提供できるのです。」と佐久間氏は説明した。これも、業界の明日を見つめたうえでの佐久間氏の経営者として一つの解答である。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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