SDGsGoal15(陸の豊かさも守ろう)|フィリピン|パラワン島の先住民族の土地保護に立ちあがる若者達

|フィリピン|パラワン島の先住民族の土地保護に立ちあがる若者達

【プエルト・プリンセサ(フィリピン・パラワン島)=ニーナ・パラギ】

現代の基準では考えられないような偉業である。この辺鄙なフィリピン・パラワン島出身の6人の若者が、土地所有をめぐって巨大な勢力と闘って勝ったのだ。先住民族からの支持を直接取り付けたうえで、彼らが暮らす4万ヘクタール以上の土地が自然保護区であることを政府に法的に認めさせたのである。

小規模な非営利団体「フィリピン持続可能センター」(CS)がこのキャンペーンを率いて、先住民バタク族を2014年から支援してきた。彼らはどうやってこの偉業を成し遂げたのだろうか。 CSの共同創設者で顧問のカリーナ・メイ(KM)・レイエス氏は、この点について、「この7年間に及ぶ気骨と、『日々の逆境に立ち向かう粘り強さ』によるものだと語った。CSのスタッフは、土地保全・森林再生・市民科学を通じてフィリピン最後の熱帯雨林を守るというミッションを遂行している。

この話は、国際自然保護連合(IUCN)を通じて世界に知られることとなった。次の舞台は10月31日から11月12日までグラスゴーで開催される世界的なフォーラムである国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)だ。レイエス氏がCSを代表して参加している。

COP 26 Logo
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COP26では、レイエス氏が世界的なNGO「一本の植樹(One Tree Planted)」とともに新たな役割へと踏み出す。今後、ASEAN(東南アジア)地域で気候変動の問題を訴えながら、この話は、フィリピン・パラワン島から世界へと広がっていくだろう。

CSの6人の若いメンバーは、パラワン島の熱帯雨林保護を求めて活動を始めた時、17歳から28歳までの年齢だった。そのほとんどが「世界で最高の島」(『旅行とレジャー』誌)と謳われるパラワン島の手つかずの自然の中で育った。

先住民族の人々から親しみを込めて「KM」と呼ばれているレイエス氏は、フィリピンの出自を持ち、オーストラリアで生まれた。10年前にパラワン島を訪れた際、彼女はこの島に惚れ込み、オーストラリアには戻らなかった。彼女は今、長期的かつ持続可能な島の環境開発と保護を誓い、少なくとも70カ国に展開している国際団体「自然と民衆のための高い意志の連合」(HAC)にこの問題を持ち込もうと決意している。

その準備のためにCSは、フィリピンで実に740人もの若者を集めたオンラインフォーラムを最近開催した。基調講演はザカリ・アブドゥル・ハミッド氏が行った。ハミッド氏は1992年のリオ地球サミットで採択された国連生物多様性条約における世界的な専門家「自然のためのキャンペーンに向けた大使・科学顧問」である。

クレオパトラの針(パラワン島の山の名称)・重要居住地」(CNCH)と名付けられたCSのパラワン島でのプロジェクトは、地元や各国政府、国際機関、営利企業からの支持を集め、現在のような状況がもたらされた。

重要な居住地として2016年に「クレオパトラの針」の保護を勝ち取ったことは、画期的な意義を持つと評価できる。消えつつあるパラワン島のバタク族が生活するフィリピン最大の重要な居住地であり、彼らが先祖代々守ってきた土地なのである。世界のどこにもいないパラワン固有の61種の動植物、31種の絶滅危惧種も生息している。

カラクワサン地区の元酋長であるテオドリコ・ヴィラーリカさんは、IDNの取材に対して、「森や土地は私たちの生活の源であり、生存の鍵を握っています。だから守られねばなりません。私たちバタク族は、伝統的に森のある場所から別の場所に移動しながら生活しています。儀式を行い聖なる集まりをもつのは、私たちの文化的慣習の一部なのです。」と指摘したうえで、「例えば、(聖なる木である)アルマシガの樹液と蜜を採取する際には、事前に儀式を執り行います。私たちの森では、私たちの生存に不可欠な聖なる動物や植物がたくさん生息しています。多くの先住民族の社会は食べ物や水源を森に依存しているのです。」と語った。カラクワサン地区は「クレオパトラの針」保護区域への入り口となる場所だ。

SDGs Goal No. 15

インドネシアやマレーシアと並んで、フィリピンはきわめて多様性に富んだ森や海洋、湿地帯をもつ世界の17カ国のうち、アジアに位置する国の1つである。CNCHの西の境界は「新・自然の七不思議」の1つとみなされるプエルト・プリンセサ地下川国立公園であり、ユネスコの世界遺産地区として登録されている。

「クレオパトラの針」の広大な保護区域4万1350ヘクタールでのCSの活動には、パラワン島の首都プエルト・プリンセサ近くに残されたフィリピン最後の原生林での活動が含まれる。ヴィラーリカ酋長の属する地域に加えて、CNCHはその他6つの重要地区で活動している。しかし、その森に住んでいる狩猟採集民であるバタク族の人口は急速に減少し、現在は200人ほどしかいない。パラワン島に遺された最後の熱帯雨林を保護しなくてはと、若者たちは焦りにも似た気持ちを持っている。

スペインによる植民地化以前、フィリピンの島々の90~95%は森林であった。現在、国全体で森林はわずか3%しか残されておらず、そのほとんどがパラワン島にある。露店坑や過剰な農地使用、密猟、違法伐採によって森林は大部分が失われてきた。

CSの活動を貫く根本的な価値観は、地域から始め、活動の成果を地域に返す、ということだ。レイエス氏は、地域社会なしには環境開発は持続可能にならないと考えている。

レイエス氏はIDNの取材に対して、「2030年までに、地球上の陸と海の少なくとも30%を保護するという目標を達成しようとすれば、先住民族や地域社会に肩入れしなくてはなりません。先住民族の土地の権利と先住民族の居留地や保護区域を承認し保護していく必要があります。また、先住民族が太古の昔から果たしてきた役割、つまり自然保護活動の先頭を切ることができるように、先住民族社会への現金移転を進める必要があります。」と語った。

レイエス氏は、先住民族が世界人口に占める割合は5%に過ぎないが、地球の生物多様性の80%を守っていると指摘する。また、その先住民族の土地は世界の自然の土地の37%を占め、世界の地上の炭素のうち25%を保留している。

「先住民族として、私たちは、アルマシーガの木の過剰伐採が自分たちの生活にどんな被害をもたらすかを直接見てきました。アルマシーガやラタン椰子、蜜のような私たちの聖なる資源を使い過ぎないように私たちバタン族は気を使っています。使い過ぎれば将来的には何もなくなってしまうと考えているからです。」と元酋長のヴィラーリカさんは語った。

The young members of the Centre for Sustainabilty (CS) team with co-founder and advisor K.M Reyes
in extreme left.資料:J.R Lapuz

ヴィラ―リカさんはまた、「自分たちの自然利用のやり方が将来の世代に利益を与える。」と指摘したうえで、「アルマシーガの木が伐採前に十分育っているように、植樹と伐採時期を適切に選んでいます。樹脂を取るのも適切な時期のみ行っています。」と説明した。彼はさらに、土地の劣化を防ぐためにCSとともに3000本の木を植え、「育てるのに一生を要する大事な木」のために1万本の苗を再生したと語った。

「先住民族の社会は、同じ成果を残すのに、世界の自然保護機関の予算の僅か16~23%分しか費用をかけていない」とレイエス氏は言う。彼女は、その弛みない努力が評価され、「ナショナル・ジオグラフィック・エクスプローラー」補助金を2018年以来受けている。またCSとの関連で、「フィリピンの若者組織トップ10」賞も受けている。

オーストラリアのニューイングランド大学で平和学・国際学の学位を持つレイエス氏は、自らの土地の持続可能な発展を最もよく実現できるのは先住民族であると考えている。先住民族の声に耳を傾けパートナーになろうという人であれば誰に対してであっても、彼女はこの訴えを続けている。

「先住民族のバタク族は初めて、土地の保護者として、『クレオパトラの針重要居住地宣言』を通じて、彼らが土地に対して第一次的な権利を持つと認める法的文書を手にした。」とレイエス氏は指摘する。「私たちは、かねてより先住民族が持ってきた知恵によって、私たちの最後の原生林を保護し続けることができると意思決定者たちに訴えることで、壁を打ち破ってきました。彼らは、先住民族の知恵に目を向け、そこに賭けるべきです。」

Map of the Philippines showing the location of Palawan./ English Wikipedia

ヴィラーリカさんは、「レイエス氏と、彼女のCSのチームは、私たち先住民族の文化を理解するために粘り強く協力してくれている。だから、彼らが私たちのためにしてくれていることに本当に感謝していいます。CSは(キャンペーンの)最初から私たちと共にあり、クレオパトラの針が重要な居住地だと法的にいよいよ宣言されたことは、一緒に勝ち取ってきた大きな成果だと思っています。」と語った。

CSはバタク族の多くの人々を野生生物の守り手として育て、パラワン島のその他の先住民族の土地を守るさらなる闘いに備えている。CSは、引き続き、野生生物の密猟や違法伐採、土地の強奪、大規模な採掘、そして今では開発業者による侵略に立ち向かっている。

「私たち多くの若者にとっては、本当に『時間との競争』という感じになっている。気候変動に影響を受けているパラワンの先住民族たちが、自分たちに直接影響を及ぼしている問題に関して世界の議論に参加することすらできないという事実を私たちは十分意識しています。私たちの土地であるパラワンは地政学的なホットスポットに位置しているのです。」とレイエス氏は語った。

パラワン島は領土紛争の対象になっている南シナ海に面し、フィリピン政府はこの南シナ海の海域に同国の排他的経済水域を設定している。「(このパラワン西方沖の海域の一部は現在、中国が領土権を主張する海域と重なっている。だからこそ、この愛すべき島に対する私たちの活動の緊急性がより増しているのです。」とレイエス氏は語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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